プロローグ
コツコツと心地良い足音が鳴り響く。
長い廊下は薄暗く、光源は壁の両側でゆらゆらと揺れる淡い蝋燭の灯火と月明かりぐらいだ。
一歩また一歩と大理石の床を踏みしめる。外側から見るには趣味の悪い不気味な外観をした居城だというのに内部は意外と凝った作りをしている。
壁に描かれた壁画は美しい。薄暗い中でも吹き抜けとなり透明な硝子で覆われた天井から差し込む青白い月明かりはどことなく幻想的でもある。
俺は首を擡げ天井を見上げた。満月が中天の空に輝いていた。
シチュエーションとしては最高だな、と少しだけ口元を緩ませる。
そう、これが過去にいた世界のゲームだったなら少しだけ緊張してラスボス戦に挑むところだ。
アイテムチェックなんかも忘れないだろう。だがこれは現実――リアルだ。
地球の日本から突然異世界に召喚されて2年。
勇者様等と讃えられた時は驚いたものだが今となってはいい思い出だ。
俺がここまでこれたのは勿論俺一人の力だけによるものじゃない。仲間の助けがあったからこそだ。
ちょっと天然系でドジっ子だけど可愛らしくいつも笑顔、そしてどんな傷でも包み込むような優しさで癒してくれる女神官ユレール。
ウェーブの掛かった燃えるような紅蓮の髪にキツく吊り上がり気味の瞳、粗暴な口調もあいまって男まさりな印象を与えるが、いざとなったら便りになる姉貴肌の女魔導師アネーゴ。
筋骨隆々で戦士という職業を体現したような厳つい肉体と顔。
しかし普段は温厚で寡黙、仲間のなかで年長者でありいざとなったら得意の斧で敵を蹴散らす力強さも秘めた豪腕の戦士ファイト。
この3人の仲間の助けがなければ魔王城どころか途中の強敵たちに勝てたかも怪しい。
今だって俺を先に行かせようと、魔王の側近である残りの四天王と熾烈な戦いを繰り広げてくれている。
『勇者は先に行け! そして魔王を討て!』
そう言って俺の為に残ってくれた仲間たちの期待に俺は答えなければならない。
時は来た。今、目の前に佇む巨大で仰々しい黒き門。
その扉が割れる。開放される。俺を招き入れるように。もしくは餌を胃の中に放り込むように。
だが恐れない。怯まない。揺るがない!
俺は扉を抜け、王が一人鎮座するには広すぎる空間を見回した。
天井までは馬鹿みたいに高い。玉座までは青黒い絨毯が伸びている。左右の壁際に立つ柱の柱頭は悪魔を模していていかにもそれっぽい。
そして――正面に見えるは玉座にどっしりと構えて座る、魔王。
余裕さえ感じさせる風貌は、恐らく人とそれほど変わらない体躯をしていながら、とても巨大な存在にも思えてならない。
『よくここまでやってきたな勇者よ』
低く押しつぶすような声が脳髄にまで響き渡る。声が少しくぐもって聞こえるのは顔全体を覆う兜の為か。
左右に角のような物が生え、目元には一文字の細い穴。
兜だけではなく全身を隙間なく覆う鎧も漆黒で、闇の王に相応しい出で立ちとも言えるだろう。
「やっとここまでやってこれた――」
そして俺も、目の前に座る魔王の前まで脚を進め、そして睨み据えながら言葉をぶつける。
全ての悪を断ち切ると言われている勇者の剣ムランマッサにあらゆる邪悪な攻撃から身を守ると言われている勇者の鎧。付けるだけで顔全体に魔法の防御が働く勇者の額当てにそして足力を高める勇者の靴と力を漲らせる勇者の小手。
そしてあらゆる魔法を弾くとされる勇者の盾も片手に――
全ての勇者の装備は俺を選んでくれた。だからこそ俺はこの装備で、目の前の魔王を、討つ!
