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失くしたもの その3

お待たせしました。

失くしたもの その3です。

side therapist


「部長、新しい処方ですね。

 どんな患者ですか?」

「ああ、一週間ほど前に脳出血発症。

 主な後遺症は右運動麻痺、言語障害がある。

 バイタルは安定している。

 昨日意識回復したようだ」

「一週間前発症!

 意外と処方出るのが遅いですね」

「仕方ないな。

 バイタルが安定しなかったらしい。

 2,3日前位から安定したらしい」

「それで遅かったのですか?

 安定してなくてもそれなりのことは出来たでしょうに」

「そうゆうなよ。

 ところで、お前患者さんが一人退院したな」

「ええ、一昨日ひとり退院してます」

「じゃあ、PTはお前でいいな」

「は〜い、PTはということは・・・」

「当然STも行うぞ」

「ですよね〜。でもうちはST一人だから大変じゃないですか」

「まあしかたないだろ。

 一応上には増やすように行ってるが、うちの規模でもうひとりSTがいるのかと言われれば、難しいだろうな。

 せいぜいパートでも増やせればいいほうだろう

 だが仕事だ、文句は言っていられないさ」


side ST


 やれやれ、また新しい患者さんか。

 全く、一人で何人みれというんだこの病院は。

 増やしてくれと言ってもなかなか増やしてくれないし。

 まあ幸い二人ほど退院できたからその後に入れればいいか。

 え〜と、一週間ほど前に脳出血、言語障害と運動障害がある。その他の高次脳機能障害は不明と。

 OTは出てないのか。

 言語訓練を中心にするか・・・。

 まあ仕方ないだろうな、言語訓練は初期が肝心だし。

 まだ若い方だからなんとかしないと行けないな。

 時間は、この間退院した患者さんの後に入れてと。

 ん〜、もうひと枠入れたいな。

 PTとうちだけならこの時間が入れれるな。

 よし。これでいこう。

 あとはPTと治療内容と訓練時間の擦り合わせか。

 PTはだれかな、あっ彼か、彼ならやりやすいからいいか。

 部長だったら苦手なんだよな、彼でよかった。

 さあ彼と打ち合わせするか。


side sagawa


 今日からリハビリが始まる。

 理学療法と言語療法をやるということだ。

 どんなことをやるのか、昨日から落ち着かない。

 体が動くようになるのか?

 言葉がちゃんと言えるようになるのか?

 不安でいっぱいだ。


 看護婦さんが呼びにきた。

 いよいよリハビリの時間だ。

 車椅子に移された。

 病室から出ると、下の階へと移動した。

 少しくらい廊下の先に小さな部屋があった。

 ここか。

 真っ白なドアがあった。

 そのドアが開かれると、小さな机と2脚の椅子があった。

 1脚は横におかれ、1脚が机の向かい側におかれている。

 その椅子に一人の白い服を着た男が座っている。

 看護師さんが「佐川さんです」と紹介してくれた。

 その男は軽く挨拶すると、自分の前に車椅子を誘導した。

 さあ今から言語の訓練が始まる。


side ST


 今日午後の一人目の患者さんが終わった。

 さあ佐川さんの訓練の開始だ。

 そろそろ看護師さんが連れてきてくれるはずだ。

 その前に準備をしておかないと。


 軽くドアをノックする音が聞こえた。

 佐川さんだな。

「どうぞ」

 ドアが開けられ看護助手さんが車椅子を押して入ってきた。

「佐川さんです。

 よろしくお願いします」

 看護助手さんからの紹介に、こちらも軽く会釈しながら名乗った。

 車椅子を机を挟んで向かい合わせになるように誘導した。


 さあまずは評価の開始だ。

 今どのような状態か調べないと行けない。

 まずこちらの言っていることは解るのか?

 ・・・・・・

 ん、大丈夫だな。

 次は発声だ。

 ん〜、これはかなり難しいな。

 呼吸の方はどうだろうか?

 こちらの指示通りに息を吹いた吸ったりしてもらう。

 少し吹く方が難しいな。

 口の動きは?

 口を開いたり、しっかり閉じたり、すぼめたりしてもらう。

 やっぱり少し動きが悪いな。

 舌の出し入れは?

 まっすぐ出したり入れたり、上下、斜め、丸める。

 やっぱりこれも余り良くはない。

 のどの動きを見てみる。

 彼の横に行き車椅子を向かい合わせにして、口を開けさせ、声を出させながらのどの動きを見る。

 やっぱり動きが悪いな。


 ここまでくるのに大分時間を使っている。

 彼の顔を見ると少し疲れたような顔をしている。

 このまま訓練に入ると疲れがたまって悪影響を与えるだろう。

 今日はこれくらいで終わった方がいいだろう。

 佐川さんを病室へ帰すことにした。


 彼を病室に帰して、今日の検査結果を見ながら今後の計画を立てる。

 のどの動きが悪いようだから、そこを重点的に訓練をし、発声の訓練を平行して行う。

 よし。

 これでいこう。


side sagawa


 リハビリが始まって3日が経った。

 初日は、口の動き等を色々調べられた。

 2日目は午前中は別の大きな部屋へ行き腕を動かしたり、足を動かしたりした。

 午後からまた個室へ行き、今度は息を吸ったり吹いたり、口や舌を動かす訓練をした。

 これで声を出せるようになれるのか。

 これで歩けるようになるのか。

 がんばらなければ。


 リハビリを開始して一週間が経った。

 まだ歩けない。

 平行棒で介助してもらって立つのがやっとだ。

 手も全く動かない。

 声は?

 だめだ、相変わらずうなり声で終わってしまう。

 未だ一週間だからこんなものなのか。

 もう少しがんばろう。


 二週間が経った。

 全く変わっていない。

 訓練で変わったのは、言葉の訓練で言葉を出す訓練が始まったことだ。

 これが難しい。

 とにかく言葉を出しているつもりなのに、すべてうなり声になってしまう。

 訓練が足りないのか?

 少しいらついてきた。


 三週間目に入った。

 全然変わらない。

 何が悪いのか。

 それに言葉の訓練が終わるとものすごく疲れる。

 みんな頑張れと応援してくれる。

 けど何か辛い。

 何だろう、りはびりが辛い。

 リハビリに行きたくない。

 どうしたんだろう。

 がんばりが足りないのか。

 どうしたらいいのか。

 解らない。


 解らない。


 解らない・・・。

今回実際の言語訓練に入りましたが、数年前のやり方で書いています。

これは私が、ここ数年間言語聴覚士との交流をほとんど行っていないため現在の方法を知らないからです。

本等で調べればある程度は解るのですが、やっぱり現場に聞くのが一番解りやすいです。

また医療制度も現在でなく数年前の医療制度の設定で書いています。

これはこの話のヒントを得たのが数年前で、この頃の医療制度でなければかなり無理を通さなければならなかったからです。

その他、今の制度を考えると矛盾が出ますが、そこはフィクションということでお許しを。

予定では後1回です。いつものことながら本当に終わらせられるか不安です。

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