prologue1『神様から平等に与えられたもの』
――死にたくない。
神様は残酷だ。まだ、17年しか生きていないのに。
――死にたくない。
神様は残酷だ。自分の最後が好きな人も前でなんて。
「シュウジくん!」
デートの最後に告白の予定が、まさかこんなことになるとは想像もつかなかった。
学校の授業が終わり、ようやく彼女と二人で出掛ける予定を取り付けた。電車で彼女の家の最寄り駅まで向かってから一緒に彼女がお勧めした喫茶店でケーキを食べてから街を見て回る。
いわゆる放課後デートだ。
――こんなところで、終わっちゃうんだな……。
そして、その後彼女に告白をする。
今日の計画的なプランだった。
――そのはずだった。
明日も来ると思った日常は。
――俺に……明日は来ないのか……。
シュウジと呼ばれた少年はやがて自分へと近づいてくる平等なものに目を見やる。
神様が全てに等しく与えたもの。
『死』を届けに特急電車はゆっくり、ゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。
生きるものは必ずいつか死ぬ。それが速かっただけだとそんな風には納得できない。
――ホームに乱暴に投げ飛ばしてしまった彼女は大丈夫だろうか?
――怪我などは、していないだろうか?
ホームを走っていた人が彼女にぶつかり一人の少女が線路へと投げ出される瞬間が数秒前。咄嗟にシュウジは少女の腕を掴んで力いっぱいホームへと引きもどしたのが数瞬前。
だが、その反動で自分が線路へと飛び出してしまったのだ。あれからだいぶ時間がたってしまったようにも思える。数秒のはずが数分にも数時間にも似たような錯覚。
――ナツメちゃん、トラウマにならないといいな……。
ゆっくりと近づいてくる電車はこの駅では停車しない通過電車だ。当たったら確実に死ぬ。
本当に神様というものは残酷なのだと。
どこか冷静な頭で好きだった子の心配をしているが、もうじきそれもできなくなるのだろうか。
特急電車の運転手の顔が強張るのが見えた。
――そりゃそうだろう。急に線路に飛び出しているのだから、驚くのも無理はないよね。
ブレーキをかけても到底間に合わないことはわかっているが、それでも必死にブレーキをかけようとしているのがシュウジにはわかる。
迫ってくる電車に吸い込まれる感覚を覚える。周りの人が叫び声を上げる。
本当に自分が危険な瞬間というのは景色がゆっくりになると言うけれど本当なのだな。とのんきな感想を覚えながらシュウジは空を見上げる。これから死んでしまうのに、人の心配ばっかりだ。
人一人が今から死ぬと言うのに空は青く。世界は平和に回っていた。
――ああ、死にたくないな。
それでも電車はこちらに向かって近づいてくる。もう三メートルを切っていた。
――死にたくない!
後、二メートル。
――死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!
一メートル。
――もっと……。もっとッ! もっとッ! 生きていッ――――。
シュウジの感情があふれ出た瞬間。堅いものが当たる感触と共に駅に木霊する悲鳴と特急電車のブレーキ音。弾き飛ばされて風を切るような感覚。
そして、シュウジの意識はそこで途切れてしまった。
そう、死んだのだ。
シュウジの十七年の人生は幕を下ろした。




