prologue2『死者の国と不思議な祠』
目が覚めた。というよりも目は覚めていたが意識を取り戻したといった感覚の方が正しいのかもしれない。
ああ、死んだんだな。一瞬頭を働かせてみたが、何故か思ったよりも腑に落ちた。
――死んだのかー。死んじまったのか……。
――まだ、まだ何も………。まだ、何もしていないのに………。
その場に胡坐をかき、自身の黒い髪を開きながらぼやくように思考の海に落ちていく。正直、告白くらいしてから死にたかった。
――いや、でも待てよ。あなたのことが好きです!って言った瞬間に電車ドーンっ!じゃ、それこそトラウマものか。
なんともシュールな光景しか目に浮かんでこない。そんなことをされた日には本当にナツメにトラウマを植え付けてしまうことになるだろう。それも相当強烈な。告白するたびに列車に轢かれた男のことを思い出すなんて達の悪い罰ゲームのようだ。
『……ぃ……』
――でも、にしてはおかしい。死んだのに体の感覚がある。
『ぉ……ぃ……』
――誰も死んでから生き返ったことなんてないんだから、死んでも体の感覚があるのは普通のことかもしれん。
なんとなく自分の頭の中で結論付けて、これからどうしたものかと頭の中で整理する。少し余裕ができて周りを見渡せるようになった。
あたりを見回すとそこは死者の国と言うよりも狭い洞窟のようであたり一面、ゴツゴツとした岩肌を露出させていた。それにとても薄暗い。
――なんだ………ここ………。
どうなっているのか疑問を覚えつつ現状を把握するのに努める。何がどうして、こうなっているのか。考えれば考えるほど謎だらけだ。正直、この現状だけ見ると本当に死んだのか謎でしかない。
『おい、聞いてんのか』
「えっ?」
唐突に声をかけられて声の振り返るが、そこには黄土色の岩しか見当たらない。ふと疑問に感じて岩に手を当ててみるが結局、ただの岩の冷たい感触だけが手に残った。
『違う。奥へと進んでこい』
「いや、誰?」
返事を返すがこちらの言葉には反応しないのか、しばらく待っても返答はなかった。仕方がないと思い立って奥へと続く洞窟をゆっくりと進んでいく。知らない人に声をかけられてもついていってはいけないと教えられて育ってきたが、それでもこの状況で他の声と言うもはとても親近感がわいてしまう感も否めないので声の通りにする。
言われたとおりに歩いて十分ほどで行き止まりにたどりついてしまった。あるのは古い祠だけ。おそらく石でできているであろうと言うことだけしかわからないが、現実味がない部分が一つだけあった。
――黒い炎?
シュウジが知っている中で炎は赤い。特殊な方法を用いた場合でも黒い炎なんてものは見たことがなかった。
『来たか……』
「え?」
姿は見えない。ただ、声だけがどこからか聞こえてくるようなそんな状態だった。
『なあ、お前。生き返りたくないか?』
唐突な提案にシュウジは首をかしげる。生き返る。それは死んだ人間が息を吹き返すこと。当然、普通に考えればそんなことは起こりえるはずがない。いや、起こってはならないことだろう。
そもそも、電車に轢かれたのだ。時速で言えば百キロほど。間違いなく即死だし、恐らく体は考えたくもないような状況だろう。
「そんなことできるわけ……」
『できる』
疑問を口にしたシュウジに対してかぶせ気味に謎の声は言う。
「で、何すればいいの?」
それでも、シュウジにとっては生き返れるならという思いの方が強かった。好きな子を守って死んだと言えばかっこは良いが、彼女にトラウマを植え付けているかもしれない。それはシュウジの本意ではなかった。
それに死んだことへの後悔の方が大きい。
『えらく、即答だな……』
若干、あせりの声を覚えつつも謎の声はだったが、それでもその声はどこか嬉しそうに思えた。
『この札を外してくれればいい』
「札を……外せばいいのか?」
そんなことで生き返らせてくれるのか。ラッキーと思いつつ、喜々として祠からペロリと封印の札のようなものを取り外した。
瞬間。景色は暗転し、シュウジは再び意識を失った。