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帰還した勇者の村おこし~異世界との交易はじめました~  作者: 空地 大乃
第一章 凱旋勇者、故郷に帰る編
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第七話 凱旋勇者は気づけない

 野良ダンジョンにもダンジョンを守るボスがいる。ダンジョンの核を壊したらダンジョンが消滅するから核も必死なのだ。


「ゴブリンロードか。レベルで言えば20ってとこだ。ミウで今25だから戦えなくもないがどうする?」

「戦うにゃん。足手まといにならないよう経験値を稼ぐにゃん!」


 異世界では敵を倒すことでレベルを上げることが出来る。相手が自分と同程度だったり強かったりすればそれも顕著だ。


 今回はミウの方がレベルは高いけどロードみたいなタイプは補正があってレベル以上の強さを有するから相手としてはちょうどいいだろう。


「ジェリー」

「わかってるちゅ~マウスフットちゅ~」

「じゃあ俺もマルチガード!」


 マウスフットはジェリーの扱う鼠魔法の一つで動きが鼠のようにすばやくなる。

 マルチガードは掛けた相手の防御力が上がる魔法で、物理的にも魔法的にも防御力が上がる。だからマルチガードだ。


 そしてジェリーはちゃっかり俺の肩に移動していた。ロードの近くには行きたくなかったんだろう。


「いくにゃん!」

「グオオォオオオォオォオオ!」


 一歩目からすでに最高速に達している。ロードが威勢よく雄叫びを上げたのは、威嚇する目的もあってのことだろう。


 実際レベルの低い相手ならそれだけで足が竦むのだろうが、ミウにはそんな様子がない。本当さっきまで震えていたのが嘘みたいだ。


「愛の力っていうのは偉大ちゅ~」


 ジェリーが何か言ってるがミウの動きに集中してたからよく聞こえない。


 最高速に達したミウは一歩目を踏み込んだ瞬間には既にロードの後ろをとっていた――きっと相手にはそう感じられただろうな。


 猫の獣人はそもそも体が柔軟だ。その上動き方は走るというより飛ぶだから移動するために必要な歩数は少なくなる。


 縦横無尽に駆け回る。地面だけではない。壁も天井も十全に活用して、立体的な動きを体現する。


 ロードの目はミウについていけていない。それでいてミウは爪の届く範囲で疾風の如く脚質で移動しながらロードの肉体に傷を重ねていく。


 盾持ちで斧持ちのロードだが、動きについてこれなければ盾の防御は間に合わないし、斧での反撃も届かない。


 これはミウが圧倒していると見ていいだろう。いいはずなんだが――


「さっさと、さっさと倒れろおぉおおぉおお!」

「グウウゥウウウオオオオォオ!」


 ミウの猛攻は続くがどうしても違和感は拭えない。それにしても、ロードもあれだけ攻撃を受けてもまだ立っていられるとはあれで中々しぶとい……。


 違う。そうじゃない。そもそもあいつは何をあんなに、まるで勝ちを急いでるような……まさか――


「これで決めるにゃん! 虎爪双昇撃!」


 今その技はまずい! 


「あ――」


 ミウの声が漏れた。なぜなら奴はミウが大技を狙いに来る瞬間を狙っていたからだ。

 虎爪双昇撃は威力の面では申し分ない技だ。相手の懐に飛び込み爪による切り上げ、勢いを活かして回転し、次いで飛翔しながらの爪撃を加える。


 だがこの技はその性質上、懐に入った瞬間足の動きが止まる。つまりその時ばかりはミウの素早さが役に立たなくなるんだ。


 そしてゴブリンロードはその一瞬の隙をついて手持ちの斧を振り下ろした。完全にカウンターになる一振りだ。今のミウにこれは避けられない。


 重苦しい音が響き渡り地面が上下に揺れた。土埃が爆発的に舞い上がり視界を埋め尽くす。


「グルゥウウゥウウ……」


 ロードが満足気に唸った。あの軌道なら斧は間違いなくミウの体を両断したことだろう。


「ま、俺がいなければの話だけどな」

「――ッ!?」


 勝ち誇っていたゴブリンロードの顔から笑顔が消えた。振り下ろされた戦斧は俺の左肘でしっかりガードされている。 


 相手からすれば不可解で仕方ないんだろうが、氣を上手く扱えば体の一部を固くすることぐらいは朝飯前だ。


「ご、ご主人様?」

「悪いなミウ、気づいてやれなくて」

「え?」

「お前、本当は怖かったんだろう? でも俺に心配掛けたくないから、必死で平気だと自分にいい聞かせた」


 そう、つまり強がった。冷静に考えてみればそうだろう。ゴブリン相手ですら本来なら震えて身動きが取れなくなるぐらいだ。


 誰かと一緒なら大丈夫と言っても、本当に心から大丈夫なわけがない。それでもただのゴブリンなら問題なかった。


 しかしこいつはゴブリンロード。ゴブリンより逞しくそして醜悪だ。いくら外面では平静を装っても心はそうはいかなかった。


 おまけに最初にこいつの雄叫びを受けている。ミウは一見効いてなさそうだったが、実はしっかりその効果を受けていた。だからこそあれだけ攻撃を加えても決め手に欠けていた。


 ミウの攻撃は全て浅かったんだ。だからこそこのゴブリンロードは力をためて反撃の機会をうかがう余裕があった。


「さて、そんなわけだから、もうお前は消えとけ。でないとミウが安心できない」

「グ、グガ?」

「いくぞ、おらぁあぁあああぁああ!」


 俺は右腕に力を込めて拳を握って思いっきり殴りつけた。それで終わりだった。ゴブリンロードは悲鳴を上げる暇もなく粉々に砕け散り、後には魔石と何か薬の瓶だけが残された。瓶?


