なぜ俺が
今日も俺はよく頑張った
よく頑張りました
チンしたスーパーのお惣菜を並べて
冷蔵庫で冷やしていたグラスにビールを注ぐ
ぐっとビールを煽る
喉に炭酸がぶつかる
あぁあ〜うまい
1日の労働後のビールはうまい
お歳暮の時期が近づいてきたし、
そろそろ繁忙期か
40手前になってくると、
身体の疲れが日々蓄積されているように感じる
身体のリセットとはないものか。
そんなことを冗談半分、本気半分で考えながら、
食べ飽きた味のお惣菜を口に運んだ。
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今週末は銭湯でも行こうかな
独り暮らしだと
湯船に浸かることもあまりない
少しだけ横になろうとベッドに横たわると
もう動けなくなってしまった
あぁ睡魔でまぶたが落ちてしまう
あ、電気…
電気、消さないと…
眠りに落ちる寸前、干してもいないはずの布団から、心地よいおひさまのにおいがした
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気がつけば俺のズボンはずり落ちていた
ん?
ん???パンツもずり落ちている
簡単に言えばあれだな
俺の身体がしぼんでる…?
変な夢でも見るもんだな
姿を確認しようと何か鏡はないかと周りに目を向けて気づいた
建物と建物の間のいかにも路地裏である
近くには大きな木の箱(おそらく隣は飲食店か?)があり、その横には空き瓶が並べられている。
これはどこか見当もつかないが、
こんな路地裏にいては分かることも分からんだろう
移動しよう
とは思うが、
移動するために
この格好ではな…
ずり落ちたものを見下ろす
なんの変哲も無い、寝るときに着ている着古した灰色のスウェットだ
このパンツはもうでかいし
横を結べればいいけど、トランクスはちょっと結べないし、もういいか
ズボンは…もういいか
お気づきかもしれないが、俺はこのとき
結構なにもかもめんどくさくなっていた
しかし、パンツの意味を思い出し、菌が体内に入るのはやばいと思い直す
ふと木の箱に麻紐とナイフがかけられていたのが目に入った
とりあえず股の間に布があれば良いだろうと
スウェットの前の真ん中を力いっぱい伸ばし、
股の間を通して後ろに回し
後ろ側をちょっとつまんでいっしょに麻紐でぐるぐるにした
尻尾みたいになったがまぁいいだろう
手先が思うように動かなかったがなんとかできた
ふうっと座り込んだ
すると裸足の足が目に入る
ついでに
足の裏を守るため、スウェットのズボンを適度に切り麻紐でぐるぐるにした。
はよ夢醒めねぇかな、、、
とりあえず状況確認しようと立ち上がるために手をついた
「いてぇ!!!!!」
ガラスの小さな破片が手に小さな傷を作ったようだ
血が滲む
夢にしちゃ痛くないか?
ま、そんな夢もあるんだろ
パッパッとゴミを払い、
ペロッと傷を舐め、
はよ覚めろよ
と何度でも思いながら
路地から出ようと
仕切り直して歩き出す
ちなみに見た感じ、手も足も目線もちんこもちっちゃくなっていた
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路地から外に出ると、
やっぱり隣の建物は飲食店ぽい
ガラスで俺の姿が見える
うーん、正確には分からんが、小3.4くらいだろう
髪型は大人と同じだな
少し伸びてきた髪を指先でつまむ
特に空腹に感じない
身体も元気
もう一度ガラスを見ると、
その飲食店らしきガラスの上に全く見たことのない言語が書かれている、見てなかったことにした
今度は今いるこの場所の状況把握だなとあたりを見まわす。
小さい店が並んでいるな。時間帯は昼前くらいかな
店があることもあって、人が結構多いな
幸い?大人の目線に入らない高さなのでまだ気づかれていないようだ
人はあれだな
RPGの町民を思い浮かべてくれ
あとなにより1つ言いたい
女性はふっくらした人が多く、胸とお尻がでかい
男性はなんかがっしりしている
むきむきじゃないか?