「魔王よ、お前にもきっとお前なりの信念があり、そしてこれだけのことを行ってきたのだろう」
『…………』
魔王は何も語らず、ただ兜の奥の闇穴から俺の姿を観察し続けている。
だから俺は刀をスラリと抜き、戦う意志を見せつけた後、声高々に宣言した。
「だが、だからといって魔王軍がこれ以上人間の生活を脅かすことを看過しては置けない! おれはいち勇者として貴様をここで討ち倒す!」
『面白い!』
魔王は玉座から蹶然し、俺を俯瞰するようにしながら声を張り上げた。
『ならばその力、見せてみるといい! お前が勝てたなら、大人しく人間たちの元から我が軍勢を引き上げようぞ!』
……敵でありながら、その口調、佇まいは凛然としていた。
それは、彼が只の悪の親玉でない事を証明していた。もしかしたらこの魔王は、魔王なりに、この世界の未来を考えての決断だったのかもしれない。
だが、それでも、俺は、やらなければいけないんだ! この世界の為に! そして俺が元の世界に戻るために!
『さぁ勇者よ受けてみるがよい』
先に仕掛けてきたのは魔王だ。その手の中に闇色の光が集まりだして、人間の頭ほどの黒球を作り出す。
ダークソウルバアル、闇の魂力を封じ込めそれを発す。
手から天井へと向けて放たれたダークソウルバアルは途中で弾け、無数の破片が豪雨の如く降り注ぐ。
だが俺は勇者の盾を掲げそれを跳ね返す。勿論魔王自身に跳ね返した魔法によるダメージはない。
俺はそこでゴッドライトニングを放ち反撃を見せた。
この世界の絶対神ゼクスが放つ裁きの雷を体現した魔法。
しかし魔王は全身を覆う魔障壁でそれを防ぐ。
「……魔法では決着が付かないみたいだな」
俺は魔王を見据えて強い口調でそういった。
『そうだな? ならばどうする?』
魔王の言葉に俺は思わずニヤリと口角を吊り上げてしまう。
魔王も兜で阻まれその顔まではみえないが、それでも同じような表情をしているような、そんな気がした。
そしてお互い申し合わせたように同時に飛び出し、剣と剣が刃と刃が交差し合い重なりあう。
演舞のように踊るように、俺の積み重ねた撃剣と魔王の王たる撃剣が意地と意地がぶつかり合う。
その攻防はきっと果てしなく続くのだろうとさえ思えた。だが事実は瞬きのような一瞬の出来事でもあった。
お互いの高い能力は、一秒を一時間に一分を数十時間にも錯覚させる。
刹那の間に魔王が大剣を10振るえば、俺が11を返し、俺が100を返せば魔王が101を返す。
戦いを演じ合う事で俺の顔は何故かとても活き活きとしていた。魔王もきっとそうだろうと思う。
だがその時はいつまでも続くものではない。そしてこの戦いは終わらせねば行けぬ戦いだ。
『よくぞ私をここまで本気にさせた。勇者よ、だがこれで終わりだ。敬意を評して我が最大の技をみせようぞ! ダークイレイズ!』
魔王が大剣の先に魔力と闇の力を集束させる。魔法ではない。魔王の生命力さえ込めた必殺の一撃。
これは俺の勇者の盾だけで防げるものではない。
いや、防がない、避けない。魔王はこれに全てを掛けている。保身など微塵も考えていない最高の一撃だ。
ならば俺とてそれに全力で応えねばならない。
「八龍開放八岐大蛇・八尽斬鬼!」
俺はありったけの力を刃に込め、闇に包まれ前に飛び出した魔王を見据え、光に包まれながら後に続く。
闇と光が巨大な球となり広間の中心でぶつかり合う。
光も闇もその勢いを徐々に増していき、均衡した力はバチバチと迸り、柱も天井も壁も床も次々に砕け互いの光は魔王城まで飲み込んでしまうのではないか? とも思えたが――その瞬間、爆轟と共に全てが弾け飛んだ。
