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帰還した勇者の村おこし~異世界との交易はじめました~  作者: 空地 大乃
第一章 凱旋勇者、故郷に帰る編
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第ニ話 凱旋勇者と謎の組織

「全く……結局こんなところまで来ることになってしまった」

「もう観念せい。それに村と言っても最近は便利じゃからな。ナマラゾンの配達が来るのはち~とばかり遅いがワイファイだって完備しとる」


 ま、まさか爺ちゃんからワイファイという言葉が飛び出てくるとは思わなかったぞ……まぁ小さい村だからな。


 ネットぐらい使いこなせないとやってられないのかもしれない。


「それにじゃ……墓参りだって暫く行っとらんだろ」

「――まぁ、言われてみればそうだね」


 墓というのは母さんのお墓のことだ。母さんは俺が異世界に召喚される前に病気で他界してしまった。そういえば召喚された時は三回忌を終えた後だったな……。


 母さんは爺ちゃんの村出身だったが色々あって都会に出て父さんと知り合って結婚した。その結果生まれたのが俺と妹なわけだ。


 尤も妹と言ってもすでに立派な大人だけどな。召喚される前はまだ小学生だったのに今や立派な女子大生だ。幼かった顔も随分と男受けしそうな顔になってて出るとこもしっかり出てるもんだから、兄としては嬉しいやら寂しいやら。


「それにしても爺ちゃん。いくらなんでも高速降りるの早すぎたんじゃないか? 確かに村には直接高速道路は走ってきてないけど、それにしたってもっと効率的なルートがあっただろ?」


 何せ爺ちゃんが降りたインターからだと村までまだ100km以上あることになる。その上だ。


「それになんでわざわざこんな山道? まさか峠をせめるのが趣味とかじゃないだろ?」

「ふん、これでも昔は走り屋の武勇としてブイブイ言わせていたもんじゃ。数多くの武勇伝も生んだのじゃぞ?」

「マジかよ……」

 

 全くイメージがわかない、なんてことはないな。言われてみればこの爺ちゃんならって気もしないでもない。


「だがな――このルートを選んだのは、できるだけお前の行き先が奴らにばれんようにする為じゃ」

「は? 奴ら?」

「何せずっと尾けてきおるからのう。全く鬱陶しくて仕方ないのじゃ。ここらで決めるために敢えて人も車も少ない道を選んだのだ」

「は? ちょっと待てよ。爺ちゃん追われてるって、それに奴らってなんだよ?」


 ハンドルを握りながら当たり前のように語る爺ちゃんだが、俺には言ってる意味がさっぱりわからない。


「なんじゃ? 気づいとらんのか? 全く、久しぶりの日本だからと平和ボケしとる場合じゃないぞ。お前は自分が思っている以上に多方面からの注目度が高いのだからな。ほれ、いい加減モードを変えろ」


 モードって……まじかよ。確かにずっと異世界で戦っていたし、日本では少しはのんびり出来ると思っていたのも事実だけど――


 ……なるほど。確かに俺は怠惰が過ぎたのかもな。こんなはっきりとした気配が漂っているのに気が付かないなんてな。


「参ったな爺ちゃん狙われてるぞ。狙撃手に」

「わかっとるわい。この先にこの道を見下ろすのに丁度よい足場があるからのう」

「あれか……距離は800mってところか。大丈夫か爺ちゃん?」

「ふん、わしを誰と思って、おるのじゃ!」


 爺ちゃんがハンドルを勢いよく切り、途端に車が道路を横滑りした。元の車が走っていた位置に乾いた音が届き、弾痕を僅かに残す。


「どうじゃ! 見事なものだろ!」

「いや、しっかり前見てくれ頼むから」

「ふん、この程度の峠、眼を瞑ってても走れるわい」

「爺ちゃんなら出来るんだろうけど俺が不安になるんだよ」

「どうじゃ? V12エンジン+最新式のレール電磁モーターの威力は! 直線なら僅か数秒で速度500kmまで達するんじゃぞ? 全くやはりオフロード車はSheepに限るわい」

 

