第十八話 凱旋勇者と村おこし
「全く、それにしてもユレールもごめんな。爺ちゃんが変なこと言って」
「何を言う、孫の嫁候補が2人もいるのじゃぞ? 喜ばないでどうする」
「よ、嫁……」
「ミウ、ご主人様のために頑張るにゃん!」
「そのいきだちゅ~」
いやいや! 爺ちゃんも本当言葉が通じるようになったとたん何を言っているんだ!
「嫁とか勝手に言ってるけど爺ちゃんの言ってることなんてふたりとも気にしなくていいからな。こういうのは本人の気持ちが一番なんだから」
「え? あ、その、だから、私は、その、ふにゅぅうぅうぅ」
「お、おい大丈夫か!」
なんかユレールが突然真っ赤になってフラフラになって倒れてしまったぞ! 昔からこの癖変わらないよなこいつ……。
「……のうアネーゴさんや。もしかしてあやつはあの2人の気持ちに気づいておらんのか?」
「えぇお爺さん。こういっちゃなんですが貴方のお孫さん、超の上に極がついても足りないぐらいの鈍感男ですよ」
「……やれやれ、誰に似たんじゃか」
なんか爺ちゃんとアネーゴが語り合いながら俺に呆れた目を向けてきてる。失礼な2人だな。
「ふぅ、ところでアネーゴ、帰れないって随分と楽観しているけどファイトの事はどうするんだよ?」
「……別にどうもしないよ。あいつなら適当に何とかするだろ?」
「いやいや! あんたら結婚したばかりだろ? 10日ちょいしか経ってないのにそれは冷たいんじゃないのか?」
「だからいいんだって! もうあいつとは終わったんだからさ!」
は、はぁ?
「いや、終わったってまだ10日……」
「勇者、相手のことは結婚するまでわからないものだねぇ」
そういいながらグラスを傾ける。な、なんかたそがれ始めたぞ。
「お主も色々あったんじゃな。まぁ呑め呑め」
「おお! 判ってるねお爺さん。う~ん、あたしお爺さんと結婚しちゃおうかな~」
「おほっ、こんな若い嫁が貰えるなら長生きしてよかったと思えるわい」
「いやいや爺ちゃん! 呑気な事言っている場合じゃないだろって。異世界から来てるんだぞ3人とも!」
「うるさいやつじゃ。それなら問題ないわい。手はずはとっくに整っとる。ユレールさんは村の教会でシスターとして暫く務めて貰う。神父とも話はついとるのじゃ。アネーゴさんは役場の臨時職員扱いじゃ。ミウちゃんはお主と同じように高校に通ってもらおうかのう」
「……それいいのかよ。大体役場の職員って、そんな余裕あるのかよ?」
「馬鹿にするでない。それぐらいわしの権限でなんとかなるわい」
爺ちゃんそれ職権乱用がすぎないか?
「百歩譲ってそれでなんとかするとしても、3人とも戸籍も住民票もないんだぞ?」
「住民票なら問題ないわい。わしの方でしっかりと作らせといた」
またかよ! 俺のときも勝手に移動したしなこの爺ちゃん!
「……それいいのかよ――全くやりたい放題だな」
「問題ない問題ない。お前は細かいことを気にし過ぎなのだ。大体、お前はこれからのことを心配せい」
は? これから? 突然なんだ? 3人のことか?
「これからってこの3人の事か?」
「違うわい。そっちは乗りかかった船じゃわしも協力すると言っているだろう。お前については明日からの村おこしについてだ」
「あぁ、村おこし。はいはい、て! 村おこし!?」
突然何を言い出すんだこの爺ちゃん!
「そうじゃ。お前には村おこし委員会の実行委員長を務めてもらうことに決まったからのう。明日からよろしく頼むぞ」
「いや、聞いてねぇし! なんだよそれ! そんな村おこしなんていやだぞ俺!」
ただでさえ3人のこともあって高校生までやり直してるんだ。そんなあれもこれもなんて出来るか!
「……ふむ、そうか。秘書夜さんおるかのう?」
「は! ここに!」
うわ! びっくりした! どこからともなく出てきたぞ! 忍者かよこの人!
「せっかくじゃから皆の前で聞かせてあげるとよい」
「わかりました」
うん? なんだ? 何を聞かせるというんだ? 何か秘書夜さんが胸元からノートを取り出して、て、凄いところから出すな!
「俺の夢、俺の夢は当然勇者だ! そして約束を果たす為魔王を倒す! そう俺は勇者に始まり勇者で終わる男。ふっ、それこそが俺の宿命。必殺技ももう考えている、先ず勇者の究極7777奥義が一つスーパーダイナミックジャスティス……」
「ちょっとまてぇええぇえええぇええい!」
俺は思わず叫んだ。心の底からシャウトした!
「ここからがいいところなんですよ?」
「いやいやいやいや! 何でそんな俺の黒歴史ノート秘書夜さんが持ってるの!?」
「わしが渡した」
このクソジジィ! 大体それ俺の家の押入れの奥の奥にしまっておいたやつだろ! ちゃんと鍵付きの箱に鍵かけてしまっておいたのになんでここにあるの!?
「お主も甘いのぉ、あんな場所は見つけてくれといっとるようなものじゃし、掛かっていた鍵も秘書夜さんに掛かれば一発じゃ」
「鍵の暗証番号が誕生日ってもはやあけてくれと言ってるようなものですね」
「ぐぬぬぬぬぬ!」
2人そろって邪悪な笑みを浮かべてやがる。己はかったな!
「はは、なんだ勇者。お前勇者になりたかったのかよ。良かったじゃん夢かなって。で、他にどんな恥ずかしいこと書いてるの?」
「だ、駄目ですよアネーゴ、恥ずかしいだなんて……」
「どんなに恥ずかしくてもご主人様の書いたことには興味あるにゃん!」
「うわ……これがこっちの世界でいうちゅー二病ってやつかちゅ~」
黙れよネズミ。アネーゴも全く隠しもせず笑ってるし、ユレールもミウもなんか面白がってるし、もう穴があったら入りたい!
「爺さんそれ返せよ!」
「ほう返してほしいか。ならば村おこしのことは引き受けてくれるのう?」
「くっ! 卑怯者め!」
「なんとでも言うがよい! わしは村のためなら悪にでもなる!」
そこまで落ちたか爺ちゃん! て、そんなことはもういいとしてだ。
「判った引き受けるよ」
「ほう! 言ったな? 秘書夜さん言質はとったのう?」
「録音もバッチリです」
どんだけ用意がいいんだよ!
「ふぅ、そのことはもう判ったよ。どっちにしろ気になることがあったんだ」
「うん? 気になることじゃと?」
「……あぁ。昨日母さんの墓参りに行ったら変な連中がいて、村はもう無くなるっていうんだ」
俺は爺ちゃんにその時に受け取った名刺を見せた。すると途端に険しい顔になり。
「あの連中、まだそんなことを……」
「なぁ爺ちゃん。村に借金があるってのは本当なのか?」
「……それは間違いない。村の経営が苦しいのは事実じゃ」
「……そうか」
「失望したか孫よ?」
失望か。今更別にそんなことはない。それに小さな村だ。そんなこともあるんだろう。ただ――
「母さんが安らかに眠っている場所を邪魔されるのは……やっぱり気に入らないな――村おこし、一丁やってみるか」
俺は腹をくくる。どの程度のことが出来るかはわからないけどな――
次から新章になり村おこしも動き出します!
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