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新しい職場と友の悩みその2

 翔太の今日は休みの日だった。

 桜坂リハセンターは完全週休2日制であったが、共通の休みは日曜日と祝祭日なので、日曜以外にもう1日休みを設定できるのである。

 今日は土曜日、月曜日が祝日なので連休をとっている。もちろん他のスタッフと調整してのことだが。

 明日日曜日は学生時代の友人たちと会うことになっている。

 卒業してから初めての同窓会、所謂飲み会だ。当然のことながら、卒業生はほぼ日本全国に散っているので県内と近隣の仲間たちだけだが。

 今回は親しくしていた、隣りの市にある医院に就職している、友人も参加すると連絡を受けている。

 その友人が最近悩んでいるとの噂も聞いている。ちょっと遅い五月病か?

 とりあえず色んな情報の交換が出来るだろう。




 その日は天気もよく、午前中は今担当している患者の疾患についての勉強をし、午後からは近くのアーケード街、五ヵ町商店街へと出かけた。

 書店や趣味の模型店等を散策して時間をつぶし、そろそろ約束の時間かと目的の場所へと向かった。


 今日の飲み会の会場は、このアーケード街の裏通りにある居酒屋「えりか」である。

 店名が女性の名前なのは、女将からとったらしい。

 店内はあまり広くないが、1階にはカウンター席とテーブル席が、2階が座敷席となっている。

 今日は2階の座敷席に予約を取ってある。

 

 久しぶりに会った仲間たち。

 といっても7人ほどだ。

 学生時代のことやら、それぞれの職場のこと、愚痴等2時間の予定があっという間だ。

 悩んでいるという噂の友達も陽気に盛り上がっていた。

 この分なら大丈夫だろうと考えていた。


 その友人が翔太に近づいてきて、小さな声で耳打ちした。

「後で相談があるんだけど、終わってからいいかな」

 ああ、やっぱりと思った翔太は

「いいけど、どうした・・・まあ後からな」

 と了承した。


 そうこうするうちに楽しい宴も終わりを迎え、2次会へと移っていった。

 4人が明日の仕事の関係で帰っていき、3人ほどが残った。

 例の友人も一緒だ。

 

 2次会はバー「月影」、カウンター席8席の小さめのバーだ。

 客は翔太たちともう一組、入り口付近に二人連れがいた。

 友人、赤坂柳司を真ん中に左に翔太、右にもう一人の観月一路が陣取った。

 3人は学生時代よくつるんでいた仲間である。

 どうやら一路にも相談を持ちかけていたようだ。

 

 3人は目の前に出されたお通しをつまみながら、学生時代のこと等雑談に耽っていた。

 そのうち今の職場の話になってきた。

 柳司は、そこにあまり触れたくないような様子だった。

 しかし一路が促すように問うた。

「何か相談があるんだろ。

 察するところ、職場関係か。

 職場での人間関係か」

 柳司は意を決したように話しだした。

「今いる職場には先輩が一人いるんだけど。

 ・・・・

 どうも一緒にやっていく自信がないんだ」

「どういう訳だ。

 一応整形外科医院勤務だったよな」

 翔太の問いに少し困ったように答えた。

「整形外科といっても医院なんで片麻痺患者とかもくる訳で。

 その患者さんが装具とか着けていると、いつまでたっても動かないからと言ってすぐ外させるんだ」

「その辺に関しては、その患者の状態を知らないかし、その先輩の考え方もあるから一概に外すなとも言えないしな。

翔太はどう思う?」

「僕も何とも言えないな」

「そのことはそういったこともあるから自分もそう思うけど。

 それに加えて患者さんに対して、以前の担当者が悪いような言い方をするんだ」

 二人はその言葉に顔を見合わせた。

「古いやり方をやっている。

 そんなのをつけさせるから何時迄も治らない。

 何時迄もちゃんと歩けない。

 ちゃんとしたリハビリをやっていない。

 だから○○病院の理学療法士はだめなんだ。

 等々、聞いていて不快になるなんてもんじゃない」

「それは・・・」

 これには二人ともあきれ果てた。


 普通、片麻痺の患者で足が動かせなかったりするときは、下肢装具という物を作って歩行の補助をする。

 これは早期のまだ麻痺が強い時期に作成し、筋肉の緊張のコントロールをする装具だ。

 それによって、歩行時の筋肉の動きをコントロールするのだが。

 以前は金属支柱が主流で重く動かしにくくはあったが、現在はプラスティックが主流で軽くなっている。

 ただ、いくら軽くなっているとはいえ、関節の動きを制限しているので使いづらいのは変わらない。

 特に最近はこの装具が回復を阻害していると言っている人たちもいるが、証明されている訳ではない。

 むしろ、装具を作るか作らないか迷ったらつくれ!とか、積極的に作るという人たちもまた多い。

 翔太はどちらかというと積極的に作る方だし、学生時代は柳司も一路も積極的に作る方だった。


 この一面でも、柳司にとっては、装具をはずすいうことに抵抗があるのだろう。

 しかし、いくら自分の治療法と違っても、他職場のセラピストを批判するのはいただけない。翔太たちの学校でも他のPTの批判はしてはならないと強く教えられていた。

 理由は簡単だ、自分の考えている治療法がいくら正しくても、それが絶対ではないからだ。

 患者さんは100人いれば100通りの症状があり、100通りの治療法があると言える。

 それに加え100人のセラピストがいれば100通りの治療法がありる。

 この100通りとは色んな治療法の中の、いくつかの治療法の組み合わせで治療をしているからだ。


 翔太と一路は迷った。

 この問題は、非常にデリケートで返答次第では、自分たちもこの先輩と同じように他施設のセラピストを批判しているだけになってしまうからだ。


「先生とか他の看護婦さんとかは何も言わないのか?」

「先生は先輩PTのことを絶対の信頼を寄せているし、看護婦さんも先輩の言っていることが正しいと信じているんだ」

「でも、そんなことが噂になったら病院の評判も悪くないんじゃないか」

「そうだ、医院だったら大きな病院からの紹介とかもあるだろうし、その病院に批判的なことを行っていたら、次から紹介しなくなるんじゃないのか」

「患者さんたちは先輩のことすごく信頼しているし、先輩の悪口は絶対言わないし、あまりいい気がしない患者さんもそこまでは言わないみたいだ」

「患者さんとの信頼関係は、きちんととっているんだな」

「そこは見習わないと行けないと思っているけど。

 やっぱり、他のPT先輩のことを聞いていると気分が悪くなってくるんだよ」

「それは・・・そうだよな」

 と二人はうなずいた。


 翔太は、これはこの場で解決しようとしても難しいなと考えていると、軽く肩を叩かれた。

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