 鼻歌交じりにハンドルを握りながら、狙撃を躱していくんだからとんでもないな。


「さて、狙撃ポイントも抜けたし今度は更に大物がやってくるぞい」


 すると騒々しいプロペラ音が俺の耳に届き、巨大な鉄の塊が爺ちゃんの運転する車体の背後に現れた。


「出おった出おった」

「出おったって、これ軍事ヘリだろ!」

「ふむ、あれはハイパーコブラじゃな。毎分1万2千発の連射速度を誇るM12T機関砲を装備したとんでもヘリじゃ」

「とんでもすぎるだろ! て、おい爺ちゃん何か出てきたぞ?」

「ふむ、ヘルフレイム対戦車ミサイル。まぁようは地上の敵を徹底的に破壊するための代物じゃな」

「落ち着いてるが爺ちゃん。あれ、俺たちを狙ってるんだよな?」


 思いっきり俺たちの後を追ってきてるし、そもそもここには爺ちゃんの車以外走ってないしな。


「直接ではないだろう。目的はお主なのだから殺すわけがないからのう。恐らくミサイルで崖崩れを誘発させて道を塞ごうというのじゃろう。全くせこい奴らじゃ」

「いや、冷静に分析してる場合か?」

「うむ、とは言え道を塞がれるのは少々面倒じゃな。勇士よ、あのヘリをなんとかせい」

「簡単にいってくれるなよ! 武装ヘリだぞ!?」

「ほう、わしから見て、お前ならあの程度簡単だと思ったのだがな」


 ニヤッと爺ちゃんのくせに不敵な笑みを浮かべやがった。全く、やはり爺ちゃんの前で力を隠すのは無理だ。


「でも相手は空だ。素手じゃ厳しいぞ?」


 一応魔法を使うという手もあるが、流石に地球には魔素が少ない。ないわけじゃないが、異世界とは比べ物にならないし、こうなると体内魔力だけが頼りになる。


 だけど魔法ってのは外側の魔素にも干渉してこそだ。だから俺の保有する魔力だけだと効果は半分以下になってしまう。


 まぁ何よりこんなところで魔法を使うわけにはいかないってのが1番大きいんだけどな。


「後ろに木刀詰んどる。それ使ってよいぞ」

「いや、木刀って……」

「なんじゃ? 不服か? 流石に真剣じゃ過剰戦力すぎるじゃろ?」

「……買いかぶり過ぎだっての」


 いいつつ、俺は後部座席にあった木刀を手にとった。するとSheepの屋根が開き、オープンタイプの車に変化する。


「便利な車なこって」

「ほれ、ミサイルが来たぞ。先ずアレを何とかせい」


 軽く行ってくれるぜ。とはいえ、対処しなきゃ面倒なだけか。


「全く、面倒だな! 八岐流龍剣術――壱ノ首・飛一文字!」


 八岐流龍剣術は古代から伝わるとされる剣術で、俺が昔徹底的に爺ちゃんからしごかれ覚え込まされた技だ。


 尤も召喚される前は完璧とは言えず、奥義の中で最初に教わるこの技も大した効果はなかった。


 ちなみに壱ノ首・飛一文字は高速の抜刀によって斬撃を飛ばす技だ。爺ちゃんによるとこれぐらい欠伸をしながらでも出来ないと話にならないってことだったが、ま、今の俺なら片手間でも使用可能でもある。


 召喚された当時は未熟で斬撃の射程も精々10m程度だったんだけどな。今の俺ならその100倍ぐらいは行けると思う。


 なので相手がヘリなら十分に対応できる。何せヘリは戦闘時の高度はそこまで高くない。


 だから飛んでくるミサイルも必然的に――両断できる。


――ドゴオォオォオオオン!

 

「わしの見立てどおり、木刀で十分じゃったろうが」


 車の後方でミサイルが爆発したのを確認し爺ちゃんが言う。全く、俺が出来るんなら爺ちゃんだって出来るだろ。


「ところで爺ちゃん」

「なんじゃ?」

「なんか機関砲が明らかにこっちをねらってるんだけど……」

「ふむ……」


 爺ちゃんが考えを巡らせる。俺はヘリから目を離さないよう見続けているが、砲身はあきらかにこの車体に向けられていた。あの位置は間違いなくあたるから威嚇射撃なんてものでもなさそうだ。


「きっとお前がミサイルを切ったことで脅威と感じ取ったんだろう。だから捕獲から暗殺に切り替えたんじゃろうて」

「おいおい冗談じゃないぞ。大体あいつらなんなんだよ?」

「組織の人間じゃな」

「だから何の組織だよ!」

「細かいことは気にするな。こういうのは大体闇のシンジゲートとかそんなのが絡んでるものじゃ。それより撃ってくるぞどうにかせい」

「どうにかって分速1万2千発をかよ!」

「たかが秒速200発ぐらいなんとか出来るじゃろ?」


 たかがって……あぁもう畜生! 