俺もあんな大人になりたかったんだけど
というか全体的にでかい気がするのは
俺が縮んだからなのだろうか
みんな優しそうではあるが、同時に忙しそうでゆっくり話せなさそうだ
この中にいたところで状況は好転すると思えないな
もう少し、人の少ないところが良いなぁ
いつのまにか目線が下がっていたようで、石畳が視界に入る
ついでにぐるぐる巻きにされた不恰好な自作の靴?が視界に入り、なんとも言えないひもじい気持ちになる
足に優しい芝生とかがいい
とりあえず
緑があるところが良いな
人の足をすり抜けながら、何も考えずぐんぐん歩いて行った
まだそんなに進んでないところに
魚屋があった
服装は違うといえ食べ物は同じようだ
さんまやイカが目に入り安心する
その店前に黒ぶちの痩せた猫がいる
あぁ猫もいるのかと心が少しばかり安心する
この時点で嫌な予感がしたが
黒ぶちのその猫に触れたくて
その店に近づいた
俺が悪かったんだろう
猫は俺が撫でようと差し出した手をすり抜けて、さんまをくわえ
ビュンと逃げた
え?
そう思ったときには遅かった
「×××××!!!!!!!」
店主らしきおじさんが目を吊り上げて俺を見て怒鳴っている
え?いやいやいや俺じゃねぇよ?
ガタイのでかい身体でドシドシとこちらに向かってくる
やばい
どうしよう
全然人と目が合わないからもしかして自分は幽霊かと思って油断してた分
人に自分が認識されていると分かり
パニックになった
子どもになってはじめに
目があった人間がこれってなんだよと
しかも明らかに日本語じゃねぇよと
思いながらがむしゃらに走った
もう無理だと息切れして吐きそうな俺は立ち止まる
足がもつれて倒れてしまった
後ろからどなる声がいつのまにか消えている
起き上がる力もなく、大の字で寝そべる
こんなに走れたのは子どもの体だからかもしれないなぁ
無心で走っていたからか
喉が渇いてしまった
腹も減ってきたな
そして気づけば自作の靴は無くなり、
裸足になっている
傷だらけなんだろうと
痛む足の裏を見る勇気はない
周囲を見回すと森の中のようだった
あんなに人が多い場所からなんですぐに森なんだと思った
1日仕事で疲れた身体を眠っているときくらい癒したいのに
ヘトヘトで身体を動かせないような、それとは正反対な今に
もう動けねぇよと目を閉じた
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身体をゆさゆさと揺さぶられる
んー?
あー、やっと目がさめるのか
風呂はいろ
そう思い、
近くに感じる土の匂いからは考えをそらしながら
目を開けた
夢の中で寝て起きるなんて俺は経験したことない
おかしいぞ
これただの夢ではない…?
という思いや
なんだか身体がだるい気がする
腹減ったし喉もカラカラだ
という思いは、すっとんだ
いやに顔のいい目と目が合う
険しい顔をした、なんとも硬派な印象をもつにいちゃんがこちらを見ている
少し目線を下げると
あぁ終わったと思った
西洋風の騎士のような服装を着てる
しかもガタイがめちゃくちゃいい
服の上からもわかる胸筋が半端ない
昨日の誤解からして、つまりそういうことだろう
なんかもういいや
そう思いもう一度無愛想にいちゃんの目を見た
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先程から時間はそんなに経っていない
しかし、この無愛想にいちゃんが俺をとっつかまえにきたわけではないことはわかった
それ以外の状況については全くわからない
全く。
なぜか目の前の男に頭をガシガシ撫でられている
痛いんだが
顔に出たのか、今度はそーっと触れるか触れないかで撫でてきた
今度は悪い気はしない
「お前はだれ?」
あれ?俺こんな声だったっけ?めちゃめちゃ高い気がする。
小3.4ってこんな感じだったっけ?
喋ってるのは自分なのに、自分の声じゃないみたいで変な感じだ。
「??」
無表情で首を傾げられた
??
