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第二十一話 凱旋勇者と祭り

 いや、もう本当、ぬる感とかまるで感じられないよ! 確かにガチって言ってるけど、一般人がビビるレベルでガチだよ! 大体なんだよその兜から左右に飛び出た角! いかにもこれからぶっ刺す! とでもいい出しそうだし背中には漫画でしかみないようなデカイ剣背負ってるし!

「ちなみに剣の刃は潰してあるから問題ないぞ」

「そ、そうかそれなら問題は、いや? え? ないの?」


 とにかく、あまりにガチすぎて周りに人がよってこないぐらいだぞ。近づいたら殺すみたいなオーラ全身からみなぎってるし。


「ふん、折角だしね。魔王様、ちょっとアピールしてみな」


 鎧姿のそいつがこくんっとうなずく。何かその仕草だけは微妙に可愛い気もするけど――と、思ったのも束の間、漆黒の鎧は巨大な大剣を抜き力一杯振り回した。

 それだけでちょっとした竜巻が起きた――何これ? 本当に現代?


『――人間全て、この大剣でぶった切ってくれる!』 


 直後、ちょっとした騒ぎが起きたのはいうまでもない――


 なんやかんやで町に繰り出してのアピールも無事(?)終わり、いよいよ祭りの日の初日を迎えた。意外にも本格的な屋台なんかも並び、祭りらしい祭りだったとも言えるのだが――


「……え~初日の東勇紗村、並びに西麻奥村の来場者数を発表したいと思います」


 無事祭りの初日も終わり、学園の校長でもあり東と西の村のパイプ役でもある康平さんが結果を告げる。


「本日の来場者数、東勇紗村が七人、西麻奥村、八人で、合計一五人です……」 


 冷ややかな空気がその場を支配した。当然だ。三桁どころか、去年より減ったのだからな。


「ふ、ふん、どうやら東のよりもうちのほうが集客数が多かったという事なようだね」

「ちょ、ちょっと待てぇええい! 納得がいかん! 西のババァのところは家族連れが一組きてたから人数が多く見えるだけだ! 組で言えばうちのほうが多いわい!」

「何わけのわからないこと言ってるんだい見苦しいね!」

「そっちこそ! どうせ知り合いにでも頼んで来てもらったのじゃろう。せこい西のババァの考えそうな事じゃ!」


 な、なんとも低レベルな争いが始まってしまった。ここまで来たら一人の差なんてどうでもいいだろうに。


「ふぅ、あんたも、え~と魔王様だったかな? お互い大変だよな」

 ふと、隣に立っていた西のガチキャラに話しかけてみる。だが、そっぽを向かれてしまった。

 なんだろ? 東とはあまり話したくないとか、それとも人見知り? そもそも今日の祭りは終わったといいのに、まだ鎧脱がないんだな。

 もしかしてキャラ付け大事にするタイプだったのだろうか?


「いい加減にしてください!」


 え? なんだ、校長が切れた?


「全く、おふたりとも判っているのですか? 今はそんな低レベルな言い争いをしている場合じゃないんですよ! 昨年の両方合わせて三十人という数字だって洒落になってないんだ! それなのに合併は出来ない、村おこしも成功しない! それでこの先どうしていくつもりなんですか! 既に両方共財政は火の車なんですよ!」


 校長が吠えた。そして、それを聞いて俺はようやく、この村がかなりの危機的状況にあるんだという事を、知った――


「……判っておる。だが、祭りはまだ明日がある。明日があるのじゃ……」

「今日でさえこれしか呼べなかったというのに、明日いきなり増えるとは思いませんが……とにかく明日の結果次第で今度こそこの先のことをちゃんと考えてくださいね――」


 一旦西側の祭りの会場に戻ったが、爺ちゃんは真剣な表情で唸っていた。

 それにしても、そこまで村が切迫した状況だったなんてね。


「なぁ爺ちゃん、合併してみる気はないの? 折角隣同士なんだし、そこまで意固地にならなくてもこの機会に……」

「馬鹿いうでないわ! いいか! 二度とわしの前でそんな事を言うなよ! あんなごうつくババァの村と一緒になるなんて絶対にゴメンなのじゃからな!」


 ふぅ、いい出したら聞かないからな爺ちゃん。


「でも実際どうするんだよ。祭りは明日で終わりだろ? それなのにこの状況……これから来場者数を増やすのは至難の技だと思うけど」

「そんな事は判っとる! くっ、やはり凱旋勇者くんだけじゃ弱かったのだ。もっとこうインパクトのある何かが他にあれば!」


 あんなもの着させといて弱いとか酷い言い草だな。


「おお勇者~戻ったか~いやぁ祭りってのはいいねぇ。こんなに酒が呑めるなんてさいこーー!」

「て、アネーゴ、何してんだよ。もう今日の祭りは終わったんだぜ?」

「あぁいいのいいの。ほら、殆ど客入んなかったから、料理も酒も余っちゃったからね。姉御さんみたいな美人に呑んでもらえるなら本望ってものさ」

「お? 嬉しいこと言ってくれるねぇ」


 姉御じゃなくてアネーゴだけどな。それにしても、う~ん、料理はともかく、酒は一応明日もあるってのにな。殆どあきらめモードか。


「勇者様、お祭りのほうがいかがでしたか?」


 そしてアネーゴの隣にはユレールもいた。問いかけてきてるどうでしたか? とは祭りの結果の事なんだろうけどな。


「あんまり芳しくないかな。去年より少なかったし」

「そう、ですか……」

「いやいや! ユレールちゃんが落ち込むことはないって!」


 自分の事のようにしゅんとなるユレールを見て、周囲の皆が気を遣う。というか、かなりデレデレしてるな。


「例え客が入らなくても、姉御やユレールちゃんがいてくれるだけで十分価値があるってもんさ!」

「そうそう、こんなべっぴんさん日本中探したってそうはいないよ」

「下手に客が大勢はいるよりふたりを見てたほうが幸せになれるってもんだよ」


 凄い持ち上げぶりだな……でも確かに俺はずっと一緒に行動してたから疎くはなっているけど、ふたりの容姿は世界レベルでみてもかなり上の方だとは思う。その上スタイルもいい。

