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竜騎士姫と反逆の獣  作者: 灰色人
第一章≪紅き竜騎士の再臨≫
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第9話『紅き竜騎士の謎』

「…………」


 リィゼの言葉に、目を見開いたのも一瞬でクリスは静かにリィゼを見つめ返した。


 それから数分だったか数十分だったか無言で時が過ぎて行った。話の中心にいたはずなのに、なんだか蚊帳の外にいるような気がして、ただその光景を見ていることしかできずにいる。


 ――何をさせるつもりなのですか?


 リィゼの言葉がシュウジの頭の中に木霊する。何をさせられるのだろうか。


「ここに呼んだ時点で、大方想像がついているんじゃない?」


「ええ、そうですね」


 沈黙を破って先に口を開いたのはクリスの方だった。おそらく、何が言いたいのか初めからわかっていて、リィゼも頷いて言葉を返したその顔は笑っていた。


「単刀直入に言うんだけど、私たちと一緒に魔物討伐に赴いてほしいの」


「魔物の討伐?」


 戦争に参加しろだとか。そう言うことを言われるのではないかと思っていたので、少し安堵をおぼえた。


「ええ、最近になってこのあたりの魔物が多く出現していてね。先ほどのオークもそうだけど、あれよりも強力な魔物が多く出てきていて……」


「確かに、最近の魔物の発生も異常ですね。それに伴って山賊なども増え続けていますし」


 リィゼの山賊という単語に酷く目眩を覚える。自分が殺した。殺してしまった。その感情が、今すぐここで懺悔したい気持ちに囚われる。


「ええ、私たちドラグニカも竜騎士自体がそこまで多くないから手一杯でね。申し訳ないんだけど、助けてもらえないかしら?」


 あっけらかんとした態度でそう話すクリスに人助けになるのならと、シュウジは首を縦に振った。


 とたんにクリスの顔がぱっと晴れやかな笑顔に変わる。


「良いのですか兄様?」


「うん、攻めて人助けになるなら良いかなって思って」


 人をたった一撃で殺せてしまうほどの力で殴っても微々たるダメージしか与えられないオークに普通の人間が太刀打ちできるとは思えない。


 だからこそ、クリスが言うようにオークなどの魔物と戦える戦力が必要なのだろう。正確に騎士団員になってくれと言われたわけではないので、問題ないかとシュウジは考えた。


「で、キミ。名前は?」


「ああ、自己紹介がまだだった。俺はシュウジで、こっちは……」


「リィゼです。リィゼ・ノーラ。兄様ともども、よろしくお願いいたします」


 こちらの自己紹介に納得していないのか、クリスが首をかしげる。


「シュウジ……変わった名前ね……」


「兄様は兄様です!」


 もっともな疑問を口にするクリスに対して妙に焦ったような物言いをするリィゼを見て少しだけ胸の中にもやがかかったような感触を覚える。ちょっとした違和感があったが、とりあえずそれを脇に置いてクリスへと話しかける。


「で、結局何をすればいい?」


「一先ずは修練場に行くから着いてきて」


「修練場?」


「竜騎士専用の練習施設のようなものよ」


「そうなのか……」


 席を立ちあがるクリスと同じようにシュウジとリィゼも立ち上がり、クリスに続いて部屋を出た。


 どうやら、その練習施設と言われるのは先ほど見た城門の中にあるようで、兵舎を抜けて城門の中に続く脇の小さな扉をくぐった。


 その先に、小さなドーム状の建物が見えてくる。大きさはだいぶ小さいが、コロッセオのようだ。


「これが……」


「修練場……ですか……」


 土色のこの時代にしては巨大な建造物を見て、リィゼは呆気に取られていた。どうやら、リィゼもこう言った建物を見るのは初めてらしい。


「あ、クリス様……また修練ですか?」


「いや、新たな竜騎士候補の実力を見ようと思ってな」


 こちらに気がついたのか、修練場の入口にいた老兵が声をかけてきた。おそらく、リィゼの祖父と同じくらいの年齢だろうか。


 クリスも慣れた様子で老兵と話している。少し後を歩いていたので、会話は聞こえていない。


「おお! 今度は水ですか雷ですか? まさか色だったり?」


「あぁ……恐らく紅だ」


「えっ……クリス様それは……」


「兄様! すごいですね! こんな立派な建物見たことないです!」


 クリスと老兵の会話をよそに、リィゼとコロッセオを見ながらシュウジもその大きさを見てすごいなという感想しか出てこなかった。


 ただ、自分が知っているコロッセオと違い頭上に雨よけだろうと思われる屋根が付いている。


「シュウジ、リィゼ、中に入るわよ」


 老兵との会話が済んだのだろう。クリスが修練場に見とれていた自分たちに声をかけてきた。


「入れるんですかっ!」


 どうやら、この修練場に入れることをリィゼはいたく気に入ったようだった。シュウジも苦笑いしか出てこなかったが、良いかと思い先に歩きだしてしまったクリスとリィゼの後に続くように歩きはじめる。


 途中、先ほどクリスと話していた老兵がにこやかにこちらの肩を叩きながら頑張れよと声をかけてきたが、何のことかわからず首をかしげるだけしかできなかった。


 修練場の中は思ったよりも明るい。


 リィゼを少し遠くに退避させて、シュウジとクリスは修練場の中心部にいた。


「シュウジ、とりあえず竜騎士になってもらっていいか?」


「ああ……変身」


 突然、クリスに言われたことに戸惑いながらも、前の二回とどうようにシュウジは左手を目の前に突き出して声を上げる。


 今までと違って目的もない状態だが、それでも前回までと同様に紅の鎧が姿を現した。


 手に持っていた剣も今度は鞘ごと巨大化している。


「ふむ……」


 こちらの鎧をまじまじと見ながらクリスは何かを探すようにいろんな角度からこちらの様子を見ている。


 ――何をしているのだろうか。


 そんな疑問が脳裏に浮かぶ。だが、こちらの疑問を無視するようにクリスはまじまじとこちらを覗き込んでいる。


「シュウジ……君、なんでその姿でいられるの?」


 クリスの口をついて出てきた言葉にシュウジの頭に疑問が浮かぶ。


「うーん、質問の仕方を変えた方がいいかな……」


 そう言ってクリスは人差し指を曲げて唇の前につけて考えるようなしぐさをする。


 ちょっと色っぽいそのしぐさにシュウジはどきりとした感情を覚える。


「ねえ……なんで竜がでてないのに、完全体になれるの?」

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