俺も首を傾げた
「×××××…?」
無愛想にいちゃんの発した、全く聞き取れない言葉に
なるほどね、そういう系ね
と軽く絶望する
「×××!!××××××××?」
そして、
おいおいおいここはガタイのいいやつしかいないのか?
無表情にいちゃんを呼びにきたのは、
まさに騎士です!っと言ったような金髪のハンサムにいちゃんだった。
俺を見て驚いた顔をする
俺も驚いた顔をしているんだろう
え
なんか近づいてきた
両頬をガシッと指の太い男の手で掴まれる
!?
頬ずりされた
なんだなんだ
何が起こってる!?
俺は誰かに頭をガシガシ撫でられたり、頬ずりされた経験はない
しかもこんな大男らに!
俺もバカじゃあないからな
ろくに40年近く今まで生きてきたわけじゃない
ま、ニッポンの常識がここでの常識とは思わないけれども、
だいだいは同じだろ?
姿形といい、尻尾が生えてるわけじゃないし人間っぽいし…
そう、だから、
こいつらが言いたいことはわかる
俺が
俺が
可愛いんだろ?
自分で言ってて寒気がする
しかし、まぁそういうことなんだろう
俺の小学校時代って
可愛かったか?(混乱)
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あの後最大に鳴った、俺のお腹の虫に
ハンサムにいちゃんがくすっと笑い
無愛想にいちゃんが俺を片腕抱きし、歩き出した
持ち上げられるとき落下しそうで
とっさに
首に両腕でつかまってしまった
なんでこの運び方なんだとバタバタ暴れようとしたが
何せ今の俺はHP0だ
たとえHP100だとしても100越えだとしても、
彼らにかなうなんて
1ミリも思えない
しかも彼らは俺を可愛いと思っているんだから
危険な目には合わせないだろう
まぁ願望も入っているが。
しばらくすると、ポツポツと民家や店らしき建物が見えてくる
先程自分がいた町とは違うようだ
そして、パン屋らしき建物の目の前で止まると、端の階段から上がっていった
上がってすぐのドアを開けると
なるほどおそらく彼の家なのだ
余計なものがない殺風景な部屋の様子に
うわ〜ぽい〜!
と思った
まずは水道に行き、抱きかかえられながら手を洗った。
机を挟んで二脚あるうちの一脚を引いてくれ、そこに降ろしてくれた
ほうほう
暗めの木を基調とした床やその色に合わせた家具らを観察していた
目の前の椅子に座ったハンサムにいちゃんがニコニコしながら俺を見ている
気まずいな…
そう思っていると
なんだか美味しそうなパンの焼ける匂いがする
もうよだれが口に溜まる
なけなしの俺の水分だ
目の前に美味しそうなサンドイッチとプチトマトが上に乗ったミニサラダ、湯気がホカホカ出ているホットミルクが出された
え
食べていいのか
持ってきてくれた無愛想にいちゃんを見る
ここまできて食べるなと言われても食べるけどね
すると小さく頷かれた
ハンサムにいちゃんも
「×××〜♪」と言う
まずホットミルクを一口飲む
ふーっと吐き出した息と共に張り詰めていた何かが出ていった
そこを皮切りに
ばくばく食べた
軽く焼いた食パンに挟まったチーズとトマトとレタスで出来たサンドイッチは
がぶりと噛み付くと
チーズがまろやかに他の具を包み込み、
そこにトマトの汁がジュワーっと広がる
うまい!うまい!!!
サラダもパクパク食べた後
ふぅーと息をついた
お腹が空いていた分、食べた時間ものすごく速かったんじゃないかと思う
パッと目線をあげると
優しげな瞳で俺を見る目が4つ。
それを見て、
あぁ、俺これがただの夢でなくて、こっちの世界に落っことされてたとしても、
小さくなっていて、言葉がわからなくて、
なにもこの状況が分かっていなくても
やっていけるかもしれないと
そう思った
最後まで読んでくださりありがとうございました。
少しばかりのif続編(R18)を投稿しましたので、
よろしければ、そちらもどうぞ。