結論からいうなら俺は見事に魔王を打ち倒し、この王国に平和をもたらした。
そして女王の前に迎え入れられた俺は彼女に叙勲された。
ちなみにこの王国は先代の娘が後継者として戴冠し治めている。
まだ年も30そこそこと若く、見目麗しい淑女であるが、臣下からも臣民からも愛されている。
きっと魔族の脅威もなくなりこれからはこの国を平和に導いていくことだろう。
そして叙勲式の後は当たり前のようにパレードが行われ俺は他の仲間と地竜車に乗せられ、人々から感謝の声や拍手喝采を浴びることになった。
魔導師のアネーゴはタタ酒が飲めると喜んでいたが、俺は正直恥ずかしくて死にそうになった。
晒し者にでもされた気分だが、一応は魔王を倒した勇者だ、仕方がないのかもしれない。
ただ緊張していたのは神官のユレールも一緒だったようだ。
俺の顔を見ながらも照れくさそうに頬を染めている。
しかし地竜車は結構揺れるせいか、ユレールのその、大きめな果実もそれに合わせてはっちゃけてくれるので、正直目のやり場に困った。
なので戦士のファイトを見ることにする。
しかし彼はこの状況でも全く表情を変えず沈黙を保っている。俺なんかよりずっと貫禄があるだろう。
こうして俺たちはパレードを終え、なんだかんだと色々な話を国の重鎮を交え話した後、堅苦しい話はここまでにしましょうという、女王陛下の宣言の下、勝利の宴に参加することとなる。
「おう勇者! どうよ呑んでいるか!」
「ははっ、まぁ少しはね」
宴の盛り上がりは全く尽きないが、俺に関して言えば流石に少し疲れた。
この世界に来て酒は嗜むようになったがそれほど強いわけでもない。女魔導師でありながらあの大酒飲みで知られるドワーフにすら酒で打ち負かしたこのアネーゴ・ハーダレスとは肉体的にも内臓的にも大きな違いがある。
今もワインを樽で呑んでるのだから凄まじい。
「ぷはぁ~! やっぱりワインは樽呑みに限るぜぇ」
「そんな話をドワーフ以外から聞くとは思わなかったな」
「ドワーフねぇ。まぁあのドワーフの王というのもそれなりにやるようだったけど、あたいからしたらまだまださね」
魔導師なのにこの口調だからな。それにしても今日はいつもと違って、いやいつも以上に胸の開いた服装だな。でもいつもだって胸がガバッと開いて足の部分に大きなスリットの開いたローブ姿だったからあんまり変わらないか。
ドレスそのものはかなりいい生地の上質なものだと思うけど、アネーゴは性格が男勝りだからな。
「……ところで勇者」
「あれ? ファイトいたのか?」
「いや、ずっとアネーゴと一緒にいたんだが……」
そ、そうだったのか。ファイト・パワーはガタイもでかい上、一流の戦士だ。普段は巨大な斧も持っているし黙っていても目立つ――筈なんだが寡黙なタイプで積極的に会話に参加してくる方でもなかったから不思議と影が薄くなることも多かった。
本当、近くにいるのに気づかないぐらいで、盗賊関係の気配消しの技術でも会得しているのかと思ったほどだ。
「悪い悪い。それで、何かあったか?」
「いや、実はな――俺たち今度一緒になることになったんだ」
「うん? 俺たち? 一緒?」
ちょっと言っている意味がよくわからないな。ただ何故か横で聞いていたアネーゴが目を逸らしている。頬もさっきより赤みが増したような……あぁ、そうか。
「アネーゴ、強いのは判るけどあまり呑みすぎるのも体に毒だから程々にね」
「へ? う、うんまぁ」
「それでファイト、一緒になるってこれからも一緒にパーティを組んでいくって事だよな? まぁここまでやってきた仲だしそれはそうだよな」
「……はぁ、こいつ、本当こういうのは駄目だね」
うん? 何故かアネーゴに呆れられたぞ?
