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第十四話 凱旋勇者、バットを振る

 そして結局9回まで、俺と真央の投手戦が続いた。

 9回表は俺達の攻撃。二人は見事に凡退したが、最後は俺が打席に立つ。


「勇士、今度こそあんたを倒してやるわ!」

「あのさぁ、なんでそこまで俺を目の敵にするんだよ?」

「うっさいわね! 見ているだけでムカムカするからよ!」


 いよいよ酷い理由になってきたな。俺そこまで酷い顔してるか? 確かに女性にモテたことはないけど、顔だけなら平均ぐらいだとは思ってたのに……。


「どっせぇええぇえええぇええええいぃいぃ!」

「ええええぇええ!」


 もうそれ女の掛け声じゃねぇよ! だが、球はものすごい速度で走ってくる。気のせいか球がベースに迫った瞬間燃え上がった気がするが、いや、そんなはず無いか。


 とにかく、俺はその球を打つ! バットの芯で捉えた筈なのに、とんでもない力だ! しかも何故か何度か爆発音が聞こえるし、ロケット噴射のように何度か爆発して球が更に加速した気さえする。気のせいだろうけど!


 とにかくこのままじゃバットごと持っていかれそうだ。こうなったら仕方ない。俺も少しだけパワーを込める。魔力は駄目でも、氣なら爺ちゃんに仕込まれて自由に扱える!


「ウォオオオォオオオォオオオォオォオオオオ!」


 俺も気合を入れる。だが、本気を出すのは不味い。ギリギリの力で、1点取れるだけの力でいい。

 そして、この1点で、決める! そして更に力を込めたその瞬間――ベキベキベキィイイイイィ! とバットが折れて吹っ飛んだ。


 金属バットがマジかよ……だけど、ボールは前に飛んだ!


「このコース、ホームランだ!」

「「「「「「「「よっしゃ! いっけぇええええぇええぇええ!」」」」」」」」


 東組のクラスメートの声が揃う。コースは申し分ない。突き抜けるような打球。


 これで間違いなく1点――と、思ったその時、ボールに対して逆風が吹き荒れた。

 突風だった。とんでもない風力で吹き抜け男子は頭を押さえ、女子はスカートを押さえる。それでも何人かは見えた……ラッキー! じゃない! 打球は――


「あれ? ぼ、僕のグラブにボールが?」

「アウッ! スリーアウトチェンジ!」

「「「「「「「「えぇええええぇええええええぇええ!?」」」」」」」」


 クラスメートが声を揃えて驚愕した。そして俺も思わずその場で膝をついた。

 こ、こんな事があるかよ――完璧なコースだったのに謎の突風に押し戻されるなんて。


「やったー! まさに神風! ツキはこっちにあるわね!」

「これは次で逆転出来るフラグよ!」


 クッ、逆に向こうに勢いをつけてしまったな。これ、あの真央って女もきっとドヤ顔でも披露してくれて、ると思って見てみたんだが、何故か不機嫌そうだ。そしてあのリチャードに駆け寄って眉を顰めて何かを訴えてる。


 う~ん、結果的に点を取らせずアウトで終わったのにどうしたんだろ?

 ……まぁいいか。それにしても本当今のは惜しかったな。


「全く、なさけない。まだ1点も取れないなんて恥ずかしくないの?」

「いや、あんた何でいるんだよ……」


 いつの間にか赤井先生が選手の中に紛れてた。


「監督としてきてあげたの」

「おせーよ! もう9回だぞ!」

「保健室で寝すぎたわね」

「本当、なんで教師始めたの?」

「そうね、貴方に興味があったからかしら?」

「え?」


 思わぬ不意打ちに固まってしまった。な、なんだそれ? からかってるのか?


「勿論からかってるのよ」

「あんた心読めるのかよど畜生!」


 期待した俺が馬鹿だったよ!


「まぁいいわ。折角だから私がこの試合の必勝法を教えてあげる」

「え! 先生が必勝法を!」

「こんな美人の先生が教えてくれるなら、もう勝ったも同然だぜ!」


 周囲のテンションが上がる。でも、こんないい加減な女教師がそんな必勝法なんて伝授できるのか?


