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第十一話 凱旋勇者は高校生からやり直す

新章開始です。少しの間勇者の高校生活をお楽しみ頂けたらと思います。

 次の日から早速俺はこの村唯一の学園に通うことになった。

 昨晩のことがあったから爺ちゃんとちゃんと話したかったのだが朝はバタバタしてて詳細は話せなかった。


 ただミウに関してはわりとあっさり納得してくれた。酔ってもいないのに嫁が来たとか妙なことを口走っていたけどな。


「そうじゃ、今日学校が終わったらミウちゃんと一緒でいいから役場のわしの部屋までこい。重要な話があるのじゃ」


 そんなことを言っていたので妙な県議員の話はその時でいいか。


 ミウは流石に学校には連れていけないから家で待っててもらうことにした。


 さて、学園が見えてきた。中には寮もある。こんな小さな村の学園に寮なんてあるのかよと思ったのだけど、この村立勇麻学園はなんと小中高一貫教育を実地している。


 しかも学費も大分平均よりも抑えられる為、それ目的で入学してくるのもそれなりにいるそうなのだ。


 こんな田舎にわざわざと思ったが、若いうちから自然の中で暮らさせて上げたいと思ってる親はそれなりに多いということか。


 尤も多いと言っても、初等部から高等部まで合わせた総数は千人程度らしいけどな。それでも村全体からすると大きいか。


 実は俺が暮らすことになった東勇紗村のすぐとなり、つまり西側に、西麻奥村というもの隣接している。


 このふたつの村、実は随分と前から対立している。何せ俺が幼少の時から村長やってる爺ちゃんと、隣村で村長やってるお婆さんの折り合いが悪い。正直犬猿の仲とはこのことかと思わせてくれる程だ。


 だけど、この村で唯一存在するこの学園はその村同士の境界線に存在している。つまり、村の中で数少ない共同運営施設の一つと言うことだ。


 ちなみに他には自治会館と教会が共同施設としてある。 

 そんなわけでこの学園は仲の悪い東西の村の中で数少ない双方の子どもたちがコミュニケーションを取れる貴重な学びの場としても重宝されているわけだ。

 その勇麻学園で俺の失われた青春が再開されるってわけか――


「やぁ、よく来てくれたね」


 とりあえず、俺は途中からの編入という事になるので先ずは校長室に赴き校長先生に挨拶した。

 名前は出雲 康平というようで穏やかな顔をした温厚そうな男性だった。


 体もわりとがっちりしてる方か。ただ、髪の毛は真ん中だけかなり寂しい。正直言えば第一印象は落ち武者だ。


「白木村長から話は聞いているよ。それにしてもまさかこう立て続けに新しい生徒が編入してくる事になるなんてね」


 うん? 立て続けと言うと、他にもこの時期の編入生がいたってことか?

 5月の連休明けにわざわざ編入してくるというのも中々珍しい気もするけど。俺の場合は事情が特殊だからそのあたり考慮してくれた部分もあったようなんだけどな。


「まぁとにかく、君には前もって紹介しておきたい人がいるんだ。赤井先生、どうぞ」


 校長が呼びかけると、失礼します、とひと声かけて20代と思われる女性が入ってきた。

 眼鏡の似合うクールビューティーといった雰囲気漂う女性で、手足がスラリと長く上背も高め。雑誌に出ててもおかしくないようなモデル体型をしたスタイルの良さだ。


 う~ん、わざわざここに呼ばれるという事はやっぱり教師って事かな?

 美人の女教師とは中々そそられるって何考えてるんだ。こんな美人が俺みたいな高校生、高校生、て! 俺24じゃん!


「いや、君、大丈夫? さっきから何か一人で笑ったり落ち込んだり驚いたりしてるけど」

「え? 俺そんな顔してました?」

「うん、凄くわかりやすかったよ」

「――白木 勇士、とてもわかり易い性格と――」


 て、何メモしてるのこの人! なんでいきなり? ホワイ?


「今、どうして私が急にメモしたの? Why? と思いましたね」

「いや、思ったけど!」


 そんなにわかりやすいのか俺……そしてこの人、英語のイントネーション完璧だな!