「……勇者。一緒になるというのはその、このアネーゴと俺で、生涯一緒に、つまり、結婚するんだ俺たち」
「へぇ~なんだそうか。そっかそっか、て、ええぇえええぇえぇえ!」
吃驚した! まさか、結婚だったなんて。一緒になるって、そういうことだったのか……まさか、そんな深い仲になっていたなんて、驚いたよ。
本当、一緒に冒険している時はさっぱり気が付かなかったからな。
「でも、良かったなふたりとも。それにしてもファイトがアネーゴをね」
「……正直俺も驚いてる。オッケーしてくれるとは……」
「ちょっとちょっと、今からそんな事でどうするのさ全く。とにかく、まぁそんなわけだから、一応報告って事で! さ、それじゃあファイト戻るよ! まだまだこっちは呑み足りないんだからね!」
「ま、まだ呑むのか? 俺はいい加減……」
「何情けないこと言ってるんだい! あたしの旦那になろうって男が全く。そんな事じゃ困るよ!」
そして、ファイトはアネーゴに無理やり宴の会場に連れ戻されていった。う~ん、尻に敷かれそうってのはあぁいうのを言うんだろうな。
「あ、あの勇者様……」
アネーゴとファイトが戻った後、今度は女神官のユレール・バストヨイがやってきた。するとその様子を見ていたアネーゴが何故かニヤッと笑みを浮かべ親指を立ててきた。
正直俺にはその意味は理解できなかったが、改めてユレールを見るとうつむき加減にモジモジしている。
呼び止めたってことは俺に何か用があったんじゃないのかな? う~ん、それにしても、なんというか、あいかわらず胸がすごい。
今更といえば今更なんだけど、今日は宴ということで城の方で用意しくれたドレスに着替えているからだろうか?
女神官らしい純白のドレスなんだが、胸元がこれでもか! というぐらい開いている。エグすぎだろこれ……俺だって一応は男だし、こんなの見せられたらやっぱ目はそっちに――
「ゆ、勇者様!」
「ひゃ! 違う! そうじゃない! なくないけど、そのエッチな意味で見てたんじゃ!」
「はい?」
突如顔を上げ叫びだしたから、チラ見してしまった俺の視線に気がついたのかと思ったけど……キョトンっとしてるし違うのか?
ま、まぁ違うならいいけど。
「あ、いやごめんこっちの話だ。それより、ユレールこそ何か話があったんじゃないのか?」
「は、はい。その、あの、ゆ、勇者様……」
「うん?」
「――やはり、元の世界に帰られてしまうのですか?」
あぁ、そう来たか。ユレールの目は真剣だ。それにはしっかり答えないといけないんだろうな。
だから俺は――
「本当に、行ってしまわれるのですね勇者様」
「あぁ、この世界での俺の役目は終わったしな。折角宮廷魔導師が総力を上げて解読してくれた送還の魔法術式だ。折角だから利用させてもらうよ」
出来るだけいつもどおりのノリで話したつもりだが、女王様は淋しげな顔を見せている。
魔王を倒すためにこの世界に呼ばれた俺だったが、最初からその事を受け入れたわけではなかった。
ただ、当初はこの国の女王や大魔導師ですら勇者召喚の術式だけは手に入れることが出来たが帰還の術式にまでは考えたいってなかったようだ。
そもそも国としてはまさか異世界から勇者を召喚しているとは思っておらず、神話に伝わる神のような存在が降臨すると思っていたのである。
それがやってきったのは日本からの俺だからな。それを聞いて何か逆に申し訳なく俺もあまり強くはでれなかった。
とは言え、俺の素性を聞いてからは女王は元の世界、つまり地球に帰るための魔法についての情報収集を、国を挙げて取り組んでくれた。
そして俺は俺で旅の途中で色々な古文書や古代の壁画などを見つけては情報を提供したりもしていた。女王は女王で色々な情報を小出しではあるが教えてくれてその度に情報源を探しに赴き、何か厄介事に巻き込まれるということが定番に、ん? あれ? 何か俺利用されていた?
