本当に醜いあひるの子
原作:アンデルセン みにくいアヒルの子
あるところに、あひるの親子たちが暮らしていました。
一番上の子は威風堂々とした体格と態度で将来有能な群れのリーダーとなるだろうといわれていました。
次の子は頭脳明晰で危険の察知に敏く兄弟の信頼を集めていました。
三番目の子は美しい女の子でした。そのぬれたようなつやのある羽と形の良いくちばしは他のあひるのあこがれの的でした。
そして一番下の子はとても醜い子でした。
くちばしはねじ曲がり、完全に閉じることのない口からはいつもよだれがだらだらとこぼれます。
羽はところどころ抜けて下の肌をさらし、その肌も病気でもないのにおかしな病気にかかった跡のようにところどころ赤黒く、薄汚く見えます。
左右の大きさの違う目はかすんで一点を見定めることがなく、歩きかたもたよりなげにフラフラしたもよう。
醜いあひるの子はその容貌から、そしてもごもごと口ごもるような話し方から親兄弟以外のすべてのあひるから侮蔑と嫌悪のまなざしを受けていました。
親兄弟ですら他のアヒルへの体裁は取り繕っていましたが、内心では醜いアヒルの子をとても疎んでいました。
やがてあひるの兄弟は成長し、それぞれの道を歩みます。
一番上の子は次期リーダーとなるために現リーダーのもとで群れの率い方を学びます。
次の子はリーダーをサポートするべく、その知恵にますます磨きをかけました。
三番目の子はほかの群れを率いる若くてりりしい雄のもとへとお嫁に行きました。
そして醜い一番下の子は相変わらず醜いままでした。
せめて他のあひる並みになろうと泳ぎやどう猛な獣から逃げる訓練を血がにじむほどしましたが、水に浮かぼうとすればおぼれかけ、形の悪い足がうまく動くことはありませんでした。
二番目の兄のようになりたいと寝る間も惜しんで勉学に打ち込みましたが、どれだけ努力しても徒労に終わり、周りからはボンクラ、クズとあからさまに罵られました。
大人になってからの羽の色も他のあひるのように白くはならず、灰色と白の気持ち悪いまだら模様になりました。
ある日のことです、茂みに身を隠した猟師があひるの群れに銃口を向けていました。
まず異変を察知したのは頭脳明晰な二番目の子でした。
彼はそれを一番目の兄に伝えると、リーダーよりすべてを任せられていた一番上の兄は猟師の銃弾が届きにくい背の高い茂みのほうへそっと群れを誘導します。
それを見ていた猟師は焦ります。このままでは今日食べるものが手に入りませんので、狙いもそこそこにズドンと発砲しました。
幸い弾はどのアヒルにも当たることがなく、それを合図にしてあひるの群れは逃げ出します。
猟師が次の弾を込めるまでにはすべてのアヒルは逃げ去って行きました。
…と思いきや、一羽だけ地面の上でバサバサともがいているアヒルが居ます。
猟師はゆっくりとそのあひるに照準を合わせると、その胸めがけて無慈悲な弾丸を撃ち込みました。
仕留めたあひるを拾いに行った猟師は、その死骸を投げ捨てると憎々しげにつぶやきます。
「チッ、こいつ変な病気にかかってるじゃないか。これじゃあ食えやしないな。」
教訓:本当に醜いあひるの子というのはこういうものだ。奇跡が起こらない限り白鳥になることはない。
人はすべからく生まれながらにして不平等なのである。
だからこそ努力や幸運の果てに奇跡が起こり、貧しい者や恵まれない者が大きな結果を掴んだ時大きくそれを取り上げるのだ。
スラムで生まれた孤児が努力をすれば石油王になれるだろうか。
文明の無い秘境の奥地で育った人間が突然コンピューター会社のCEOになれるだろうか。
一度起こった事だからと言って二匹目のドジョウなどいないのだ。兎が再び切り株にぶつかる事などないのだ。
さて、この現代にみにくいアヒルの子はいったい何人居るのでしょうか。