プロローグは出発の合図!
「等価交換って事は……例えば灰から金を作れるってことか?」
「えぇ。そんなの朝飯前に作成できるよ。分かりやすく噛み砕いて言うと、対象を分解して、ソレの価値に当たる範囲内でキミが知っている物を作成できる能力。応用力はとてつもなくあるし、考え方次第では自由自在さ!」
手を思いっきり広げ、満面のドヤ顔をした女神はちょっと我慢してねと言ったが早いか、手の中に光の珠を作り出す。七色とも違う見た事の無い色を放つサッカーボールサイズのソレは、とても魅力的な輝きをしていて……見とれている間に近づいた女神は躊躇うことなくソレを俺の胸へ押し付け、埋め込む。
「っ!?」
埋め込まれた瞬間は若干の違和感があったものの、すぐに体に馴染んでその使い方が直感で分かるようになる。
暫くやってなかったゲームのやり方を思い出した時みたいだ。一瞬前までは何も分からなかったのに、少し動かそうとするだけでどう動くのが最適なのかが体に染み込んだ物から湧き出る感覚。そんな感覚。
「体の調子は大丈夫かい?」
「あぁ。ちょっとばかりくらくらすること以外、これと言った不調は無い。」
詰め込み勉強した後みたいな脳の疲労がさっきからしていて、ちょっとばかり気持ちが悪い。心底心配そうにこちらを見ている女神の顔は歪んでないし、それ程体調が悪くなってるわけでも……アレ?
「……キミの体を覆ってる泥の量が多くなってる気がするのは気のせい……なのか?」
顔を覆っていた泥の層がじりじりと厚くなり、表情を判別するのが難しくなってきている。今、女神が困った顔をしているのか、泣きそうな顔をしているのか。細やかな表情を読み取るのに、声を聞き取って判別する方が簡単なほどだ。
「あぁ……。
そろそろこの体が限界を迎えかけてるんだろうね。
……大丈夫。キミはきちんとこの世界に降り立たせてみせるし、サポートもきっちりするさ。
心配する事は無いよ。コレでも創造神としてきっちり仕事をこなして来れたんだ。
だからさ、そんな顔しないで。少しだけ休暇を取るだけだからさ。」
女神は悲しそうな声でそう言うと、瓦礫の山の上へよじ登る。
ひと息、つくと目をゆるりと開け、手を突き出し、歌い上げるように声を綴る。天の喜びを示しているような歌声が響き渡り、ソレに見惚れてしまう。一時の賛美歌が終わると女神はかがんで瓦礫の山に手をつけると、最後のひと綴りを歌い、締める。
「……我綴る万魔の小瓶を!!」
叫ぶように綴り終わった歌が染み込んだ瓦礫の山は、優しい白の光を放ち小さく小さくその大きさを縮めていくと、唐突に光を散らしコーヒー缶くらいの小瓶に変化する。水色でツタ紋様に縁取られる小瓶を女神は手に取ると、一仕事終えたように息を吐く。
「最後にオマケだよ。私とキミ以外には君が許した人しか見えないし触れない神の小瓶だ。
中に入れば一軒家くらいの空間は有るし、サプライズも用意してある。
チッ、出発の挨拶とかはしている時間が無さそうだ……。
」
それだけの事をまくし立てるように言い終えると、小瓶を渡し俺を突き飛ばす。
「ッ!?」
引き込まれた時みたいに、幼い見た目と全く釣り合わない力で突き飛ばされた俺は、いつの間に作り上げられていた白亜の門の扉にぶち当たり、そしてその向こう側へと落ちる。
反射的に伸ばした手の向こう側でエデラの顔が笑顔のまま泥に埋もれ、灰色だった神域が黒へとドミノ倒しみたいに染まっていく。
「いい旅を!私の救世主くん!」
その声が扉の閉じる音にかき消されながらも俺へと届く。
「いい旅を、ねぇ。
上等だ!楽しんでやろうじゃねぇかッ!楽しんで楽しんで!キミを助けてやるッ!休暇、それ程多く取れると思うなよォッ!!」
ただただ決意を胸に、落ちていく。