プロローグには落ちが要る
コタツに負けて昨日は更新できませんでした……。
書きだめしなきゃダメだな……こりゃ……。
「グゥ……ッ!」
頭が焼けるような感覚。何か大切なものが溶けて消えていく不気味な脱力感で立ってられない。
当たりにほとばしっている紫電にサソリが気を取られるほんの数秒。その間にこの奥の手が成功すれば勝ち。成功しないなら、俺は赤い砂に加工される。
「間に合えェッ!」
紫電が無害だと気が付かれ、サソリがのそりのそりとこちらヘ向き直る。砂に手をつけたまま動けないでいるのを嘲笑うかのようにやけにゆっくりと黒ハサミを持ち上げていく。
あと少しだってのに……ッ!
9割はなんとか錬金し終わっている。あとは蓋に少し細工をするだけ。なのにそのあと少しに手をかける前に黒ハサミは振り上げられる最大まで掲げられ、そして振り下ろされる。
「錬金ッ!」
地響き。
ベゴリ、とさっきまでとは別種の音が反響する。太陽に熱せられた黒ハサミで軽く火傷した左腕を庇いながら、ニヤリと口角を引き上げる。
「賭けは……俺の勝ちだ。」
蜘蛛の巣状に砂漠にヒビが入り、そしてヒビは紫電の走った範囲を埋め尽くす。めり込んだままのハサミを引き抜こうとするサソリが踏ん張る度そのヒビは深く、大きくなる。その異変に低能なサソリが気がつく頃には既に手遅れなほどヒビは大きくなっていた。
「さぁ、ショータイムだっ!」
砂を幾らか錬金してさっき使ったパラシュートを作り出して背負うと、設定した1点を目掛けて踵を、振り下ろす。
『ボゴ』
その一つの音は連鎖するように周りへと広がり、一つの石が下へ落ちたのをキッカケとして俺の錬金した円柱は崩壊を開始する。吸い込まれるように天井が抜け、俺もろともサソリは落ちていく。
「ギシャァァァァァ!」
固くて倒せないなら、落として殺せばいい。亀を狩るワシが教えてくれた戦術だ。白いハサミと毒針届かなければ落下する速度的に俺だけが生き残る。完璧すぎるシナリオだ。
地面を錬金して天井がギリギリで壊れない円柱を作り出し、中身の砂を変化させる暇が無かったので半分を最大まで価値の低いものへ錬金して円柱の外へ逃がし、のこり半分くらいを空気にしておいた。
半分とはいえ流石に数十メートル×数十メートル×数十メートルの減圧状態の吸引力は伊達じゃないようで、ストローに吸い込まれる液体みたく外の空気+砂が穴へと吸い込まれ、サソリの胴体が砕けたのをギリギリで確認したところで視界は砂で埋まる。
錬金しまくって除去しても除去しても身体中の穴という穴へ砂が入り込むし、パラシュートに砂が積もって形が不安な風に変形し始めている。早く壁に避難しないと作戦に自分が殺されそうだ。
「良し、コレで何とかなる。」
暫く涙目になりながら滑空し、パラシュートの上の砂をティッシュにして吹き飛ばす錬金が30回目になった時、ようやく防塵マスクとかの存在に思い当たって錬金。装着して中の砂を外へ逃がす。苦労してたのがうそだったみたいに快適になり、閉じてても入りこむ砂のジャリジャリ感を味合わなくても済みそうだ。
「お、そうこうしてたらもう壁、だね」
パラシュートが壁にぶつかって制御ができなくなる瞬間、陶器の壁を錬金して取っ手を作り、ぶら下がる。背中側を手探りで探すと、ちょうど棒状の何かが壁から生えていたのでソレに腰掛ける。
「ハァッ!」
壁を押し込んでいくようにして球状の空洞を作り、壁をタングステンあたりで補強する。扉がわりに布を1枚一体化させると、エデラから貰った瓶からほのかな光が漏れ出す。その光は弱々しく黒鉄色の無骨な部屋(むしろ独房じゃないのかな?)を照らし出し、優しく俺を包む。
「暗闇だとランタンがわりになるのか……。
そういえば、サプライズ、てのは確認してなかったな……まだ。」
砂から作った陶器と布で椅子を錬金し、腰掛けてビンをあらためて観察する。ポーション用のビン、として売り出されてるような首と胴体が1体3の割合な普通のシルエット。ガラス製品とは思えない神がかった蔦文様。龍が吐き出した水が滝となる、ソレが細やかに作り込まれた取っ手。
あの短時間で作られたにしては細やか過ぎて、コレの1割位劣化したものだろうと国宝級に認定されそうな美しさを持つソレを1通り見回すけれど、スイッチとかの類は無さそうだ。
「となると……」
ひと息ついて決意を固め、瓶の蓋を引き抜く。スポン! と綺麗な音を立てたソレは、『光の塊』としか言いようがない手の形をした何かを生やしたかと思うと俺を瞬く間に掴み、瓶の中へと放り込んだ。
「ッなんだァァァァァア!?」
「ご主人、帰りが遅いじゃないか」
『光の塊』の直射光で目が潰される瞬間、聞いたことの無い。しかし何故か聞き覚えがある気がする不思議な声が聞こえた。
「キミは……誰だ?」