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第二十話 凱旋勇者と村おこし委員会

 学校が終わり、村役場についたらすぐに車に乗せられた。問答無用でワンボックスカーにだ。ハンドルは秘書夜さんが握ってるけど拉致みたいなもんだろこんなの。


「いきなりどこへ連れて行くつもりだよ?」

「隣町の栄田町じゃ。村おこしのためには外から人を呼ばんといかんからな」 


 栄田町ってマジかよ……村から車で片道二時間かかるだろ。


「おっと、それと村おこし委員会のメンバーはお前も含めて五人だ。それぞれ自己紹介しておくとええ」

「太田 洋です」


 太った男性だ。


「禿照 光と申します」


 見事に禿げ上がっていてキラリと頭が光っている男性だ。


「八瀬杉 多代、よろしくね」


 ちょっと痩せ過ぎな気がする女性だ。


「淑屋嘉 奏音です。どうぞよろしくお願い致します」


 お淑やかそうな女性だ。そして俺からも挨拶をして話を聞く。


「土曜日と日曜日で祭りが行われるのです。そのために人を呼び込もうと、村長が」


 単純だな。


「村おこしの基本は祭りじゃからな!」

「確かにそうかもだけど、とりあえず去年まではどれぐらいの人が参加してたの?」

「え~と2000人ぐらいは来ていたかのう? 秘書夜さんや」


 2000人か……あの小さな村にしては集めたな。


「いえ村長15人です西麻奥村と合わせても30人です」

「すぐバレる嘘つくなよ爺ちゃん……」


 信じた俺が馬鹿みたいだぜ。それにしても15人って……。


「今年は、せめて300人ぐらい呼びたいね」

「そうだなぁ、それが無理でも3桁ぐらいは……」

「高望みが過ぎませんか? 倍ぐらいから手堅く……」

「倍は少ないんじゃない? 3倍ぐらいで……」


 そしてさっき紹介を受けた委員会の四人の声。全員役場の職員らしいけど、それはそれで目標低すぎだろ。

 そもそも去年15人って村内ですら殆どこなかったって事になるんだが……。


「え~い! 何を弱気な事を! 今年の目標はずばり! 3万人だ!」

 爺ちゃんのは流石に多すぎな気もするんだよな……全くどうなることやら。


「やれやれ、やっとついたか」


 車から降りて伸びをする。いくら俺でも車の中で2時間もいれば身体がだるくも感じる。


「それで、もう日も暮れてるけど、こんな時間に何をさせる気なのさ爺ちゃん」

「判ってないなお前は。夜だからこそチャンスなのじゃ。見てみろ、このあたりはいわゆる繁華街。この時間から人であふれとる」


 そう言われてみると、確かに村に比べると結構な人が歩いているような気がする。


「そして、これから土曜、日曜と行われる祭りのアピールをする! これで完璧じゃ!」

「作戦はわかったけど、それでどうやってアピールするのさ?」

「そこでこれでございます」


 秘書夜さんがワンボックスの荷台を開けて、ダンボールを引っ張り出す。随分と大きいな。

 そして蓋を開け、中から取り出したのは――


「……え~と、これは一体?」

「ふむ、勿論、これこそが東勇紗村のご当地キャラ! 凱旋勇者くんじゃ!」


 そういって見せられた勇者くんとやらは、確かに勇者をベースにしたようなきぐるみだった。

 しかもなんというか、緊張感のない温そうなフォルムをしている。これってもしかして……。


「ぬるキャラってやつ? でも、あれって八年前からあったよな……まだブームは続いているわけ?」

『………………』


 いや実行委員の4人黙るなよ!


「大丈夫じゃよ。大体こういうのは天丼ってやつでな、いつだって廃れずに残ってるものよ。なぁそうであろう秘書夜さん」

「……まぁ、下火だったものが再燃するって事もありますしね」


 おい! すごく温度の下がった目で言っているぞ! 駄目だよね? これ、あまり良くないって事だよね?


「ふむ、秘書夜さんがこういうなら間違いないな!」

「いや、爺ちゃん今の話聞いてた? あと目ちゃんと見た?」

「さて、では早速始めるとするか」


 話聞けよ。全く、なんかガサゴソと全員できぐるみを持ち出したし。大体こんなもの一体誰が着るのやら。

 うん? 足を出せって? で、足を通して、腕を通して、背中のチャックを上げて後は勇者の頭を――


「て、俺かよ!」

「当たり前じゃろうが。何を今さらわけのわからないことを」

「いや、聞いてないのですが……」

「村おこし実行委員長だというたじゃろが。大体勇者のきぐるみなんだからお前以外誰がいるというのか。この日のために倉庫で埃を被っていたのをわざわざ引っ張り出して洗濯し、名前も凱旋勇者くんに改めたんだからな」


 埃被ってたんじゃねぇか! しかも名前までちゃっかり変えたのかよ!