「申し遅れましたが、私は貴方の入るクラスの担任教諭となった赤井(あかい) 美月(みつき)よ。今日から臨時教師として配属されたから、私も色々初めてな部分が多くて、だから気になることはメモは取るようにしているの」

「うん、何か私から紹介する前に全部話してしまったね」


 確かに。どうやら校長は俺に担任を紹介したかったようだ。

 う~ん、それにしても臨時か。それなら色々覚えるためにメモを取るのも判るか、て!


「え? 臨時なの? 臨時教師ってそんないきなり担任になれるものなの?」

「うん、流石は実際は24歳だけあってそのあたりは聡いね。でも仕方ないんだよ。うちみたいな田舎の学校は教師の数も常にギリギリ。特に今回なんて、前の担任は、趣味で公開していたWEB小説が書籍化決まったので執筆に専念するために今日で辞めます、なんていい出してから本当に辞めちゃったからね」

「何か凄いですねそれも……」


 WEB小説で書籍化が決まったから仕事辞めるって、それ止める人いなかったのかよ。今の御時世中々の無謀さだぞ。


「WEB発祥の自分の小説が書籍化。それが売れに売れてあっという間にコミカライズ、そしてアニメ化、ミリオン達成に映画化、グッズも売れに売れて夢の印税生活へ! などと夢を見たのでしょうが考えが甘すぎてヘドが出ますね」

「うん、まぁ彼も臨時教師で入ってきたばかりの君にそこまで言われているとは夢にも思ってないだろうね」


 辛辣すぎるな……頑張れよそいつ!


「まぁとにかく、後は特に話すことはそうだね。赤井先生が受け持つのは英語。あと、彼女も君の本当の年齢を知っているから何か困ったことがあったら気兼ねなく相談するといい」


 そういえば年齢知っているんだな……校長に話が通っているのは爺ちゃんから聞いていたけど、担任だから気を利かしてくれたってところか。でもこの人性格キツそうなんだよな。

 辞めた教師についてもボロクソだったし。


「後は生徒手帳で規則とかは確認しておいてね。とはいっても貴方はもう24歳ですからね。そのへんはある程度自己責任に任せます。ただ他の生徒の目がありますからあまり羽目は外さないように」

「それは勿論。そこは出来るだけみんなに合わせますよ」

「うん、お願いね。それじゃあ後は先生に引き継ぐとして……そういえば、お墓参りはもうすみましたか?」

「……はいそれは。ただ……」

「うん、ただ?」

「あ、いえ何でもありません」


 校長は頭に疑問符浮かんでたけどここで話すことでもないだろうし。


 さて、とりあえず、校長との話も終わり、俺は早速担任の赤井先生に連れられてクラスへと向かった。


「……ところで先程お墓参りと話があったようだけど、不躾な事を聞くようだけど、もしかしてどなたかが?」

「うん? あぁ。俺の母親がな……」

「そうだったのね。ごめんなさいね変なことを聞いて」

 

 そういいつつしっかりメモとっているんだが……。


「こんなことまで記録するのか?」

「生徒のことをよく知っておくのも教師の役目。正直面倒だけど」

「は? え? 何いってんの?」

「さ、教室に着くわよ」


 いや、赤井先生の言ってる意味がわからないぜ! そしてそうこうしてるうちに教室の前についた。ドアの縁あたりにはプレートが設置されていて東組という表記がある。

 し、シンプルだ。そしてちょっと離れたところに西組というプレートがあった。一年生のクラスはこの2つしかないらしい。

 俺は思わず赤井先生を振り返った。すると全く表情を崩さず。


「この学園は高等部のクラスが少ないのよ。中等部まではともかく高校は自分で選んだところに行きたいという生徒もいるし、親もやっぱり進学率の高い高校に乗り換えたりするから仕方ないわね」


 そんなものか、ととりあえず納得する。ちなみに初等部や中等部は大体4クラスあるらしいが、名称は東龍組、東鳥組、西虎組、西亀組とで分かれるようだ。東と西はデフォなんだな……。