そういえば、なんやかんやで勇者業を請け負うことになったのもなし崩し的だったような、き、気のせいだよなうん。
ま、まぁ、とにかくその一番のヒントは結局魔王城の中にあったんだけどな。つまり結局のところ俺が地球に帰還するためには魔王城に赴く必要があり、そこまでいったらもう魔王と戦う他選択肢がなかったというわけだ。
「……勇者寂しくなるな」
「全くだねぇ。本当、ここまでいたんだからこの世界に居座ればいいのに」
「ははっ、皆にそう言ってもらえるのは嬉しいけど……」
「……あぁ、判ってるよ。あんたにだって向こうに待っている家族がいるんだろ? 前もそんな事言っていたもんね。引き止めるなんて勝手がすぎるってもんさ。向こうで達者でやりなよ」
アネーゴは、俺にとって姉さんみたいな人だった。魔法を教えてくれた時はスパルタだったし、ぶっきらぼうで男勝りで酒癖も悪くて――でも、いざという時にはとても頼りになる。
ファイトも寡黙で口数こそ少なかったけど、常にメンバーの事を考えて動き、身を挺して皆を守ることもじさない心優しき戦士だった。
俺に戦い方を教えてくれたファイトは、優しくもあり厳しさも併せ持っていた。
アネーゴが姉ならファイトは頼りがいのある兄ってところだ。
「ほらユレールも、最後なんだから」
すると、アネーゴがファイトの後ろに隠れていたユレールを引っ張り出して背中を押した。
俺の目の前に彼女の顔と揺れる胸……。
「ゆ、勇者様。私は勇者様のおかげで変わることが出来ました。今でも感謝してもしきれないぐらい。だから、だからもっと、もっと勇者様の為になり、たかったです。うぅうう」
「ユレール……」
グスグスとぐずりだす。そうだ、ユレールは俺達の中で一番最後に仲間になったけど、当初は臆病で自分に自信のない引っ込み思案な女の子だった。
でも旅を続ける内に彼女の回復魔法に随分と救われてきて、それでも悩んでる彼女の相談によくのって上げたっけ。
そう考えるとユレールは俺にとっては妹みたいな存在だな。
「全く、また泣き虫が復活したか? 駄目だぞ。これからは神官としてしっかりと頑張っていかないと駄目なんだから」
「……勇者様、勇者様、また、会えますよね?」
「え?」
正直、返答に困った。来る時は召喚で地球から知らない内に移動していたわけだし、ここから地球に帰ってしまったら戻るすべは知らない。
だけど――
「……あぁ、そうだな。お互い元気でいればまた会える日も来るかもしれないさ」
曖昧な返事ではあるけど、それで少しでも気持ちが楽になるなら、そういうことにしておこう。
アネーゴもコクリと頷いているし。
「それじゃあ、そろそろいくよ。ファイト、アネーゴ、いつまでも仲良くな。ユレール、ユレールなら神官として立派にやっていける。治療魔法の腕も抜群だしな」
一緒に旅してきた仲間に別れの挨拶をの述べる。今までの思い出が脳裏に去来し、グッとくるものがあったけど涙は見せない。
「女王様――この王国の今後はあんたの手腕に掛かってる。でも、大丈夫さ。魔王から国民を守ってきたし、何よりあんたには信頼できる臣下や騎士が揃っているんだからな」
最後に女王に顔を向け、そう告げてやる。色々思うところもあるが、でもやはり女王がいなければ王国は成り立たない。それは間違いのないことだ。
「勇者様――はい、そうですね。この国の事はお任せください。それとお預かりしていた品々も大切に保管致しますので」
品々というのはこの世界での冒険の途中で手に入れた戦利品の数々だ。勇者として身につけていた防具なんかも向こうでは必要ないし女王様に預かってもらうことにした。まぁ刀だけは別だったけど。
「……勇者」
「――全くもっと酒を呑ましとくんだったよ」
「勇者様、私、必ず、必ずまた会えると信じてます!」
3人の言葉に俺はニコリと微笑み反し、最後に、じゃあ待たな、と言葉を残した。すると魔法陣の中で俺の体は光りに包まれ、世界が反転した――
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ブックマークが増えるとこれだけの読者が読んでくれてるんだとわかるため作者の励みになります。
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