第44話
前回までのあらすじ:美術館内でケッパンを待ち受ける黄太郎と鉄雅音、そしてアザレア・ギンガニアは、ケッパンの分身体を生み出す固有魔法によって分断されたうえでの戦闘を余儀なくされる。
しかし、黄太郎のゴリゴリパワー型戦闘とは相性の悪いケッパンは、何とか分身体の力を結集させて戦おうと、アザレアと分身の戦いに視線を向ける。
「フン!!」
と気合の一声とともに分身体の放った殴打に対し、アザレアは後方にバックステップすることで攻撃を回避し、更に彼女は自分の嵌めた手袋に魔力を込める。
その手袋は以前 黄太郎と戦ったときには着用していなかったものだ。
なにせ、あの時はまさか戦闘状況が発生すると思っていなかったため、手袋を携帯していなかったのだ。
だが、今回は違う。
十分な準備をした上で ここにやってきた。
そしてアザレアの手袋は、彼女にとって槍に次いで重要なアイテムであると言える。
「――魔法属性付与・火炎」
アザレアがそう述べると、手袋に刺繍されていた魔法陣が赤く輝き、彼女の槍の穂先に業火を燈した。
彼女の手袋は魔法を付与するための魔道具なのだ。
そして火炎を纏った槍を構え、アザレアは小さく呟く。
「ディタ式槍術・鳳仙花撃」
連続して放たれる突きが炎の尾を引きながら分身体に襲い掛かる。
「グっ!!」
分身体は何とか槍の攻撃を回避し、あるいは弾こうとするが、火炎を纏った槍の攻撃は掠めるだけでも徐々に炎熱による傷を受ける。
ましてや一定以上の攻撃を受けると霧散してしまう分身体では、これも致命傷になりかねない。
事実、分身体の肉体が損傷を受けて徐々に魔力が漏れ出している。
このままでは霧散するのも時間の問題だろう。
(……くッ!! あの女性も思っていたよりも手ごわい! 分身体の一体だけでは負けるか)
「おいおい、他所の女に目移りですか。妬けることしてくれますね」
「はッ!?」
よそ見していたケッパンに対し、黄太郎はためらうことなく背後から鉄雅音による一撃を振り下ろした。
しかし咄嗟にケッパンは折れた左腕をかばい、右腕を二本 具現化して黄太郎の手首を掴んで攻撃を受け止め、更に胸部から左足を一本生やすことで、黄太郎の前腕を抑えて衝撃を緩和させる。
(受け止められた!?)
(この隙を逃すな!!)
更にケッパンは地面を蹴って自分の両脚で黄太郎の右上腕を挟んで固定しつつ、掴んだ黄太郎の右腕を自分の胴体の方に引き寄せることで、肘関節を破壊しにかかる。
――いわゆる飛びつき腕十字である。
(このまま地面に引きずり倒して肘を極める!!)
そう思ったケッパンだったが、その時 黄太郎の身体が――突然 重たくなったように感じた。
「何ィ!?」
そして重たくなるということは、その分 崩しにくくなるということだ。
事実、黄太郎は両足を軽く開いた姿勢を保ち、そのまま右腕一本でケッパンを持ち上げ続ける。
(バカな!? こいつ!! どんな腕力をしているんだ!?)
身体強化魔法を発動したケッパンは、体重が70キロ台半ばでベンチプレスなら300キロ弱のパワーがある。魔法を使ってはいるが、この数字はパワーリフティングの世界王者クラスの力がある。
これは間違いなく圧倒的なパワーだ。
だが黄太郎は、それだけのパワーを持ったケッパンが、更に自分の体重を掛けた上で肘を極めようとしているのに、それを持ち上げているのだ。
無論、ベンチプレスは重いものを持ち上げるためのものだが、しかしそれでもケッパンが驚異的な力を持っていることは間違いない。
それでも身体強化魔法を使用していない黄太郎の方が力で勝っているのだ。
また、これで もしも黄太郎の肘が完全に極まっていれば別だったろうが、ケッパンは左腕が折れた所為で右腕 二本で極めるという特異なことをしている。
そのせいで完全に極まり切っていないのだ。
「力こそォオオオオオオ!! パワァアアアアアアアアアア!!」
気合の一声とともに、黄太郎は自分の右腕に組み付いたままのケッパンを近くの壁にたたきつけた。
――ドゴォ!! と鈍い音が響くとともに、石造りの壁に罅が入り、ケッパンの身体が軋む。
「かはッ!?」
思わずケッパンの力が抜け、そのまま地面に落ちる。
その隙を黄太郎が逃すはずもなく、彼は自分の左手を貫手にし、ケッパンの鳩尾に叩き込むべく鋭い突きを放った。
――が。
「それを待っていたのだよ」
ケッパンがジャケットの内から小さなドライフラワーのようなものを取り出し、それでもって黄太郎の突きを受け止めた。
すると花弁が伸び、そのまま黄太郎の腕を這いながら最終的には彼の首を締めあげた。
「……ッ!?」
黄太郎の首が締め上げられ呼吸が止まり、うっ血するのが見て取れる。
伸びた花弁は黄太郎の肉に食い込むほどに強く締め上げている。
何とか解こうとしても、あまりに強く締め上げているため、花弁を掴むことも ままならない。
いくら黄太郎の力が強かろうと、これでは意味がない。
「それはマジックアイテムでね。対象者を非常に強い力で締め上げてくれる。一度 絡まるとそう簡単には解けないよ」
ケッパンは壁に打ち付けられた衝撃で額から血を流しつつも、勝ち誇ったように そう告げ ゆっくりと立ち上がった。
「ら、乱場さん!?」
『黄君!?』
動揺したアザレアと鉄雅音の声が、薄れゆく黄太郎の耳に届くが、彼は力が抜け膝を着いてしまった。
そんな黄太郎の姿を見て、ケッパンは彼に背を向けると そのまま残るアザレアを仕留めようとした。
だが、その直後。
――キンッ! という甲高い音とともに、黄太郎の喉元から一本の太刀が生えた。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