「いやはや本当、適任がいてよかったですな」

「全く、あんな恥ずかしい、いや、素敵なものは私達では似合いませんから」

「通気性悪いから無駄に暑いし、更に痩せちゃうもの」

「きぐるみなんて着てるところを知り合いに見られたら恥ずかしいし……」


 好き勝手言ってくれてるな! 全く結局俺だけがこのぬるキャラなきぐるみ着て歩くなら、この4人何のために来たんだよ……。


「うむ、中々似合ってるではないか」

「……恥ずかしくて死にそうだよ」

「問題ない。さぁゆくぞ! 今から出陣じゃ! 村の祭りを凱旋勇者くんとしてアピールして回るのだ!」






「……ねぇ何かしらアレ?」

「きぐるみ?」

「なんできぐるみが夜の繁華街歩いてるんだ?」


 うぅ、爺ちゃんに言われて歩いてみたはいいけど、なんか嫌な意味で注目されてる……。


「おお! 見ろ注目されてるぞ! どうじゃ? まだまだいけるじゃろ?」


 いや、だから注目されてることの意味が違うからねこれ。


「よっし! 今こそ村のアピールをするのじゃ凱旋勇者くん! さぁ! さぁ!」


 く、くそ! こうなったら焼けだ!


『や、やぁ皆! 凱旋勇者くんだよ♪ 今度、東勇紗村でお祭りが行われるから、ぜひ参加してね!』


――シーーーーーーーーン。


 やってられるかーーーー!


「おお! なんじゃいきなりゴム剣を振り回しおって!」

「本当、村おこしも大変だねぇ」


 そう思うならお前らも何かしろや!


「何呑気な事を言っとるのじゃ。お前らとて金魚のフンみたくついて回るだけの為に来てもらったわけじゃないぞ。さぁ、凱旋勇者くんに倣って村のアピールをするのだ!」

「え?」

「む、村のアピールですか?」

『…………』


 全員、固まる! だけどじっちゃんに発破をかけられて無理やりアピールさせられた。


「ひ、東勇紗村は畑がいっぱいだよ~」


 いや、畑だけオススメされても……。


「ま、毎日5食、どんぶり飯10杯は余裕です!」


 それお前の食欲アピールだろ!


「や、痩せたい方は東勇紗村へ!」


 確かに八瀬杉さんが言うと説得力あるけど!


「く、車で片道二時間、すぐそこで~す」


 すぐそこじゃねぇ!

 そんな感じでアピールになるんだかならないんだかって内容を口にしながら通りを練り歩くわけだが――


「ふん! 村おこしをやるって聞いたから何かと思えば、まさか今どきぬるキャラとはねぇ」

「むぅ! お前は西麻奥村のごうつくババァ!」

「誰がごうつくババァだいこの偏屈ジジィ!」

「なんだと!」

「なにさね!」

「ま、まぁまぁふたりとも」


 何か出会った途端急に揉めだしたが、これが西麻奥村の村長の黒野さんだ。

 それにしてもこのふたりは相変わらずだなぁ……まだいがみ合ってるんだな。


「ふん、大体文句ばっか言っておるが、どうせそっちはこれといったキャラクターすらおらんのだろう? 全く嫉妬とは虚しい事じゃ」

「は? 全くあんたこそ、そんなやる気のないキャラで今どき村に人が呼べると本気で思っているのかね? 本当頭の中がお花畑かい」

「な、なんじゃと! だったらお前んとこは、何かいい手はあるというのか!」

「勿論だよ! その目ん玉かっぽじってよく見るんだね! これが西麻奥村のご当地キャラにして、最新のガチキャラ!」


 へ? が、ガチキャラ?


「征服の魔王様だよ!」


 西の村長がそういって自信満々に手を振り上げた。すると、ガシャン、ガシャン、と、この場に似つかわしくない重苦しい足音が響いてきて。

 そして、上背二メートルはありそうなそれでいて、まるで要塞のような重厚なかつ禍々しい漆黒の全身鎧に身を包まれたソレが俺達の前に姿を現した。


『……邪魔をする奴らは全員ぶち殺す――』

「が、ガチキャラだぁああぁあああぁあああ!」

『ヒィイイィイイィイイィイイイィイ!』

新連載をはじめました

魔力が0なのに物理的行動がすごすぎて魔法と勘違いされ続けた大賢者は転生後も魔力0。しかし大賢者の再来と喜ばれやはり物理が最強!そんな物語です。下のリンクからも飛べますのでどうぞ宜しくお願い致します。

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