第十九話 凱旋勇者とお弁当
「え? 村おこし? 超面白そうじゃん何それ?」
高校生活再開二日目。東組の教室でつい俺が村おこしに協力する必要があることをぼやくと鈴木が食い付いてきた。
「だったらさ、俺が野球で村おこししてやるよ!」
「いや、野球でどうやるんだよ」
「勿論! メジャーなリーガーを呼んで派手に!」
「却下、そんな予算があるわけない」
「ここはやっぱり、世界のパンフェアーとかどうかな? 世界中のパン職人を呼んでパンづくし! 幸せ!」
「あ、うん。それ小林さんが食べたいだけだよね?」
とは言え、それはそれで悪くないと思うけどやっぱり予算の問題がある。
「何か踊りを通してアピールするのはどうかな? もしくは地元の名産品を……」
無難だな。流石佐藤だ意見も至極普通だ。
「今こそ日本中の妹を集めて妹まつりじゃ~~~~!」
「お~い、誰かそろそろ田中を刑務所につれていけ~」
「裁判なしで!?」
必要なさそうだしな……。
そんな話で多少盛り上がりながら時間は過ぎていく。まぁ村おこしについて基本的な事は爺ちゃんが考えてるとか言ってたから俺はそれに乗っかるだけになりそうなんだが。
そして昼休みになったわけだが。
「……え~と、真央さん?」
何故か昼になると同時にズカズカと真央が俺に詰め寄ってきた。そしてなんか見おろされて睨まれている。
「あの、俺、何かしたっけ?」
「さ、三十センチ以内には近づかないでよね!」
いや、近づいてきたのそっちだよね?
「あ、あのね……」
ん? 何か妙にモジモジしてるな。あれ? もしかして?
「と、トイレ我慢してるのか?」
「違うわよ! ばっかじゃないのアンタ!」
違ったようだ。そしてすごく怒鳴られた。もう意味わかんねぇよ!
「だ、だから! これを――」
「あ! いた! 勇者様!」
真央が何か意を決した表情で口を開いたその時、俺の耳に届くは至極聞き覚えのある声。
「お、おま! ユレール!」
「ミウもいるにゃん!」
「ミウまで!?」
「はい、勇者様! 良かった間に合って――」
ユレールはパタパタと、そしてプルンプルンっと柔らかそうな双丘を揺らしながら近づいてきて、ミウは猫耳をぴょこぴょこさせ尻尾をふりふりやってきた。
おいおい大丈夫かよこれ! それにミウはなぜ制服!?
「な、なんでここに?」
「にゃん! 今日から学校に入ることになったにゃん!」
マジかよ……。
「私は、勇者様がお昼をお持ちでないと聞きましたので、こ、これを――」
するとユレールがバスケットを俺の目の前に掲げてきた。これってもしかして――
「え~と、これは?」
「はい! 勇者様の為にお弁当を作ってきたのです」
あぁやっぱりか。入れ知恵したのは爺ちゃんか、アネーゴか……。
「わざわざいいのに、大変だったろ?」
「そ、そんな! これも花嫁修業の一環だと思えば……」
「はい?」
「は! いやだ、私ったらなんてことを……その、お口に合えばいいのですが! それでは教会に戻りますね。きゃ~~~~!」
そしてユレールは去っていった。一体なんだったんだ……。
だが、ここで俺はとんでもない問題をミウとユレールがが残していったことに気がつく。何せ2人のことはこのクラスの皆は知らない。そうなると当然――
「うおぉおぉおおぉおおおお! 勇士誰だ今の誰だ今の誰だ今のーーーー!」
「なんかシスターみたいな格好してたぞ! そして勇士の事勇者様とか言っていたぞ!」
「くそ! 俺もシスターと勇者プレイをして大きなスライムをツンツンしたいぜ!」
「きゃーー! ヤダ何このこ凄い可愛い!」
「にゃ、にゃん!?」
「この猫耳まるで本物みたい~いや~もふもふしてる~」
「おいおい、この子もすげー可愛いじゃん! なんだよこれさっきのシスターといいどうなってるんだ!」
「なにこれ弁当? すげーじゃん、あんな可愛くて巨乳なシスターとこっちの猫耳の子も一体どこで知り合ったんだよ畜生! なんで勇士ばっかりーー!」
「妹ーー! 猫耳の妹ーーふぉおぉおおお!」
ほら見たことか。やっぱりこうなるよなそりゃそうなるよな。見た目なら超一流の美少女2人な上猫耳獣人にあの胸なシスターだもんなぁ。そして田中、お前は本当ブレないな。
とにかく質問攻めにあう俺。そして――ふと真上から発せられる殺気。そ、そういえば……。
「あ、ま、真央、さん? え~と、それで貴方の用事は――」
「なんでも、ないわよこの女ったらしがーーーーーー!」
そして気がついたら俺は天井に頭がめり込んでいた。なんだよこれ理不尽すぎるだろ……。
「…………あの馬鹿、死んじゃえ」
「死んじゃえはちょっと酷くないか?」
