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コウの帰りを待つあいだ

 コウと佐東君がドリンクバーに向かうと、残ったのはアタシと和歌ちゃんだけになった。

 勉強も休憩という感じになったので、アタシはここぞとばかりにコウへのグチを吐き出していた。


「ねえ和歌ちゃん聞いてよ。さっきのコウってひどくない? だって、どうみたってアタシのこと好きなのに、意地を張って全然認めてくれないんだもん。昨日だってアタシにキスしようとしておきながら、結局恥ずかしくなってやめちゃうし。アタシだって、その、コウとなら全然いいっていうか、むしろしたいくらいなんだけど、でもそういうのってやっぱり女の子からするのは恥ずかしいというか、やっぱり男の子の方からしてもらいたいというか……。そういうのってあるでしょ? どうして男の子ってすぐにカッコつけたがるのかな。だいたいコウは最初からカッコいいんだからそんな必要ないのに。まあそんなちょっと子供っぽいところもかわいいっていうか、男の子っぽいところもあってやっぱりアタシがいないとダメなんだなあっていうか。ただカッコいいだけの人なら他にもいるかもしれないけど、やっぱりちょっとダメなところがあった方が魅力的だよね。それにコウってああ見えてじつは鍛えててね、重いものとか持ってくれるときの腕とか筋肉がついててそういうとこやっぱ男の子だなーって見とれちゃうんだよね。あ、そうそう。それで思い出したんだけどね、このあいだ学校の帰りにご飯の材料を買いに行ったら、重い荷物をなにもいわずにさっと持ってくれて、これってなんか新婚夫婦みたいでいいなーって……


 ……ねえ和歌ちゃん聞いてる?」


「はいはい、聞いてるわよ」


 スマホをいじりながら気のない返事が返ってくる。


「むー。なんか返事が斜め読みしたみたいに適当というか、さっとスクロールして読み飛ばした感じっていうか……」


「そんなことないわよ。ただちょっとうらやましいなって思ってただけ」


「うらやましい?」


 どうしてだろう。


「だって、なじみは崎守と付き合いだしてからずっと崎守の話ばかりじゃない。だからさみしいなーって。たまには私ともデートしなさいよ」


「ご、ごめんね和歌ちゃん。和歌ちゃんのことが嫌いになったとかそういうことじゃなくて」


 そういわれれば、確かに最近はずっとコウと一緒だったかもしれない。

 コウのことは大好きだけど、和歌ちゃんだって大切な友達だ。

 だからこそ、最近和歌ちゃんと遊べていなかったことを申し訳なく思った。


 アタシが謝ると、和歌ちゃんも笑って謝ってくれた。


「うそうそ、気にしないで。あんた達は会ったときからずっと仲良かったじゃない。二人がうらやましいからちょっといってみただけよ」


 和歌ちゃんとは中学に入った頃からの友達だ。

 だからもう4年くらい一緒にいることになる。

 そのあいだ、アタシとコウがケンカしたときも話を聞いてくれたし、仲直りをする手伝いをしてくれたこともある。三人で出かけたことも一度や二度じゃない。


 だからアタシたちのことはなんでも知ってる。

 今さら隠し事をするような仲でもない。


「それで、どこまでいったの」


「えっ、ど、どこって……?」


「わかってるんでしょ。キスぐらいはもうしたの?」


「それが、じつは……」


 実はまだ手もろくにつなげていないとか何とか。

 そんなようなことを和歌ちゃんに説明した。

 そうしたら、ものすごく驚かれた。


「はあー!? まだろくに手もつないだことがない!? いくらなんでも奥手すぎない!?」


「やっぱり、変かな……?」


「変っていうか、教室だろうと気にせずにベタベタしてるのに、どうして手もつなげないの? まさか恥ずかしいからとかじゃないわよね」


「それは……」


 本当にどうしてだろう。

 アタシたちは告白して両想いになれたはずなのに、今ではよくわからないことで言い争っている。

 アタシはただコウと結婚したいだけなのに、なぜかコウはアタシに嫁にきてほしいと言い出して、今ではこんなことになってしまったんだ。


「というか、そもそも二人はなんでケンカしてるの?」


「? 別にケンカなんてしてないけど」


「どっちが好きかとか、訳の分からないことで言い争ってるじゃない」


「ああ、アレは……ちょっとね」


 ケンカではない。強いていうなら勝負だ。

 けど、さすがにその事情までは話すわけにはいかず、言葉を濁してしまった。


 和歌ちゃんも特に追求してこなかった。


「まあ、確かにアレはケンカというか、イチャついてるだけというか……」


 うう……。

 確かに思い返してみると、お互いに告白しあっているだけだったようにも思えてくる。

 なんだか急に恥ずかしくなってきた……。


「まあ、キスはともかく、手もつないだことがないのはさすがに遅いかもね」


「やっぱりそうだよね……」


「自分からしたいって言えばいいじゃない。男ってそういうのがうれしいんでしょ」


 そうなんだろうか。

 男の子のことはよく分からないけど、もしコウから「手をつなぎたい」っていわれたら、アタシならうれしすぎて一日中幸せになれると思う。


「もっと素直になればいいのに」


 和歌ちゃんがそういった。

 呆れたとかそういう感じじゃなくて、本当にそう思ったからそう言っただけって感じだった。


 たぶん和歌ちゃんの言う通りなんだと思う。アタシが素直になるだけでなにもかもが解決する。


 でも、事情があってそれはできないんだ。

 和歌ちゃんにならなんでも話したいけど、さすがにその事情だけは話すわけにはいかない。

 だからアタシは黙ってうつむいていた。


 コウと恋人になれたのはうれしい。毎日が幸せだ。

 なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。


 アタシたちは似たもの同士だ。

 だとしたら、コウもアタシと同じ気持ちなのかな。

 今のアタシと同じことを思ってくれているのかな……。



 やがてコウがこっちに戻ってくるのが見えた。

 手には2つのコップを持っている。


 その手をじっと見つめながら、アタシはあることを決意した。

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