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校内デート?

「二人とも、授業中ですよ」


 どうやら見回りの先生に見つかってしまったようだ。

 こんなところまでは来ないと思ったんだけどな。

 読みが甘かったか。


 なじみが露骨に嫌そうな顔をする。


「えー、先生なんでこんな暗いところまで見に来るの」


「二人みたいにサボる生徒がいるからですよ」


「そんなこといって、先生もサボリに来たんでしょー?」


 いくら明るいなじみとはいえ、先生相手にその態度はさすがに失礼すぎるだろう。

 俺が内心でハラハラしていると、先生は表情を変えずにうなずいた。


「そうです」


 そうなのかよ。


「ですがあなたたちがいたらサボれません」


「実は具合が悪いので保健室に行こうと思ってて」


「保健室は新校舎の一階ですよ」


 ちなみにここは旧校舎の三階である。

 先生がため息をついた。


「まったく、あなたたちはすぐサボりますね。仲が良いのはいいことですが、せめてデートは放課後にしなさい」


「はーい、ごめんなさい」


 なじみが明るく謝る。

 謝る気ゼロだな。

 先生はもう一度ため息をついた。


「まったく……。まあ崎守さんがいるから平気でしょうけど、ちゃんと勉強はするんですよ。赤点を取ったら夏休みも補習ですからね」


「えっ、それはやだ」


「ならちゃんと授業を受けなさい」


「はあーい……」


 なじみの返事を確認すると、先生は見回りに戻っていった。

 サボリにきたといってた割には、ちゃんと見回りを続けるみたいだ。


 それに授業に出ろとはいったけど、教室にまで連れ戻すようなことはしない。

 教師という立場上一応注意はしたけど、それ以上は特に何もいってこない感じだ。


 うちは進学校だからなのか、あまり細かくいわれないんだよな。

 ゆるい校風というか、生徒の自主性を信じているというか。

 まあなんだかんだで俺たちは成績だけはいいからな。

 それのせいもあるかもしれない。


 といっても、先生が全員こうってわけじゃない。

 もちろん中には厳しい人もいる。

 だけど、全体的にはやっぱり自由なんだよな。


「先生にも怒られたし、戻るとするか」


「そうだね。気分転換にもなったし」


 廊下を戻るあいだ、なじみが俺を振り返ってニヤニヤと笑みを浮かべる。


「ねえコウ、アタシたちデートしてるみたいだって」


「校内デートなんて聞いたことないけどな」


 そもそもデートにならないだろう。

 それに、俺たちはただの幼なじみだ。

 仲がいいのは確かだから誤解されるのも仕方がないとは思うけどな。


「コウは彼女作らないの?」


「作ろうと思ってすぐ作れるなら苦労しないよ。そういうなじみはどうなんだよ。彼氏なんていたことないだろ」


「うーん、別に彼氏がほしいって思ったことないんだよね。いなくても毎日楽しいし」


「俺もだな。今年こそ夏休みまでに彼女を作るとか佐東はいってるけど、いまいちその感覚がわからないんだよな」


「わかるわかる。わからないよね。わかる」


「どっちだよ」


「それよりコウは放課後予定ある?」


「いや、特にないけど」


 答えると、なじみが再びニヤついた笑みを浮かべた。


「じゃあデートしようよ」


「いいけど、なにするんだ?」


「……なにしようか?」


 ノープランなのかよ。


「じゃあちょうど行きたかったカフェがあるからそこにしようか」


「どこどこ?」


「今アドレス送った」


 なじみがスマホを確認する。

 リンクを開くと、すぐに表情が輝いた。


「うわ~! すっごく美味しそうなパンケーキ! 写真だけでもふわっふわで美味しそう!」


「前に見かけたときに、なじみが喜びそうだなって思ったから保存しておいたんだよ」


「ここがいい! ここにしよ!」


「じゃあ決まりだな」


 場所も家と学校のあいだくらいだし、値段もまあこういう店にしてはそこまで高くないし、ちょうどいいだろう。

 それにこういうところは男一人だと入りにくいからな。

 なじみが一緒にいてくれると俺も助かるんだ。




 教室に戻ると、数学の先生が授業の解説をしているところだった。

 二人そろって入ってきた俺たちを見て、ホワイトボードに向かう手を止める。


「具合が悪いという話だったが、もういいのか」


「はーい、おかげさまでもう大丈夫です!」


 なじみが手を挙げて答える。

 聞くからに元気な声だ。


 まあ、実際どこも悪くないんだから元気なのは当たり前なんだが、いつも以上に声が弾んでいる。

 よっぽどパンケーキが楽しみみたいだな。

 数学の先生も小さくうなずいた。


「そうか。授業はもう終わりだが、席に戻るまえに宿題を提出しておけ」


「あっ」


 弾む手足がピタリと止まる。

 そういや宿題を忘れたからサボったんだったな。忘れてた。


 泣きそうな目がぎこちなく俺を振り返ったが、もちろん俺に出来ることはなにもなかった。

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