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竜騎士姫と反逆の獣  作者: 灰色人
第一章≪紅き竜騎士の再臨≫
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第5話『生きるために』

 翌朝。目が覚めると、リィゼが朝食の準備をしていた。


 何故か、その顔は笑顔に満ち溢れている。だが、次の一言でその理由に合点がいった。


「兄様、ごはんができましたよ?」


「――――っ」


 絶句した。リィゼは昨日のことを忘れているかのようにこちらに笑顔を向ける。


「にい……さま……?」


 可愛らしく小首をかしげるリィゼ。


 ――ああ、リィゼは昨日の光景が耐えられなかった。


 自分の精神を守るために、リィゼは昨日の事を忘れ、自分の記憶を改竄した。生きるために。


 そして、血のつながりもない昨日出会ったばかりの自分を兄だと本気で思いこもうとしている。


 何故。どうして。そんな言葉よりも先にリィゼが耐えられないほどの苦痛を追っていたことに対して、気がついて上げられなかった自分に不甲斐なさを感じる。


 リィゼが追っている罪悪感は相当なものなのだろう。


 出なければ記憶を改竄するようなことは起こらないはずだ。


「――――リィゼちゃん……」


「どうしたんですか兄様? いつもリィゼと呼び捨てなのに」


 その心までもリィゼは壊してしまっているのかもしれない。このまま、現実をリィゼに突きつけていいものなのだろうか。


 現実を突き付けることにより、壊れてしまうリィゼが頭に浮かぶ。


「リィゼ。ご飯にしようか」


 結局、リィゼに現実を突き付けることはできなかった。それをしてしまうことでリィゼが壊れてしまうことを恐れた。


「はいっ! 兄様!」


 元気よく返事をして、恐らく昨日家から持ってきていた干し肉とパン、いましがた作っていたスープを食器に移してこちらに差し出してきた。


「ああ、頂くよ。ありがとう……」


 何とも言えない罪悪感に苛まれながら、シュウジは目の前のスープをすする。


「兄様? どうですか?」


「……美味しいよ」


 正直、色々なことでショックを受けて味など分らなかった。それでも、朝食を胃の中に押し込める。


 無言で流れる時間。


 これからどうするべきか、昨日までリィゼを頼りに道を歩いてきた。だが、今の現状からするとリィゼ自身も現在地を把握していない可能性もある。


 このまま行ってはもしかしたら共倒れになる可能性だって。


「リィゼ、ここがどこだかわかる?」


「はい! 今日のお昼頃には近くの街にはつけると思います」


 現在地をリィゼがしっかりと把握していたことに安堵感を覚えつつ、街に行ってからどうするべきかを頭の中で考える。


 街に行ったところでこれからどうするべきか。


 元の世界に戻れる方法も分っていなければ、唯一ヒントになりそうな謎の声も昨日の一件以降聞こえてこない。


 それでも生きるためには生活していくためにはお金がいることだけはいくら現代に生きてきたシュウジにも容易に想像がつく。


「街に着いたらどうするか……」


 身支度を整えて、剣を手に持つ。これだけで、ほぼすべての準備が整った。


「そうですね……一先ず宿を確保したいところですね」


「泊まれるだけのお金がな……」


 そもそもこの世界での通貨を持っていないシュウジはどうしたものかと頭をひねる。


 お金がない。もしかしたら、リィゼが持っているかもしれない。だが、持っていたとしてそれを借りてもいいのだろうか。


「はい、一月くらいなんとかなる程度は持ってます」


「そうか……」


 このままではいけないと思いながら、火の始末だけをしてリィゼの後について歩く。


 何処までも広がる空は雲ひとつなく、今日も快晴だった。


 ※


 それからの道は特に困難になることはなく、途中で休憩しながらも街へと近づいていく。


 遠くで、街の喧騒が聞こえてくる。


「この分ならお昼前にはつけそうですね」


 木の幹に座り込み、水筒からお茶を取り出して二人で飲んでいるとリィゼが地図を取り出して呟く。


 どうやらだいぶ近づいているようだ。


「それで兄様、街にその……」


「ん? どうしたリィゼ」


 何かを言いづらそうに口ごもっているリィゼにシュウジは首を傾ける。この期に及んで何か言いづらいことでもあるのだろうか?


「その格好は目立つので……」


「確かに、そうだな」


 自分の格好とリィゼの格好を見比べながらシュウジは思う。正直、この世界に来てから今までいろんなことがありすぎて自分の格好についてなど考えている余裕などなかった。


 確かにこの格好では目立ってしまうだろう。街での明確な目的もないが、目立ってしまって働き口が見つからないなんてことはどうしても避けたかった。


「それで、兄様。こちらを着てください」


「わかった」


 どうせ拒否したところで意味ないだろうと、リィゼが差し出した茶色のローブを頭からすっぽりとかぶる。


 気温としては春から夏に近い時期のような季節なので、ローブを切ると汗が止まらなくなりそうだが背に腹は代えられない。


「じゃあ、行きましょうか」


 リィゼの言葉と共に再び歩き出す。歩き出した先に小さく街が見えた。

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