「ご、ご主人様ごめんなさいにゃ! ミウは偉そうなことばかり言って、やっぱり、やっぱり役立たずにゃ!」


 耳が垂れ、尻尾も萎え、必死に謝ってくるミウ。全く、こいつは気負い過ぎなんだよな。


「気にするなミウ。それに言ったろ? 今のは気づいてやれなかった俺が悪い。それとありがとうミウ」


 俺は意気消沈なミウの頭に手をおいてできるだけ優しく撫でてやる。


「ふぁ……ご主人様ぁ~」

「ミウのおかげで十分助かったよ。ミウがいなければ俺はこのダンジョンが見つけられなかったし、放置していたらゴブリンがどんどんダンジョンから出てきて大惨事につながっていたかもしれない」

「そ、それじゃあ、ミウはご主人様と一緒にいていいにゃん?」

「え?」


 そ、そういえばその件があったな。う、う~ん、でもよく考えてみればこのままミウを放っておくわけにもいかないしな。


「……とりあえず考えておくよ」

「や、やったにゃん!」

「良かったなミウ。おい、勿論俺もいいんだよな? 餌もたらふく食えるちゅ~?」

「……まぁジェリーとミウはセットみたいなところあるしな」


 それにしてもさり気なく餌を要求するあたりしっかりしてるな。


 さてと……この2人に関してはもう爺ちゃんに相談する他ないな。現状俺が異世界から帰ってきたのを知っているのは爺ちゃんか秘書夜さんぐらいだ。


 さて、と、あとはゴブリンロードが残したものだけど、まさかダンジョンの戦利品までしっかり出るなんてな。


 戦利品というのはダンジョンのボスを倒した後に出てくるものだ。向こうでもダンジョンのボスを倒すとこういうアイテムが出てきたものだ。


 それを俺は鑑定する。異世界で手に入れた力だ。見たもののステータスを見ることが出来る。


・ゴブリンハッスル

ゴブリンロードの睾丸をもとに作られた精力剤。どんな人間でもこれを飲めばたちまちハッスル。夜のお供に最適。


「ご主人様。それはなにか役に立つにゃん?」

「……ノーコメントで」

「何だ変な顔して? おかしな奴ちゅ~」


 うっせーよ。大体こんなものみせられてどんな顔でミウと話せっていうのか。全く、こんなもの俺には全く必要がないぜ。


 ただ折角の戦利品だから魔石と一緒にアイテムボックスにしまっておこう。


 さて、ゴブリンロードを倒したおかげで壁の一部が崩れ、ダンジョンの(コア)につながる道が出来たので先へ進み、突き当りの壁にめり込むようにして存在したコアを破壊。これはミウにやってもらった。


「やったにゃん! レベルが上ったにゃん!」

「良かったなミウ」


 ダンジョンのコアにも経験値がある。しかも高めだ。ゴブリンロードとの戦いもきいていたのだろう。トドメこそさせなかったが戦ってさえいれば経験値は分配される。


 さて、これでダンジョンは攻略した。俺たちはそのまま外に出たわけだが、するとダンジョンはボロボロと崩れ落ちて消滅した。


 ふぅ、これで村に危険が及ぶことはないだろう。

 

 この後どうしようか? 墓参りも途中だったしな……一旦お墓まで戻るか――






 俺はミウを連れて母さんの墓まで戻った――わけだが……。


「全くこんなところに墓なんて立ててどういうつもりなのか。邪魔くさいことこの上ない」

「まぁまぁ、それもどうせ今だけですからねぇ。今ぐらいはこのままでよろしいではありませんか」

「そんな甘いことを言っていてはあの連中が調子づくだけですよ? この墓も我々に対する嫌がらせですよきっと。まったくこの糞が! いますぐぶっ壊してやろうか!」

「やめろ!」


 母さんのお墓まで戻ると、妙な奴らがお墓の前に集まっていた。人数は4人で全員スーツ姿だ。そのうちの一人だけは高級そうなブランド物で身を固めている。


 そしてそのうちの一人、七三分けした眼鏡が母さんの墓に蹴りを入れようとしていた。ふざけるな!


「あん? なんだこのガキは?」

「……そのお墓は俺の母さんの墓だ。汚い足を、むけんじゃねぇ!」


 男の足はお墓に当たる前に止まっていた。その光景に思わず怒鳴ってしまったが、もし蹴りが少しでも触れていたら俺は冷静ではいられなかったことだろう。


 それにしても、一体なんなんだこの連中は?



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