第10話:あなたは「謝る」ことができますか?
今回の語り部は、僕こと前園孝介ではなく、井戸端海梨が務めます。
理由は、まぁ読んでいけばわかるかも、です。
今日の午後からは授業参観。
私のおかあさんも、もう老化…、じゃなくて廊下に来てる。
ま、老化もかなりきちゃってるんだけど、それは置いといて。
今日は、柴村くんが学校に来た。
そのせいか、クラスはなんか落ち着かない。
後ろの保護者も、2,3人集まっては、柴村くんのほうを指さして話している。
本人たちは小さい声で話しているつもりでも、会話の内容は確かに聞こえる。
ここで聞こえるんだから、勿論、柴村くんの耳にも。
午前中は何事もなく終わった。
でもまだ、怒ってるよね…。
何で私って人に嫌われるようなことばっかりするんだろ…?
と、一人物思いにふけっている間にも、人の数はどんどん増えている。
「ん?」
あの夫婦で来てる人の女性の方、なんか見覚えが…。
「……あ」
思い出した。
あの人は――――
「柴村くんのおかあさん!?」
つい、指をさして叫んでしまった。
『柴村』という単語に反応し、教室じゅうの視線がそっちに集まる。
柴村くんも、驚いて後ろを見る。
でも、その口から出た言葉は、あまりに意外なもので。
「親父ぃ!!」
……え。
え?
ええぇぇぇぇえ!!??
お父さんって、殺人犯の!?
確かに夫婦っぽいけど、まさかそんなこと……。
「おっ、琢人。元気にしてたか?」
「なんで親父がいるんだよ!?」
「ああ。おまえが『殺人犯の息子』だと勘違いされてるって聞いたんでな。アメリカから飛んできたんだ。全く、いくら転校したばかりとはいえ、そのくらい自分で主張しろ」
アメリカ!?
クラスは静まり返って二人の会話を聞いているが、当の二人は全く気にしていない。
「本当に、柴村くんのお父さんなんですか?」
孝介くんが立ち上がって訊いた。
そりゃ、私も訊きたい。
だって、柴村くんのお母さんは認めたのに。横でニコニコしながら立っているけど。
「そう。今ここにいることが証拠だ」
「じゃあ、御兄弟の方とか…? 親戚に…」
孝介くん、粘らなくてもいいのに。もう『殺人犯の子』ではないって証明できたんだから…。
「ん〜。私は一人っ子なんだが、証拠はないな」
「だったら…」
「確かに証拠はないが、よく考えてみてくれ。父親が兄弟や親戚と似ている名前を、息子につけたがると思うかい?」
なるほど。言われてみればそうかも。
「そうだ、琢人。おまえ、女の子に刃物向けたらしいな」
「………?」
「今からその子に謝ってきなさい」
「え? でも……」
「まだ謝っていないんだろう?」
「……わかった」
そう言うと、柴村くんは私の前にきた。
「この前は本当にすいませんでした」
なんで柴村君くんが謝るの?
悪いのは私じゃないの?
「あの時は私もごめんなさい」
と謝ると、クラスメイトの人達も、
「疑ったりしてゴメン!」
「申し訳ありませんでした」
「スマンかった」
「ごめんなさい…」
次々と柴村くんに頭を下げている。
「!! い…いえ、大丈夫、です…」
いきなりの展開にとまどっている柴村くん。
キーンコーンカーンコーン……
いいタイミングでチャイムが鳴ったので、みんなそれぞれの席に着く。
どこからか、作戦成功、と聞こえたような気がした。
なんだかよく分からないうちに終わった昼休み。
次はこの事について、主人公・孝介から説明があると思います。
そんでもって次話で第一長編「転校生は殺人犯の息子!?+地味」は終了します。




