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10万円

作者: imomo

雨の降りそうな曇り空。一人の男がパチンコ屋の前に立っていた。

「働くのだりーな。パチンコでも行くか…」

ドンッ

唐突に右肩に衝撃を受けた。

「痛って」

顔を上げると、目つきが鋭くいかにも柄の悪そうな黒い背広を着た男が立っている。

「なんだテメェ?ぶつかって来てんじゃねえよ。おい、10万だ!」

ちっ、面倒くさい奴に絡まれたな

「いや、ぶつかって来たのはそっち…」

最後まで言葉が続くことは無かった。男が大きい骨ばった右手でこちらの口元を掴んできたのだ。頬に親指が食い込んだ。

「いいか、2週間以内に10万用意しろ。用意ができたらここに電話しろ」

そう言って男はポケットに紙をねじ込んだ。

「逃げたら、殺す」

そう言い捨てて男は去っていった。

この3分程度のやり取りで極度の疲労に襲われた。当然パチンコ屋に行く気になどならない。

「10万…」

途方も無い額ではないが、むしろそれが現実味を帯びていた。

いっそ警察に相談しようかと思ったが、もし本物のヤクザであれば言った後の報復が怖い。

とはいえ金が無い。2週間で10万を用意できるほどの貯えも無かった。しかし用意しなければならない。逃げたら、殺す。男の声が脳内で響いた。さながらドラマのように東京湾に沈められるのだろうか。そんな事をされてはたまらない。

借金をしよう。明日どこかの消費者金融にでも借りに行こう。そう考え、パチンコ屋を後にした。


翌日、早速近くの消費者金融へ行った。

「○○様、申し訳ありません。現在、○○様に融資を行う事ができません。」

理由を聞いてもはぐらかされるだけで答えなかった。さらに、その会社だけでなく他の場所でも同じ事を言われた。なぜか金を借りる事ができない。

借金はこれまでなんとか返済してきたし前科も無ければ破産もしていない。

あの男に会ってからである。あの目つきの鋭い痩せた男。もしや、と思って昨日ねじ込まれた紙を開いた。

そこには電話番号が律義に書かれていた。やはり夢ではない。せめていたずらであれば良かったのに、紙に書かれた無機質な番号がこれが現実だと無情にも告げてくる。

おずおずと携帯電話を取り出すとその番号を入力した。何回かコールが鳴った後しゃがれた厳つい男の声がした。

「もしもし」

私は少し恐縮しながら要件を述べた。

「あ?金が借りられない?それはウチのシマではお前に金を貸さないことになってんの!」

男は語尾を荒らげながら言った。

「そんな事されたら10万用意できませんよ!」

「とにかく、2週間以内に10万だ!アルバイトでも何でも働けばいいだろうが!いちいちそんなことで電話してくるな!」

ブツッと一方的に電話を切られた。

それからコンビニや飲食店で毎日働くことにした。アルバイトを5つ程掛け持ちし、死にものぐるいで働いた。みるみるお金が貯まり、1週間経つ頃には6万程貯まっていた。家賃を払い食費をぎりぎりまで削った。ここまで必死に働いたのは人生で初めてだろう。なにしろ命がかかっているのだ。

