幕間・謙ちゃんとえりかの無駄話 その2 医療費改正
第3話が難航しています。
それで小話を挟みます。
今年は6年ぶりの医療費と介護費のダブル改正の年なのでそれにあわせて書いてみました。
ここはスナックえりか。
今日も仕事終わりの男どもが群れて・・・いや女性もいる。
「あら、いらっしゃい謙ちゃん」
いつものでいい」
「ああたのむよ」
「あら、どうしたの元気ないわよ」
「いや〜、今年は医療費と介護保険のダブル改正があってね。その情報収集で今から大変なんだ」
「医療費改正って、謙ちゃんたちの給料のもとよね。
たくさんもらっているんでしょう」
「おいおい、ここ何年かの医療費・介護費削減のあおりで大変なことになってるんだよ」
「えっ、だってお医者さんや医療職の人って給料いいて聞いてるわよ」
「いつの話だ。確かに以前は給料もいい方だったけど、今はだんだん押さえられて、介護職なんて下手したらアルバイトと変わらないようなとこもあるんだぜ」
「へえ〜、介護職の離職率が多いて聞いてたけどそれも原因なの?」
「まあ介護職は仕事自体もきついいし、それに見合った給料が出ているかというと、疑問があるからその辺も一つの理由かも知れないな」
「でもお医者さんとか、あなたたち資格を持っている人たちは沢山もらっているんでしょ」
「やっぱりみんなそう思っているんだよな。
でも実際は医療介護職ともに給料も押さえられてきているんだ。
昔の医者は儲かる、医療は儲かっているというのが先走りしていて、みんな実情を知らないからな」
「どういうこと、お医者さんて外車に乗って羽振りがいいじゃないの」
「それは昔の話。でも昔でも見栄を張るために外車に乗っていた訳じゃないんだ。
外車の方が頑丈だから事故の時につぶれないので、怪我が少なくて済むという思い込みがあって外車に乗ってる医者が多かったんだけど。
まあ今ではボンネットがつぶれた方が怪我が軽くなることが多いことが解っているけどな」
「そうなんだ。でも維持費もかかる外車に乗るってことはそれだけ儲かっているんでしょ。
もう十年以上前だけど一割負担から三割負担になったし、それだけ病院に入るお金は多くなったんじゃないの?」
「ん〜、どうやらこれは医療費や介護費の説明からした方がいいかな。
まず病院は患者さんからもらっている費用だけでやっているんじゃないことは解っているよね」
「それは解っているわ。
医療保険から支払われているんでしょ」
「そうだ。医療保険は点数で、介護保険は単位という言葉でその費用が記されているんだが。
それぞれ1点あたり10円の金額になっている。だから4000円の費用がかかったら現在三割負担だから、かかった費用は1200円支払うことになる。このとき医療保険の方から4000円から1200円ひいた3800円が支払われる。
例えば一割負担の時1000円払ったとしたらこの時10000円かかかったということになる。そして医療保険からは9000円が支払われたことになる。
三割負担になった時にこのかかる費用を9000円にしたら、患者さんが支払う金額は2700円となって医療保険からは6300円支払われることになる。
医療保険から支払われる金額は2700円も安くなっている。そのかわり患者さんはものすごく負担が増えその分病院が儲かっていると勘違いしていた人もいる。もちろん医療費がそれまでずっと上がりっぱなしだったので、やむを得ないことだったのは解る。ただこの後どんどん医療費は削られる一方になってしまっているんだ」
「え、でも今度の改正もこの前の改正も全体ではアップだって新聞に載っていたけど?」
「確かに計算上は全体でアップしているんだけど、そのアップ分を得るためには人員を増やしたり、患者さんからの同意を得るためにたくさんの書類にサインをもらわなければならなかったりしている。例えば僕らの理学療法分野で言うと前回の介護保険の改正で通所や老健入所者の個別療法が2倍の単位になったんだけど、それに費やする時間も2倍以上かけなければ算定できないようになっているんだ。だから結局料金自体は上がっていないばかりか以前以上に手間をかけなければならなくなってきているんだ」
「でもそれだけじっくり見てもらえるということでしょう?」
「表面だけ見ればそうだが、一日の時間は限られている。一人のセラピストが見れる人数はこれまでの半分になるんだ。
そこから外された人はどうなる。その人たちには何もすることが出来なくなるんだ」
「じゃあ人を増やせば?」
「介護保険の場合は一人に対して通所・入所料金が決められていてそこの加算という形で費用の上乗せがされているんだ。その加算だけで人を増やせるほどの費用は出ないんだ」
「じゃあ加算分はとれなくなってしまうの?」
「そういうことだ。
だから全体では増やしているけどその加算をとるための基準が厳しくなって、以前とれていたものがゼロになってしまって結果としてマイナスになるんだ」
「それで給料が低い訳」
「うちみたいな大きい病院はスタッフの数も多いし少し基準が厳しくなってもなんとか対応できるが少ないスタッフでやっている所は厳しいだろうな、もちろんうちも大分無理しているけど」
「話は元に戻るけど、それでも医者は沢山もらっているんでしょ」
「確かに給料自体は高いのは事実だ。けど雇われ医師なんて自由な時間なんてあってなきがごとしなんだぞ。
患者が急変すればすぐ呼び出されるし、担当している患者の状態が悪くなってくればへたしたら病院に泊まり込みなんてこともあるぞ。その自由な時間と引き換えに高い給料をもらっているようなものだ。それによくなって当然という患者がほとんどで、これ以上よくなることは難しいといくら説明しても理解してもらえない上、すぐ訴訟問題になる。
開業医になると自分の病院の経営まで考えてやらないと病院自体がつぶれることにもなる。
俺は高い給料もらっても医師にはなりたくないな」
「お医者さんも大変なのね。
そういえばこの間、この先に出来ていた整骨院が保険の不正請求でつぶれたけどそれも改正に関係するの?」
「それは別問題だな。整骨院等で保険請求できるのは急性期の事故や怪我だけなんだが、そこは新しい病名・・・病名は医師しかつけられないが・・・つけてずっと急性期で通していたからな。それがかなり悪質だったから、槍玉に挙げられたんだろう。
ただ、整骨院での保険を使えなくすればかなりの医療費が節約できるという人もいるが、根拠がはっきりしていない。こういう話をする時は根拠をはっきりしないと行けないと思う」
「色々大変なのね。それで今大変なのはどうして?」
「4月1日から施行されるその改正が発表されるのが3月末ぎりぎりなんだ」
「それでできるの?」
「だからその前に少しずつ情報が出てくるのでそれを集めて対策を練らないと行けないんだ」
「さすがに大変ね。
今日はゆっくり飲んで英気を養ってね」
山内謙一はゆっくりとコップのウィスキーを口に運んだ。
謙ちゃんの説明に一部思い込みもありますが大枠ではまちがってはいません。
もう少し書き込みたかったのですが、これが限界でした。
医療費問題は結構大きな問題と思います。
この作品群の本筋からは離れますがまた機会があれば取り上げたいと思います。