「ヒャッ!」
全く、あのあと真央の姿が見えないから屋上に来てみたらこの台詞だもんな。本当傷つくよ。
「あ、あんた。な、何するのよ!」
「別に。ただ、ジュース間違って一本多く買ってしまったからな。やるよ」
真央のほっぺにつけてやった缶ジュースを渡す。それにしてもいい反応見せたなこいつ。
「ふ、ふん。まぁ、そういうことなら貰ってあげてもいいわよ」
全く、素直じゃないな。
「隣座っていいか?」
「は? 半径三十センチ以内に近づくなって言ったでしょ!」
「だったら三十センチ離すよ。これでいいだろ?」
「……ふん、それなら、いいわよ」
そういいながら俺が渡した缶ジュースに口をつける。素直じゃないけど、本当顔は可愛いよなこいつ。
「……でもいいの? あの可愛い神官さんからお弁当貰ってたじゃない。それに猫耳の子も」
「あぁ、弁当はもうないんだ。あとミウは皆に囲まれててもう俺がどうこうできる状況じゃない」
「いや、囲まれたって……」
事実だから仕方ない。ちなみに猫耳とか尻尾は飾りってことでごまかした。ミウにそれは徹底するよう言ってある。
「それにしてもお弁当がないって、もう食べたの? 早くない?」
「う~ん、勿論俺も少しは食べたけど、皆があんまり物欲しそうに見てくるから分けてやったんだ。そしたら殆ど食われちゃったんだよ」
「何それ? 本当お人好しと言うか馬鹿というか」
「うっせぇ~」
軽口を叩き合いながらも、俺は真央のソレに目を向けた。
「何?」
「いや、旨そうだなと思って」
「は? お弁当食べたんでしょ?」
「だから、殆ど食われて俺の口には大して入ってないんだよ。だから、もし余ってるならちょっとわけてくんないかな~って」
「何それ? 図々しくない?」
細目で言われた。確かに普通に考えれば図々しい話だけど。
「駄目かな?」
「……し、仕方ないわね。特別よ」
にゅっと手が伸び小さな弁当箱が一つ。あぁ、そうだなこれはあくまでついで。
でも、実は知ってた。あの後出ていった真央の事が気になって西組にいったら、他の女子に弁当は食べてみた? と聞かれたから。
それで察したんだ。だからここに来た。まぁ、ユレールの弁当が殆ど食べられたのも本当だし。
「て、これ白米だけじゃねーか!」
そして――弁当箱の中身を見て驚愕した。まさか白米だけとは……。
「気が早いのよ馬鹿。ほら、こっち向けて」
「うん? こうか? て、えぇええええ!?」
真央は弁当箱の上から茶色いドロッとした液体、つまりカレーをドバドバと掛けだした。
「……昼の弁当にカレーかよ。中々のチャレンジャーだな……」
「何よ! 嫌なら別に無理して食べなくたっていいわよ!」
「別に食べないとは言ってねぇだろ。スプーンあるのか?」
「……はい」
受け取ったプラスチックのスプーンを使ってカレーを口に含んだ。
「ど、どうかな?」
「う、うぅううぅ、ぐうぅうううああぁああ、うぐうぅううう」
「え? 嘘! 口に合わなかった?」
「うめぇええええぇええええ!」
「え?」
「いや、このカレーうめーよ。いや驚いた。ちゃんとあったけーし」
「それは、保温弁当だからよ」
「あぁ、そうだよな。やっぱ地球の科学はすげーわ」
「まぁ、そうね……」
改めて異世界との違いを実感する。向こうは長旅だと味気ない携行食しか持ち歩けなかったからな。でも、それを抜きにしてもこのカレーは旨い。
「本当、何かお前ってタイプ的によくラノベや漫画にいるメシマズキャラっぽいと思ったのに意外だわ」
「あんたいちいち一言多いわね――」
ジト目で不機嫌そうに言われた。褒めたつもりだったんだけどな……。
「ふぅ、食った食ったごっそさん」
「ふ、ふん。本当あんた遠慮ってのを知らないのね」
悪態をつきながらも妙に嬉しそうにしてるんだよな。元々人に振る舞うのが好きなタイプなのかもな。
「いやでも、本当美味しかったよ。おかげで元気が出た。これで放課後もがんばれそうだ」
「放課後? 放課後になにかあるの?」
「うん? あぁ実はうちの爺ちゃん、東勇紗村の村長なんだけどな。それで、村おこしやるらしくてその手伝い頼まれてるんだよ。色々世話にもなってるし、断るわけにもいかなくてさぁ~」
俺が事情を話して聞かせると、そう、と気のない返事。あまり、村おこしには興味なかったかな?
「……その村おこし、頑張ってね」
「あ、あぁ」
「じゃあ、そろそろ昼休憩も終わりだし、戻ろっか?」
最後は妙にたどたどしい笑顔で言われ、俺たちは教室へ戻った。
う~ん、それにしても、何か妙な雰囲気あったな。村おこしの話題をだしたあたりからだけど――