そうして2週間が経ちその日はやってきた。

目つきの鋭い痩せた男と出会ったパチンコ屋の前でその男に電話をかけた。

「もしもし」

前回と同じ若干しゃがれた声だった。

「10万用意出来ました。今パチンコ屋の前にいます。」

なぜか自分が誇らしげな口調だった気がした。

「そうか、キッカリ10万なんだな?」

「はい、今朝ATMで下ろしてきました。あの、本当に10万渡せば殺さないでくれるんですよね?」

殺さないでというワードに横を通り過ぎた歩行者がちらっと振り向いた。電話の奥ではなぜか男が少し笑った気がした。

「ああ、きちんと持ってきていたらな。待ってろ、今からそっちに行く」

またしても男は一方的に電話を切った。

20分程してパチンコ屋の前の交差点から男が歩いてくるのが見えた。男もこちらに気付いたようで迷うことなくこちらへ向かってくる。

先に声をかけたのは男だった。

「ん? なんかお前変わったな」

「え、そうですか?」

予想外の言葉に少しうろたえながらも答えた。

「まぁいい、それより約束の10万は?」

男の顔が本物のヤクザになった。

「ええ、ここにちょうど10万用意しています。」

そう言って男に10万円の入った茶封筒を渡した。

男は神妙な顔つきになり札束を数えた。

「ちょうど10枚だ。」

男は言った。

「やった!これで自由に…!」

男はそれには答えずまだ中身の入った茶封筒をこちらに差し出してきた。

「ほらよ。」

面食らった。男の行動が理解できない。まさか、今度は100万用意しろと言うのでは…

焦って男に懇願した。

「いえ、そんなこれで終わりにして下さいよ」

男は若干いらついた顔になりながら言った。

「これはお前の稼いだ金だ。汗水垂らして働いたんだろ。俺にそれを受け取る権利はない。」

男は真剣な面持ちになっていた。しかし言っていることは今まで男の要求してきたことと矛盾する。

「でも10万渡さないと殺すって」

男は突然笑いながら言った。

「誰が渡さないと殺すって?用意しろと言っただけで渡せとは言ってねーよ」

ヤクザの10万用意しろとは渡せと言っているようなものではないか。つまりいたずらだったの

だ。今までの男とのやり取りは茶番で喜劇だったのだ。男にとってはさぞや傑作だったろう。

「とにかく10万は受け取らないし、それはお前のために使え。」

「なんでこんなことしたんですか!」

だんだんこの男の態度に腹が立ってきて思わず強く言ってしまった。

男は笑いをおさめて出会ったときと同じ顔で言った。

「今回の事は黙っていろ。誰にも口外するな。お前はこれから日常に戻り平和ボケしながら生きていくんだ。」

男はこちらの質問に答えずに茶封筒を渡して去ってしまった。追いかける気にもならなかった。とりあえず家に帰ることにした。

帰ると引きっぱなしだったの布団に横たわり今日のことを思い返した。

きっとこの特殊で非日常な経験を忘れる事はないだろう。

初対面の男に突然10万用意しろと言われ必死に働いて10万用意しいざ渡してみるともっともらしい言葉とともに返された…しかし案外悪い事でも無かったのかもしれない。結局10万円は手元にあるのだし定職に就いている訳でもなく、人生に飽きてきていた自分にとって刺激的な2週間だったと言える。そう考えると自分でも出来ることがあると、今までの自分には無かった何かを得る事ができたとそんな気がした。



多すぎず少なくはない人で埋まっているカフェの一席で傍から見ると柄の悪そうな目つきの鋭い男がどこかに電話をかけていた。

「もしもし?○○です。ええ今回のヤツも悪くない顔してましたよ。」

電話の向こうの人物が返答しているのだろう。男は相づちを打ちながら聞いている。

「あっはっは!それでこれで自由に!とか言い出すんですよ。ここは独房かってつっこみそうでしたよ。」

男はさも愉快そうに話している。

「これでまた無気力撲滅プロジェクトは一歩進んだということですね。さぞ大臣もお喜びになることでしょう。では、また。」

そう言って電話を切ると男はカフェの店員にコーヒーのお代わりを頼んだ。

こんにちは、imomoです。読んでいただきありがとうございます。

今回は政府のシークレットプロジェクトの様な話を書いてみました。絡んできた男が実は政府のエージェントだった…。

さて、自分の妄想を文字に起こすのは案外楽しく、小説を書くことにしました。これ面白いな変わってるなと思って頂けたら幸いです。良ければコメントを頂けたら嬉しいです。過度な批判はお控え下さい。豆腐が潰れます。

では、またの機会に。

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