 そして教室に入り、自己紹介を含めた挨拶。クラスの人数は26人だった。そして俺が入ることで27人に増えるとのこと。

 挨拶は無難に終わらせて席に着く。そして間の休み。


「この時期に編入って珍しいね」

「ちょっとたちの悪いウィルスに掛かっちゃってね。でももう大丈夫だよ」

「勇士っていい体してるよな。何かスポーツしてたん?」

「爺ちゃんが道場やっててそれで少しね」

「可愛い妹いる?(ハァハァ)

「うん、いても絶対に教えない」


 そんな当たり障りのない会話をして過ごしていく。よく話しかけてくるのは、佐藤、鈴木、田中の3人だ。覚えやすい。

 佐藤は佐藤っぽい顔だ。鈴木は鈴木っぽい顔だ。田中は変態だ。妹はやらねーぞ。まぁお前らよりもう年上なんだけど。


 そして――授業についてだが。これはもうノーコメントだ。それでも有り体に言えば敗色濃厚。つまりさっぱりだった畜生!


 これでも異世界に行く前はわりと普通、より少し悪いぐらいだと思ったんだけどな。

 あれぇ~? おかしいな田舎の高校ならそんな難しくないと思ったのに。それ以前にこの8年間で学校のレベル上がってないか? 


「なぁ因数分解って8年前にはなかったよな?」

「いやだ勇士くんって面白いんだねぇ~」


 女子の小林さんに笑われた。でも可愛いからいいや。まあ、いっか。ほら、俺感覚派だし。


 そして昼休み。この学園には給食はない。ただ、学食があり、初等部と中等部はフリーパスを購入することで学食で毎日昼にありつける。田舎の割に意外とそういう制度はしっかりしているな!


 だけど、俺にはフリーパスは与えられていない。散々凱旋だ、勇者だと持ち上げた割に昼食代に500円貰っただけだ。

 何とも残念な気持ちになったけど、衣食住に困らないだけ贅沢もいえないか……。


 だから、佐藤、鈴木、田中の3人に案内され学食に隣接された売店に向かう。

 3人も同じみたいで、売店でパンを購入するつもりらしい。


 こういう時、よく売店でパンの取り合いみたいな展開がおきたりするのだが、流石に田舎だけあってそこまで必死にならなくて十分買えるようだ。

 ちょっと残念だが、もしそうなったとしてうっかり俺が本気でも出したら大変な事になるから良かったとも言えるか。 


 そして売店にたどり着いた俺だが、そこには気になるパンが一つ、その名を勇者パンという。

 ゆ、勇者パン。凄く心に響く名前だ。これはまさに俺のためにあるパンと言ってよいのではないか?


「おばちゃん、この勇者パン一つ」

「この魔王パンを一つお願いします」

『――うん?』


 その時、俺の隣にやってきた誰かが勇者パンの隣りにあった魔王パンとやらを頼んだ。魔王なんて不吉な名前のパンをよく頼むなと首を巡らすと向こうも俺を見てきて――そしてほぼ同時に何かに気がついたような声を発したわけであり。


「ゲゲッ! なんであんたがここにいるのよ!」


 そしてビシッ! と俺に指を突きつけ叫んできたのは、あの河原で出会った美少女、そう偶然だとは思うが俺の態度に怒り出した瞬間、頭上から隕石を受けるという目にあってしまった、ある意味忘れられない少女だ。


 まぁ、あれはどう考えてもこの少女の勘違いだったわけだけどな。でも、まさか同じ高校とは――て、よく考えたら別に全然おかしくないな。そもそもこの村には学園が一つしかないわけだし、この子の見た目年齢も女子高生ぐらいだったわけだから十分あり得た。制服も高等部のものだし。


「あ、いや驚いた、偶然だな――」

「わ、私の半径1メートル以内に近づいているんじゃないわよ~~~~!」


 え? パンツ――じゃなくて顎に向けて蹴り足が伸びて……。


「ぐべぇ!」


 俺の顔面に見事にヒットした。く、黒かよ――

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