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竜騎士姫と反逆の獣  作者: 灰色人
第一章≪紅き竜騎士の再臨≫
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第10話『異端』

 クリスの言葉に目を丸くする。


 ――竜が出る……?


 そもそも、この世界に来て変身をした二回の内の二回とも竜が出た試しなど無い。考えているシュウジの事を知ってか知らずか、クリスは話を続けていた。


「それに、シュウジ。あなたは異常よ、異端と言ってもいいかもしれないわ。竜騎士は通常、竜と直接契約を行って封印して力を貸してもらう」


「――――っ?」


 変身したままの状態では話せないことを思い出して、その場で変身を解除して口を開く。


「竜との契約?」


 ――そんなことしたかな。


 クリスの言葉にシュウジは疑問を覚える。そもそも、何かと契約した覚えなどない。


 ――もしかしたら……。


 そう思って、自分のこれまでの出来事を振り返ってみると、ひとつだけ気になることがあった。


 あの『謎の声』だ。声を聞いたのは薄暗い洞窟のような場所とリィゼの祖父が殺された時、初めて竜騎士の力を使ったときだけだった。ともに、姿は見ていないが。


「竜騎士は皆そうよ。竜騎士団長ですらね」


「でも、シュウジ。君は、ある日突然手に刻まれていたと言った。その刻印は普通であれば、左手になんか刻まれない」


「どういうことだ?」


「普通は契約したときに、贄として自分の死後に差し出す物に刻印される。それは基本的に心臓よ」


「贄って……」


 ――嘘だろ……?


 そう思ってまじまじと自分の手を見てみる。そんな契約をした覚えはない。死んでからなら左手とられても大丈夫なのだろうかという不安がよぎる。


 今の状況を鑑みると、勝手に契約を押し付けられて、死んだら左手頂きますされる状態だ。


 ――冗談じゃない……。


「私も契約したときには心臓に近い場所、左胸に刻まれているわ」


「心……臓……?」


 正直に言ってシュウジは異常だと思った。自分の命を掛けて何をしようとしているのだろうと。


 現代人であるシュウジにとって、死んでも自分の肉体を持っていかれるというものは嫌悪感を覚えるものでしかなかった。


「左手に紋様が刻まれてるのなんて、伝説の紅き竜騎士以外にはいなかったのよ」


「いや、そんなことは……」


 自分は伝説の戦士ではない。そこだけははっきりとクリスに伝えなくてはいけない。そう思い、口を開こうとしたが、クリスが話を続けているのでシュウジは黙って聞くことにした。


「ここのところの魔物の大発生……それに合わせたかのような伝説の紅き竜騎士と同じ特徴を持った男が現れた」


「いくら人違いだと言ったところで、これを見られたら勝手に勘違いされるというわけか……」


 そういってシュウジは自分の左手をひらひらと振ってみせる。


 リィゼや村長も出会ったときに言っていたが、その伝説とやらがこの国には童話のように読み聞かせられているらしい。


 ――とんだ迷惑というやつだな。自分の世界に帰りたいって言うのに。


「それとシュウジ。あなたは竜騎士の格の違いって何かわかる?」


「格の違い……?」


 聞いたことない単語にシュウジは首を傾げる。

 

「契約した竜の格よ。神竜(ロードドラゴン)古代竜(エンシェントドラゴン)翼竜(ドラゴン)新生竜(ベビードラゴン)地竜(リザードドラゴン)飛竜(ワイバーン)の六種類」


「へぇ、そんなにいるんだ」


「あなた自分の契約竜がどのクラスかわかる?」


 クリスに言われて自分の中でシュウジは考える。先ほどの戦闘ではクリスが来なかったら恐らくやられていたであろう事は想像に難くない。


 そのことを考えると自身の力は真ん中くらいだとシュウジは思う。


新生竜(ベビードラゴン)クラス?」


「低く見積もりすぎッ! むしろ神竜クラスの化け物よっ!」


「でもさ、さっきの戦闘はクリスが来なかったら負けてたよね?」


「それはあなたが力を十分に引き出せていないのではない?」


「力を十分に引き出せていない?」


「普通はね、竜騎士になるために修練を積んだ後に契約の儀で竜と契約するの。竜には未来を見通せる力があるから。その力を使って未来までの力を見通して契約してくれる。それでもある程度まであらかじめ鍛えておかないと変身に体が耐えられないの」


 クリスはそこで一旦言葉を区切る。


「あなたの場合はそんな化け物クラスの竜を従えているのに、力を十分に引き出せていない。それにしてもおかしいのよね、引き出せていない割に完全体になっちゃってるし」


「完全体?」


 引き出せていないと言われても、どうやって引き出せばいいのかシュウジにはわからなかった。


「簡単に言うと、竜騎士の鎧は最初はブレストプレート。次に両足、両手、そして頭の順番に顕現するの。まだ未熟ならマントなんて出てこないわ。マントが出ているってことは契約竜を完全に支配しているあかしでもあるのよ」


「最初に変身した時からマント出てたけど?」


「はぁ?」


 クリスの呆れかえった声がコロッセオに響く。シュウジはクリスの話を聞いて自分が特殊だと言うことを理解した。


 おそらく、今までそんな契約者はいなかったのだろう。


「シュウジ、あなたは不完全でいてなお完全ってとてもおかしいわね」


「どうしてそうなったのか……」


「それでも翼竜(ドラゴン)クラス以上であることには変わらないわ。明日には遠征隊として出発するから今日は休みなさい」


「そうさせてもおうかな」


「宿と食事は私が用意させるから……また、夕食の時にでも会いましょう。一先ずここで待っていて」


 そう言ってクリスは元来た入口の方へと帰って行った。


「力を引き出せていない……か」


 ――こんな状態で誰かを守ることができるのだろうか。


 そう思いながらシュウジは目を閉じた。


 遠くに向かっていくクリスの足音だけがその場に響いていた。

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