 ユレールなんておっぱいが……まぁそれはともかく見た目に関しては完璧なのは確かだな。


「な、なんたることじゃ……」


 すると、爺ちゃんが酒や料理を勧められるふたりをみてプルプルと震えだした。あれ? もしかして祭りの為に用意した酒や料理を勝手に振る舞っているのが気に入らないのか?


「爺ちゃん落ち着けって。確かにまだ明日が残ってるけど余ったものをどうしようが皆の自由――」

「こ、これじゃああああぁあああぁあ!」


 うぉ! びっくりした!


「な、なんだよ爺ちゃん突然叫びだして」

「これが叫ばずにいられるか! 全くわしとしたことが、こんなに近くに村おこしの逸材がいたというのにきづかんとは情けない!」


 ん?


「爺ちゃん、何か思いついたのか?」

「当然! フフッ、見ておれ西のごうつくババァ! 明日の祭りは我に秘策ありじゃ! さぁ明日は忙しくなるぞい!」


 さっきまで難しい顔していたってのに、全く一体なんだって言うんだか……。


「さぁ皆さんご注目ください! 東勇紗村ご当地キャラ隊! 凱旋勇者くんと姉御魔女、そして慈愛の僧侶ちゃんだ~~~~!」


 何故か昨日より遥かにテンション高めで太田が叫んだ。マイクまで持って見た目もDJ風。

 少し離れたところではこれまた昨日と打って変わって気合の入った様子の禿照がレフ板もって太陽の光を上手く反射させている。

 八瀬杉さんはビデオカメラ担当だ。どうやら村のPR動画としても利用する気まんまんらしい。

 そして案内担当に淑屋嘉さんが立ち、祭りの情報や俺達についてを聞いてくる人々に答えてた。

 四人とも、昨日までより動きが遥かに機敏で、役割もしっかり分担されている。まるで水を得た魚のようだ。

 それにしても、よもや爺ちゃんの考えた手が、この三人、ミウにアネーゴとユレールを広告塔として利用する事だったなんてね……。

 正直そんな単純な手が上手くいくのか? とそんな簡単なものじゃないだろと俺は達観していたし、そもそも三人が承諾するのか? という思いもあったけど承諾に関しては二つ返事でオッケーしてくれていた。もうちょっと考えようぜ……。


 しかも、これがまた信じられないぐらい大盛況だ。確かに三人とも可愛いし美人だけど、ここまでとは思わなかった。爺ちゃん曰く、三人の格好が良かったのじゃ! とのこと。


 確かに例えばアネーゴは本来なら魔導師なんだけど、秘書夜さんの魔女のほうが受けが良さそうの一言で急遽、魔女として紹介する事に。格好もそれっぽくし、とんがり帽子と箒を用意。

 これだけで随分と雰囲気が変わった。しかも肩に黒猫のマスコットまで乗せてる。可愛い。この良さを引き出した秘書夜さんが優秀すぎる。


 ユレールは僧侶だ。本当は神官なんだけど、僧侶の方が馴染み深いとのことでそうなった。シスター服からどこからともなく秘書夜さんがもってきたRPGで着そうな僧侶のファッションに身を包むとこれまた雰囲気が一変。それでいて、そんな僧侶いるか! というぐらい胸を強調したデザインがこころにく、いや、け、けしからん。うむ。


 ミウに関してはわりとまんまだ。猫耳としっぽも惜しげもなく出してたけど衣装ってことで通した。何せ元が猫の獣人だ。これだけで普通に客が呼べる! と爺ちゃんも大興奮だった年考えろよ。


 とにかく、こういった衣装の奇抜さが受けたのか、どうやら俺達の東勇紗村アピールは動画にも取られネットに上げられ拡散し話題になってるらしい。よくわからないが動画再生回数が5000万を超えたと喜んでいたし。

 これだけ伸びた理由としては勿論脇を添えるふたりの華やかさも十分関係あるだろうけど他にも昨日と異なる点がある。


『勇士、思ったんだが、お前、何か勇者らしいことできんものか? こう魔法とか必殺技! みたいので派手に――』


 これが爺ちゃんに持ちかけられたことだ。確かにきぐるみは着たけど、敢えて異世界で会得した力を使うことはなかった。

 ただ別に使えないわけじゃない。魔法にしてもこちらには魔素がないから異世界とまるで同じものは使えないが、それでも俺は体内で魔力を作れるぐらいにはなっている。魔素を吸収するより圧倒的に蓄積されるまで遅いのが欠点だし、魔素との融合がないと強力な魔法は行使できないけど地球では強力な魔法を使える方が問題だ。


 そしてこれに関してはアネーゴも一緒。だから俺たちは特撮っぽく見える程度の範囲で魔法を行使してより盛り上がって貰うことにした。アネーゴには箒で軽く浮き上がって貰ったし、ユレールも元が神官だから魔法の種類は異なるけど、手から光を溢れさせたりは出来る。俺も手から花火程度の炎を発生させる魔法で演出してみせた。

 おかげでぬるいキャラがイリュージョンみたいなことをしているとこれはこれでちょっとした話題になった程だ。

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