さあ、家を出よう その1
通所リハや通所介護には色々な所から色々な人がきます。
その時、家屋環境が悪くどうやって家から出そうかと考えます。
今回はそういった例をあげています。
今彼女の机上に一束の書類がある。
ここ数日悩まされている書類だ。
彼女の職業は、介護老人保健施設桜坂の介護支援相談員だ。
隣の机でパソコンに向かってキーボードを叩いていた、後輩の高坂睦が声をかけてきた。
「村沢先輩、どうしたんですか、怖い顔して。」
村沢明美は机の上の書類を軽く叩いて。
「市から回ってきたこの件案が、なかなか難しくてね。」
「それって今日のカンファレンスに上げられている件なんですか。」
「そうだ、君は今日のカンファレンスに担当者は入ってなかったよね。一読して意見を聞かせてもらえないか。」
「え、私がですか、先輩が頭悩ませているような件案の意見なんて・・・。」
「見る人が違えば、また違うものが見えるかもしれない。」
高坂は悩みながらも、村沢から書類を受け取った。
その書類とは、行政より委託された在宅介護を行っている障がい者の通所リハ依頼書である。
年齢は68歳。女性。夫は72歳。夫婦二人暮らしである。
一番近くに住んでいる子供は娘夫婦が隣の県に在住している。両親のところへは、小学生と中学生の子がおり、共働きのため月1回程度しかこれない。
介護度は2
疾患は、脊柱管狭窄症による両下肢の不全麻痺。
認知症はない。
1年ぐらい前から、つたい歩きはできるが、手をつく所がないと倒れてしまう。
ここ1年間は外に出ていない。おそらく外へ出るときは車椅子が必須であろう。
当然立ったままのことは難しい。
掃除・洗濯などの家事は夫が行うが、料理は椅子に座って行うことができる。
当然病院受診等は行ってなく、訪問診療と訪問看護を利用している。
入浴は週1回の入浴介助を利用している。などの情報を読みつつ
「それほど難しくはないようですけど、もしかしたら家族環境に問題があるんですか。」
「まあ、環境に問題があるのは間違いないが。家族ではない。
別の、そう家屋環境の部分を読んでみて。」
促されて家屋環境の書類に目を通すと、驚いた顔をした。
「確かに、これは難しいですね。・・・残念ですけど私には何も思い浮かばないですね」
「そうか、まあカンファレンスで誰かいい案を出してくれるだろう」
「それって丸投げって言いませんか」
「一人で考えて悩むよりいい案が出るだろう」
「はあ、確かに」
「そろそろカンファレンスの時間だ。いこうか」
二人は他の職員を誘ってカンファレンスルームへと移動した。
カンファレンスルームには医師を筆頭に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などこの病院の多数の職種がそろっていた。
医師は部長と今回上がっている患者の担当医が2人、他の職種もほぼ同じ割合だ。
ケアマネージャーだけは他職種より多く5人参加している。
事務員も事務主任と他に1人参加している
今回の進行は事務員があたっている。
何人かの案件が検討され最後に村沢の担当の検討となった。
担当の簡単なプロフィールを紹介し終え、一呼吸入れてその問題点の説明に入った。
この患者の問題点、家屋環境である。
まずその立地が二つの車道に挟まれながらそこから家までは人2人がやっと通れるぐらいの道しかなく、しかも坂道・階段など車いすでは行けないような場所もあった。
村沢はこの患者にデイケアの利用を考えていた。
他のスタッフからデイケアはどうしても必要かとの疑問が上がったが、想定済みだ。
理由は、本人の認知症予防・寝たきり予防と介護者の介護負担減だ。家族からの要望でもある。ごく定番の理由だが他にも思うことがある。
村沢の祖母が同じような病気で、亡くなるまでの2年間外に出ることがなく、昔よくいっていた公園にいきたがっていたことを思い出していた。公私混同はいけないが、やはりどうしても重ねてみてしまう。
全体の意見はデイケア利用を進めることで一致した。しかしどうやって連れ出すかで議論は止まっていた。
そんなときリハ部長の山内から提案があった。
「現場の状況がわからなければ、こちらからの助言も十分行えない。一回訪問してみるのも手だろう。
うちで診ていた患者かな?」
「いえ。他の病院でリハは受けたみたいです」
「確かに一回観てからの方がいいだろう」
医師からもその方がいいと進言もあり訪問後にもう一度カンファを開くことが決定された
「こちらで適するリハスタッフを選ぶので時間の調整をしてくれ」
山内の提案は村沢にとって渡りに船だった。
急いで時間の調整を行い、一週間後3時半の訪問が決まった。
今回、区切りをよくしようとしたら、1回あたりの文字数が少なくなってしまいその分回数が多くなります。
多分4回の予定です。予定は未定であって決定ではない、前話もそうでした。