「いい? よく聞くのよ。必勝法は、相手より1点でも多くとることよ! これで勝てるわ!」

「しまっていこうぜ~」

「「「「「「「「お~~~~!」」」」」」」」


 赤井の事はもう普通にスルーした。期待した皆が馬鹿だったんだ。

 とにかく気を取り直して俺達の守りだ! そしてピッチャーは勿論俺。キャッチャーは引き続き田中なわけだが。


「フッ生意気だね」


 そして九回最初のバッターとして四天王の一人が登場だ。てかこっから四天王がふたり続く。

 こいつは四人の中で一番背が小さい眼鏡だ。そして髪がない。ついでに壊れた蓄音機のように同じことしか言わない。


「スットライーーーーク! アウッツ!」

「フッ生意気だね」

「いや振れよ」


 まぁストライクゾーンが低そうだからフォアボールでも期待されたんだろうけど、俺のコントロール舐めるな。


 そして俺は改めてそれを手につけるが、なんか俺ずっとこれ疑問に思ってたんだけど。


「なぁ、このロジンバッグなんかおかしくないか? 妙に違和感があるんだけど」

「そんな事はないだろう。中身は最高級のプロテインだ」

「それだよ! どうりで匂いがなんか変わってると思った! 汗でちょっと溶けてベタベタしてると思った!」

「何か問題があったか?」

「大ありだ! 大体なんでプロテインなんだよ!」

「その方が筋肉がつくだろ?」


 もういやだこの学園……。


「やれやれ新人の癖に生意気なのだ腰腸肋筋(ようちょくろっきん)!」


 お前は本当、キャラ付けはっきりしろよ。そもそもあの口だけ偉そうなのと一緒で試合にも出てないし。


「返り討ちにしちゃうぞ!」


 出たな壊れた蓄音機二号。それにしてもこいつ声だけ聞いてるとやたら幼いってかショタ声なんだが。


「ははははは! うちの新兵器をいよいよ投入だ!」

「四天王最強、というより学園一の太鼓腹の持ち主よ! これで当たらないわけがないわ!」


 うん、つまりこいつ、かなりの巨体と言うか、つまり太ってる。

 本当ギャップありすぎだよな……。

(はら) 太閤(たいこう)! バットは振らなくていいからな! お前の厚い脂肪ならそいつの豪速球もヘッチャラだ!」

「いけるぞ! お前ならきっと3000点はとれる!」


 完全に死球狙いかよ! っして死球で3000点とられてたまるか! とは言え、確かにお腹がベースに掛かるほどだからな。これは厄介――なわきゃないだろ。


「スットライーーーーク! バッターアウット!」

「「「「へ?」」」」


 西組の連中が目を丸くさせているが、本当何も考えてなかったのか? それだけ腹が出てたらバットなんてまともに振れない。

 つまり、チェンジアップだけでも楽勝でストライクがとれるわけだが……。


「こ、こうなったら真央が、うちのエースにしてクィーン魔王の真央がいるわ!」

「クィーン魔王って何!?」

「よっし! クィーン魔王がいれば逆転ホームラン間違いなしだぜ!」

「「「「「「「「クィーン魔王! クィーン魔王! クィーン魔王! クィーン魔王!」」」」」」」」


 最後のバッターとして打席に立ったのは、今回の発端となった真央だ。そして何故か謎の魔王コールを受けている。クィーン魔王という奇妙な二つ名に本人も動揺を隠しきれていない。


 それにしても――この対決毎回やってるんだよな実は。何せ選手の入れ替え自由だから、それなら打席に立つ順番も自由だよなって話になり、俺と真央は毎回必ず打席に立てるよう再編成されていた。負担多すぎだろ……いや、俺は大して疲れてないからいいけど。


「全くなんなのよ一体。大体あれもプロテインだったって何なのよ。知らずにたっぷり付けてたじゃない!」


 うん、まぁプロテインは意味がないしな。まぁとにかく、これが最後の勝負だ。

 だが――負けるつもりはない。勝ちはないし延長はないって最初から言われてるから引き分けが精一杯ではあるけど……俺は今まで200km程度の速度で投球していた。


 それを、一気に250kmまで引き上げる。これまでも真央は俺の球を打ち続けたが、ファールだったり詰まらせたりでアウトにしてきた。


 だが、それも少しずつタイミングがあってきている。女だてらにとんでもない動体視力だと思うが、だが、9回掛けて俺の200kmを見続け、すっかりそれに慣れてしまったその目ではこれから投げる250kmには反応しきれないだろう。

 だから――


「お前は俺の球に反応出来ない!」


――カキィイイィイイィイイイイン。


 は? 俺が自信を持って投げた高速ストレート。250kmの弾丸があっさりと反対側の空へ向かって突き進んでいく。

 つまり――打たれた。一投目で、こんなにもあっさり。俺の視界に映る真央がドヤ顔を見せていた。どうだ、見たかといった顔だ。


 まさか、まさか、ハメられたのは俺の方だったのか? この9回まで真央は俺の200kmになんとか喰らいついているフリをしていた? 本当はまだまだ余力が残っていたのに――そして待ち続けた。満を持して9回で速度を上げてくる俺の自信を打ち砕くため。


「くそ! だが甘い!」


 真央が俺のストレートをバットの芯で捉えた瞬間、僅か0.00000005秒の間にそこまで考えを巡らした俺は、直後、空に向けて突き抜ける打球めがけて思いっきりジャンプしていた。


 バシッィィイイイィイイイィン、とグラブに白球がめり込む。凄まじい回転、摩擦熱で腕ごと燃えてしまいそうな勢い。

 だが気力で強引に球を押さえ込み、そのままマウンドへ着地。


「あ、アウゥウウウゥウウッツ! ゲームセット!」


 ふぅ、なんとかこれで引き分けだな。負けなくてよかったよかった。


「えっと、なんか今、凄い飛んでなかった?」

「普通に20mぐらい飛んでたような……」


 はっ! しまった――つい条件反射的に反応してしまったが、ちょっと力入れすぎたか?


「あ、あれれ~? なんか気がついたらこんなにトンデター。こ、これが火事場の馬鹿力って奴かな~?」

「「「「「「「「………………」」」」」」」」


 し、静まり返った……やっぱり流石に無理があったか?


「な~んだそうか。火事場の馬鹿力かそりゃそうだよなぁ」

「あぁ、でもすげーぜ! 偶然とはいえあれを取るんだからな!」

「全くだ。編入初日からやってくれる!」


 ふ、ふぅ~セーフ! セーフ! 良かった~ここが田舎で本当良かった~。

 田舎の人間は素直で純真だから、相手を疑うって事をしない。これが都会ならヤバかった。下手したら動画を取られてネットに上げられてたかもしれない。

 俺ももう少し気をつけないといけないな……。

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