 ヘリから突き出た砲身がキュイィイインと不敵な音を鳴らし回転を始める。


 瞬間、けたたましい音を鳴らし唸りを上げて大量の弾丸がばら撒かれた。俺はそれを――


「ハァアアァアアァアアアアアァアアア!」


 気勢を上げて木刀を振り回し、全て弾き返す。本来なら木刀が折れるところだが八岐流龍剣術を駆使すればなんてことはない。勿論それなりに修行が必要だが、異世界では万を超える隕石群をすべて切り落とすとかやってたからな。それに比べれば確かにこの程度楽勝と言える。


「よくやった。後は面倒だからあのヘリさっさと落としてしまうのじゃ。但し殺してはいかんぞ。何せここは日本じゃ。それに組織が絡むと死人を出した方が後々面倒になる」

「だから組織って、なんなんだっつぅうううの!」


 俺は爺ちゃんの愛車のSheepを踏み台にして跳躍。ヘリに迫ると口を大きく開けて驚く操縦士の姿。他にも兵士らしき姿も見られるけど明らかに日本人じゃないな。北欧系ってとこか。


 ま、とにかくこれ以上追いかけられるのも面倒だ。だから木刀で軸となるローラー部を一閃。そして今度はヘリを壁に見立てて三角跳び。爺ちゃんの操縦する車に戻ると、翼を失ったヘリが見事に墜落した。


 ヘリは見事に中心で折れ曲がり、半壊して煙も上がっているが、あれなら死ぬことはないだろう。高度が低かったしな。思ったとおりだ。怪我ぐらいするだろうけど俺たちを殺そうとしたんだからそれぐらいは覚悟してほしい。


「落としたけど、あれ邪魔だよな?」

「この管轄なら知り合いがいる。今メッセージをSignで送っといたのじゃ。直に駆けつけるじゃろう。尤も馬鹿じゃなきゃ組織の連中はすぐこの場を離れるだろうがな」

「だから何の組織なんだよ……」


 爺ちゃんは気にするなと言っているけど気になって仕方ない。


「ふむ、どうやらまだまだ組織の奴らはわしらを諦めてないようじゃな」

「おいおい冗談だろ」


 一難去って一息つけるかと思えばまた一難。なんと今度は正面に大量の――ロボットが出現した。二足歩行ロボじゃん! すげー!


「爺ちゃん、なんだよこれ!」

「ふむ、某国が密かに開発を進めていたという二足歩行型戦闘ロボ――【フリーダム】じゃな。コストが掛かりすぎて計画が頓挫したという話であったが、組織によって計画が続けられていたわけじゃな」

「だから組織って、もういいや。それにしても20体はいるぞ爺ちゃん」

「うむ、頑張れ!」

「丸投げ!?」


 肩を叩かれいい笑顔で言われたぞ! くそ、何で俺がこんな、あぁあああああ! もう!


「俺はもう平穏に暮らしたいんだよ! 邪魔すんじゃねぇええええぇええ!」






「勇士よ、もうすぐつくぞ」

「や、やっとか……」


 あれから数多の戦闘ロボを木刀一本でなぎ倒した俺だったが、その次は巨大な人型ロボが道を塞いだり、戦車や戦闘機が攻め込んできたりととんでもない目に会い続けた。


 まぁ、全部対処したけどな。本当、今度ばかりは異世界に行っててよかったと思えたな。召喚される前の俺じゃあ流石に全てへの対処は不可能だった。


 ……いや、でもよく考えたらそもそも異世界へ召喚されてなければわけのわからない組織に狙われることもなかったんじゃないか? 


 う~ん……ま、考えても詮無きことだしな。とにかくすべて片付けたからこれで嵐は過ぎ去ったことだろう。


 そして更にそれから1時間ほど車は走り続け。


「ほれ、見えてきたぞ。どうだ、懐かしいだろう?」

「……あぁ、そうだな」


 相変わらず随分と隔離されたような場所にある小さな村だな。とは言え、これから俺は暫くこの村に厄介になるわけだ。まぁ、マスコミなんかが落ち着くまでだし、一週間ぐらいか?


「さて、それじゃあ村に入るぞ。ここからが【東勇紗村】じゃ」

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[一言] サブタイトルの「第ニ話」の部分は「ニ」がカタカナになっています。
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