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竜騎士姫と反逆の獣  作者: 灰色人
第一章≪紅き竜騎士の再臨≫
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第4話『逃げること。逃げてはいけないこと』

 村長の遺体を埋葬し、シュウジとリィゼは身支度を整える。


 穴は開き、いたるところが血だらけになった室内に、二人きり。


 室内に立ち込める血と死の臭いに吐きそうになりながらも必要そうなものを取り出し、リュックへと詰めていく。


 今ここで、冷静になってしまったら、殺した山賊たちのことを思い出しそうになる。


 骨が砕ける感触、肉が裂ける感触、自分が殺した感触。


 正直、殺したと言うことに後悔しか覚えない。


 それでも、死にたくなかった。


「っ…………」


 涙が出そうになりながらも、必死に準備を整える。


「着替えてきます……」


 未だに血だらけの服装で準備をしていたリィゼが思い立ったように呟くと奥の部屋に入って行ってしまった。


 おそらく、想像以上にショックを受けているのだろう。祖父の死と自分が与えた死に。


「これも、持っていかないと……な……」


 地面に転がる村長から渡された剣を見て、首を跳ねられた村長の事を思い出して再び吐き気に襲われる。


 山賊がいること、武器が銃では無く、剣や槍なところをみると何となく察しはついていたが、自分が知っている世界ではないのだろう。


 異世界というやつなのだろうとシュウジは理解した。簡単に理解できない問題だったが、自分の現状を鑑みるにそれ以外考えられなかった。


「……これで俺は人殺しだな」


 両手に残る感触が自分が殺人者だと言うことを否が応にも意識させられる。


 自分の手で殺した。明確な殺意を持って、相手が死ぬことが分かっていて、その力を持って殴った。


 鎧で守られ、汚れていないはずの手に血が付いている錯覚を覚え、制服のズボンで拭う。


「……人……殺し……か……」


 親や友達、ナツメにも合わせる顔がない。


 もし、現代に戻れたとしても家には帰れないだろう。帰ったところで後ろめたい気持ちしかない。


 ぬぐい去れない死の感触をそのまま押し殺して、剣を手に取る。これからも、必要があれば殺さなければいけない。


 殺さなければいけない。


 その言葉が、深く心に刺さる。


「騎士様……」


 着替えてきたリィゼの方へ向く。白を基調にした、いかにも旅装束といった格好に肩掛けの鞄を持ったリィゼは、泣き出しそうな顔で火のついていない松明を持っていた。


「うん……」


 出発しようと言う合図なのだろう。リュックを背負い、剣を手に持つ。荷物はこれくらいしか持っていけそうにない。


「いいのか?」


「もう、決めましたから……」


「そうか……」


 玄関から外に出ると松明を家の真ん中に置いて、リィゼは言葉を紡ぐ。


「燃え盛れ、我は紅き竜の眷族なり。その炎によって焼き尽くせ」


 リィゼの言葉が終わると同時に、松明に向けて小さめの火の玉が向かっていく。


 松明に当たった瞬間にポンッという音を立てて、松明の周りは燃え始めた。この分ならば、家全体に火の手が回るには時間がかかるだろうが、消火活動をしない限り家全体が燃えないと言うことはないだろう。


 先ほどの山賊が襲撃してきたことにより、恐らくは村の人間も明日の朝までは出てこないだろう。誰も死にたくないのだ。


「行きましょう……」


「ああ……そうだな」


 しばらく眺めていた後、リィゼに制服の袖をひっぱられたことにより、もう離れなくてはいけないことを思い出した。


 家を背にして、リィゼと二人で歩き始めた時、二人背後で炎に巻かれた支柱が倒れる音がした。時期に崩れるだろう。


 火の粉に巻かれながら、空を見上げる。日は沈み、まるで自分たちを飲み込んでしまいそうな何処までも深い闇が広がっていた。


 ※


 あたりは静寂に支配されていた。日の光が入らない森の中、リィゼの案内だけを頼りに木々をかき分けて進んでいく。追跡されないための道を探しながら歩いているため、その足取りはゆっくりとしていた。


 かれこれ長い時間を歩いている気がする。


 スマホが壊れていないとすれば、今は夜中の1時くらいだ。村長の家を出た時間を覚えていないため、何時間歩いたかはわかっていない。


 正直、これが現代日本で無くてシュウジはほっとしていた。いくら正当防衛とは言え、殺人者だ。


 日本であれば早急に警察が駆けつけてくるはずなのに、誰も追ってくることはない。


「うっ……オぇッ……」


「大丈夫、リィゼちゃん」


 吐いているリィゼの背中をさする。もう何十回になるかわからないくらい、リィゼは地面に胃液をこぼしていた。持っていたハンカチでリィゼの口元を拭いながら、落ち着くまで背中をさすって、落ち着いたら歩きだす。


 その繰り返しだった。初めのうちは一緒に吐いていたが、段々と収まりリィゼの介抱をできるまでには回復したが、それでも殺した感触とその後の光景を思い出すたびに吐き気は込み上げてくる。


「大丈夫です。この辛さから逃げるわけにはいきませんから……」


「強いんだね……」


「そんなことはないですよ……」


 リィゼがこんなに吐いていなければ、自分の方が吐いていただろうとシュウジは思う。この状況から逃げ出したくなっていたかもしれない。同じ罪を背負ったものがいる、リィゼがいなければ精神的にどうなっていたかわからない。


 殺したことには後悔した。それでも殺されるくらいなら殺す方を選んだ。その責任から逃げてはいけない。否、逃げるわけにはいかない。


 それでもリィゼの体はそれを拒否するのだろう。


「今日は一先ず、あそこで休みましょう」


 リィゼの指差した先には少し岩盤が削れた人が二人ほど入れそうな、雨がしのげるくらいの穴が開いていた。


 あれなら、なんとかなるかもしれない。


「そうだな……」


 気持ち悪そうにするリィゼに肩を貸しながらゆっくりとシュウジは本日の宿泊場所となる岩穴へと辿りついた。

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