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さあ、家を出よう その5

おまたせしました(誰も待っていなかったと言わないで下さい)。

第2話最終話です。

色々あって時間がかかってしまいました。

申し訳ありません。

 村沢は本来なら残って主治医とも相談したかったが他の担当者の事務処理もあり、いったん施設へ戻りその後報告を受けることとなった。

 佐々木さんは、村沢が辞して間もなく主治医の訪問診療を受けることとなった。

 診断名は『肺炎』村沢の予想通りだった。

 今すぐどうこうとはならないだろうが入院して経過を見た方がいい、いつ悪化するかも解らない、とのことだった。

 高齢者の肺炎は特に気をつけなければ重症化しやすい。

 佐々木さん自身は余り入院をしたくないようだった。実際誰しも入院を喜ぶ人もいない。

 しかし主治医の説得もあり1週間の予定で入院加療することを承諾した。

 


 村沢が惚けたような顔をして考え事をしていたら、同僚の高坂が声をかけてきた。

「先輩、佐々木さんの問題解決しました?」

 その言葉に、村沢は現実に引き戻された。

「ああ、とり合えずの問題は入院したことでなんとかなりそうだ。」

「とりあえずの問題ということは、まだ何かあるんですか?

 肺炎になりかけていたこと意外にもあるんですか?」

「入院したことで、直面していた問題は解決できたが、あくまでも先送りしただけだ。

 今の状態であれば、家から出るのは通所リハのときだけでしかない。それ以外のときは家の中の生活しか出来ていない。

 このままではまた同じことの繰り返しになる」

「でも本人はどうなんです?

 家の中の生活だけでも本人が望んでいたらどうなんです?」

「確かに本人が望んでいるかどうかは大切なことだ。

 しかしいくら本人が望んでいても、周りを取り巻く人たちとの関係も考えなくてはならない」

「周りの人たちですか?

 それは家族ということですか?」

「そう、家族を含め回りの人たちだ。

 本人はよくても介護をしている家族等へ負担がかかり過ぎて、共倒れになることもある」

「家族の負担を軽減させることが必要だということですね」

「そういうことだ。

 大分勉強しているみたいだな」

「当然ですよ。

 この仕事には勉強の終わりはないと言ったのは、先輩じゃないですか」

「訂正するぞ、この仕事だけでなく、あらゆる仕事に通じることだ」

「はいすみません」

 村沢は素直に謝る高坂を見て、大分成長したなと感じていた。

 



 佐々木さんが入院して3日ほどすぎた頃、家族から村沢に相談したいことがあると連絡が入った。

 家族を施設に呼んでと最初は考えていたが、本人交えて話をしたいということで、入院中有の病院へお邪魔することになった。

 佐々木さんは桜坂グループの本院である桜坂医療センターに入院していた。

 面会室の一部屋を準備してもらい、そこに佐々木さん夫婦と息子さん夫婦、娘さん夫婦がそろっていた。

 村沢は一回り見回すと話を切り出した。

「相談事があるということですが」

 佐々木さんの家族はお互い顔を見合わせると、息子さんが口を開いた。

「実は、今回うちの母が入院して痛感したことなんですけど。父にも妹にも大分無理をさせてしまったと解りました。

 私がちょうど家を新しく建てまして、部屋も両親が住めるように準備しています。

 それで今回私の方が両親を引き取ろうと考えています。

 これは妻とも妹夫婦とも話をして決めています。

 ただ母がなかなか首を縦に振らないもので・・・」

「私は、息子にも嫁にも負担をかけたくないし、今の家がいいからそのまま住みたいんだけど・・・」

「お母さん、そんなこと言っても実際に妹にも父さんにも結構無理をさせてるんだから。

 確かに新しい所で大変だろうけど、すぐ慣れるから」

 息子さんの妻も相づちを打ち、自分たちの所へくるように進めていた。

 娘さん夫婦も、これまでの無理がたたっているのか見せないようにしてはいるが、その端々から疲れが見て取られる。

 村沢はこれは息子さん夫婦に乗るのが最善の処置かと考えた。

 このままでは佐々木さんの夫だけでなく、娘さん夫婦にも影響が出てくるのは見えている。早急に対策を講じなければと考えていた村沢にとっては渡りに船であった。

「佐々木さん、今回は軽い肺炎で済みましたが、今の状態では何かあった時に旦那さんだけではすぐ対応が難しいと思います。ここは息子さんの話に乗ってみてはいかがですか?」

 佐々木さんは少し考えるような顔をしていた。

「今すぐここで決めるのは難しいかもしれません。一回ゆっくり考えてみてから結論を出した方がいいでしょう」

 村沢のその言葉に佐々木さんは聞き返してきた。

「村沢さんもやっぱり息子の所へ行った方がいいと思われますか?」

「そうですね。現状を考えたら最上の方法とまでは言いませんが、私も佐々木さんのことを色々考えてみると、一番進められる方法と思われます。

 難しく考えずに、ただ一回息子さんの所で生活を試す気持ちで良いんじゃないですか」

 佐々木さんはまた考えているようだった。

「今ここで直ぐ結論を出す必要がありますか?もしなければ少し余裕を持たしてあげて下さい」

「そうですね。つい急ぎすぎたようです」

 息子さんは母親に向かうと。

「ここの退院が決まるまでに決めてくれればいいよ」

 少し譲歩する姿勢を見せた。

 その後2〜3の話を家族とした後、息子さん夫婦に少し話があると引き止め、佐々木さん夫婦と娘さん夫婦は部屋へ戻った。

 村沢は二人に向かうと佐々木さんを引き取ったときの注意点を説明した。

 特に環境が変わることによる認知症の出現。それを防ぐために出来るだけ接すること。生活の中で役割を与えること、例えば今までやってきた炊事など。

 幸い妻が介護の経験があるということで多少の知識はあり、対応できるだろうということだった。

 退院までもう間がないがなんとかいい方向へ行くことを願って、村沢はその場を辞した。



 翌日、村沢は佐々木さんが息子さん夫婦の所へ行くと連絡を受けた。

 嫌々行くのでなければと思ったが、どうやら孫さんを引き出して説得したらすぐ行くことを承知したらしい。

 村沢はやっと胸を撫で下ろすことが出来たと思った。



 それから1年後佐々木さんが肺炎を起こし亡くなったと連絡が入った。

 家族からは色々お世話になったと感謝の言葉があった。

『先輩、佐々木さんたちはこれで本当によかったんでしょうか?」

「それは誰にも解らないさ。

 我々はその時出来る精一杯のことをやるだけだ。

 それが私たちの仕事だ」

 村沢の胸の中では本当にこれでよかったのか解らないまま次の仕事へ向かっていった。

今回の話は一部経験からきています。

難しい環境から通所を行うにはどうしたらいいか。

スタッフたちの動きの一部でも感じてもらえればと思います。

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