第6話『魔物と竜騎士の剣』
街に着いたのは日が天高く昇る少し前だった。まだ、お昼時には早い時間帯だ。
「順調に街につけてよかったですね、兄様」
未だにリィゼから呼ばれる慣れない呼び方に戸惑いを覚えながら、シュウジは頷く。
「どうやって入るんだ……?」
巨大な壁に阻まれた先に城門があり、兵士と思われる人物が荷物などを確認している。どうやら、検査を受けないと入れないみたいだ。
「大丈夫ですよ、兄様! ちゃんと、入関証をもってますから!」
えっへんとでも言うように胸を張るリィゼを見て、たくましいなとため息がこぼれた。
剣を持っているが大丈夫かとも一瞬思ったが、周りを見渡してみると自分と同じように剣やら弓やらを持っている人間が多数いたことに気がつき大丈夫そうだと若干の安堵をおぼえる。
自分と違い周りの人間はそれこそ兵士のような鎧を着ているものばかりだが、護身用とでも言い張ればなんとでもなるだろう。
「次の者」
「はいっ!」
どうやら、兵士に呼ばれたようでリィゼが元気よく返事をして兵士の前に立つ。
「二名か? 目的は?」
「はい、少しの間の滞在と村で取れたものを売りに来ました」
「そうか。最近は山賊たちも多いから、大丈夫だったかい?」
「ええ! 兄様が何かあったら守ってくれますので!」
兵士の問いかけに笑顔で答えるリィゼ。
自分が会話に混ざるとおかしなことになりそうで、シュウジはただ黙って成り行きを見ていることしかできなかった。
そんな平和なやり取りをしている最中に突如、後ろから悲鳴が聞こえる。先ほど抜けてきた森の方だ。
「兄様!」
リィゼが指さす方に視線を向けると、化け物がいた。
その体は家の高さを超え、腕は丸太を何本か束ねたように太く、その眼はまさに獣のように獰猛。
体色は緑色で、まさに自分が生きていた世界で見たことがあるオークと言われる種族だ。
「二人とも、早く城門の中に!」
兵士の声が耳に聞こえた時には、シュウジは走り出していた。リュックと剣をその場に放り出して、オークへと近づく。
「兄様っ!」
リィゼの悲鳴にも似た声が聞こえる。城門前に並んでいた武器を持っていた人たちと反対方向に走りながら、剣を右手に持って左手を顔の前に突き出す。
何をしているんだろう。勝てるはずがない。
――そんな事はわかっている。
だからと言って、この状況で見捨てるわけにはいかない。
相手の力も分らないのに、飛び出してしまった後悔を押さえる。
「変身っ!」
気がついた時には叫んでいた。左手の紋様が赤々と光を放ち、鎧が体に重なる。
瞬間、鎧が体を包み込む。
「――■■■■■■■■■■■■■■ッ!」
恐怖を抑え込むように叫ぶ。まわりに咆哮が響き、地面を揺らす。
「――――グオオォォォォォォ!」
こちらの咆哮に反応するようにオークも吠える。体長の差で考えれば勝機は絶望的だろう。だが、人の骨をたった一発のパンチで砕く力を持つこの状態であれば。
足に力を込めて、オークに対して殴りかかる。
――――勝った。
確信したと思った。人間をひしゃげさせるほどのパンチだ。打ち抜き、貫いたはずだった。
だが、オークはよろけただけで、体勢を立て直すとその太い腕がシュウジを襲った。
シュウジは空を舞い、すぐに地面へと叩きつけられる。
息ができない。
「兄様っ!」
絶望にも似たリィゼの声が響く。
「――――ッ!」
苦しい呼吸を押さえてシュウジは立ち上がり、再びオークとの距離を詰める。
一発で倒れないのであれば、何発も打ち込むしかない。
殴られた左半身に痛みを覚えながらシュウジは再びその拳をオークへと叩きつける。
オークの大振りの拳を避けては殴り、避けては殴りを繰り返す。
「――――■■■■■■■■■ッ!」
咆哮。叫びながら連打を入れる。
しかし、一向にオークが倒れる気配はない。
「剣をっ!」
聞きなれはい声が響く。
どこからか投げ出された剣を手に取った瞬間、『剣』は形を変えた。
細かった刀身は長大な片刃の大剣に変え、装飾は全て鎧と同じ紅へと変わった。