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そしてデート当日の朝が来る

 ついになじみとのデート当日の朝となった。

 今日のために練習もばっちりだし、シミュレーションも何度も重ねてきた。

 妄想の中だけならすでに100回はデートをしている。

 もはやデートの達人といってもいいだろう。


 今は待ち合わせ場所である遊園地の入り口前に来ていた。


 なじみと一緒に向かってもよかったんだが、それだといつも通りだ。

 せっかくのデートなんだから、いつもとは違う雰囲気を演出したい。

 というなじみの提案で、遊園地の入り口前で待ち合わせをすることになったんだ。


 なのだが。

 なじみが来ない。

 まだ待ち合わせ時間の10分前なんだから来てなくて当たり前なんだが、なんだかんだいつも時間より早く来るから、こうして待っているのは慣れてなくてなんだか落ち着かない。


 もちろん早く会いたいという期待もあるが、それ以上に今日は新しい服を着ていた。

 このあいだ買ってきたばかりの、いわゆる勝負服というやつだ。


 俺的にはカッコいいと思うんだが、どうだろうか。

 喜んでもらえたらうれしいが、逆にダサいとか思われないか心配だ。

 なじみに嫌われたらそれだけでショック死してしまうぞ。


 おかげで、早く会いたいような、会うのが怖いような、不思議な気持ちだ。


 まだ開園時間前なのだが、入り口前にはすでにたくさんの人がやってきていた。

 もともとデートスポットとして人気だったみたいなんだが、映画の舞台となったことでさらに人が増えているらしい。

 時間的にもそろそろなじみが来る頃だろう。


 人が来るたびに、その中になじみがいるんじゃないかと思って目で追いかけてしまう。

 とはいえ、本当にたくさんの人がやってくるからな。

 いくらなじみマスターの俺でも、この中からたった一人の女の子を見つけるのはさすがに無理だった。


『映画のおかげでめちゃくちゃ混んでるぞ』


 人混みの写真と一緒になじみにラインで送る。

 返事はすぐに来た。


『こっちも電車がすごい混んでるよ~><』


 どうやらまだ電車のようだ。

 駅まで迎えに行こうかとも思ったが、下手に動くと入れ違いになりそうだ。

 この人混みの中ではぐれたら、見つけるのはさらに難しくなってしまう。

 だからここで待っているのが一番得策だ。


 その考えが間違いだと気がついたのは、それからすぐだった。


 人混みの中に一人だけ光り輝く天使がいる。

 ここにいるすべての人が俺たちのために道を空けてくれたかのように、まっすぐにその女の子の姿だけが目に飛び込んできた。


 気がつくと同時に走りだした。

 ほぼ同時に向こうも駆け出す。

 人の海にあふれる中で、俺たちは最短距離で手を伸ばした。


「なじみ!」

「コウ!」


 これだけの人が集まる中でも、俺たちは一瞬も迷うことなくすぐに見つけあえた。

 そのことがたまらなくうれしい。


「すげーかわいい女の子がいるなって思ったらやっぱりなじみだったな」

「すっごくカッコいい男の人がいるなって思ったらやっぱりコウだった」


 お互い同時にそう言って、同時に照れた笑みを浮かべた。


「おいおい、カッコいいはいくらなんでもほめすぎだろ。なじみにそう言ってもらえるのはうれしいけど」

「いくらなんでもそんなにかわいいなんて言われると照れちゃうよ。そう言ってもらえるのはうれしいけど」


「えへへ……」

「えへへ……」


 なんだこれ。幸せすぎる。

 おもわず見つめ合っていると、なじみの服に目がいった。

 もちろん私服でめちゃくちゃかわいい。

 なじみが着たらなんでもかわいいに決まってるんだけどな。


 だけど目を引かれたのはそれだけが原因じゃない。

 俺たちはほとんどいつも一緒にいるから、相手の服だってだいたい知っている。

 知らないのはパジャマくらいだ。

 でも目の前のなじみは、俺もはじめて見る服を着ていた。


「なじみ、その服……」


 俺が指摘すると、なじみが少しだけ顔を赤くした。


「えっと、うん……。やっぱり気づくよね……?」


「そりゃもちろん。なじみのことはなんでも知ってるからな。てことは、やっぱり俺の見間違いじゃなくて……」


「うん。今日のために新しく買ってきたんだけど……。どうかな?」


 そういってちょっとためらいがちに俺を見つめる。

 正直そんななじみがかわいすぎて、服とか全然目に入らなかった。

 なによりも、俺のためにわざわざ新しく買ってきてくれたということがうれしすぎる。


「あ、ああ。すごくかわいいよ。いや、なじみはいつもかわいいけど。今日は特にかわいい」


 思わず素直な言葉がもれてしまう。

 嘘をつく余裕なんて無かった。

 なじみもまた顔を赤くしながらも微笑んだ。


「えっと、ありがと。コウに喜んでもらいたかったから、そう言ってもらえるとうれしいな」


 そう言って照れたような笑みを浮かべる。

 最高だ。幸せすぎる。


 それからなじみも気がついたように俺を見た。


「ところでコウ、気になってたんだけどその服って……」


「まあ、実はなじみと同じで、そうなんだよ……」


「そうなんだ。同じ事考えてくれたなんてうれしいな」


「それで、どうかな……」


「うん、すっごく似合ってるよ。コウはいつもカッコいいけど、今日は特にカッコいいなって思ってたんだ。やっぱり新しい服のおかげだったんだね」


「そ、そんなにほめられるとなんだか照れるな。でもうれしいよ。ありがとう」


「それじゃあ行こっか。こんなに混んでるなんて思わなかったから、早く行かないと全部乗れないよ」


 確かになじみの言うとおりだった。

 ただでさえ混むって聞いてたのに、映画効果のおかげでいつも以上に混んでいる。

 少しでも早く並ばないと予定の半分も乗れないかもしれない。


 だけど、そうわかっていても、その前にどうしてもやらなければならないことがあった。

 入り口に向けて駆け出そうとするなじみを呼び止める。


「待ってくれなじみ」


「どうしたの」


「実は、今日のデートはルールを決めようと思うんだ」


 そう言って今回の作戦を切り出した。

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