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プロローグ、話は進む。ベッドは軋む(重量で)

 飲み込んだ唾で喉がゴクリと鳴る。痛いほどの静寂が二人の間に広がる。

 彼は目を閉じて一つ息を吐き、そして瞼を開ける。


「君の能力。それはね……?」


 それは……?


 勿体ぶるように間を開け、考えるような顔を挟んで決心したように口を開く。


「完璧な等価交換、さ」


 ソレは知ってるんだけど……。


 落胆が伝わったのか、少年神が僅かに眉を潜めている。これはまずい、と慌てて表情をどうにかしようとする。


「ははっ……取り付くわなくても構わないさ。

勿体ぶったのに、言ったのは知っている事だったんだろう?

ソレは想定内だよ。というか、知らなかった方が説明に困っちゃうよ」


 たたん、たたん。と彼が空中のキーボードを押す様に操作すると、壁から光板が湯気のたったマグカップ二つを乗せてやってくる。


「ココア。要るかい?

ガチガチな緊張感が必要な話って訳でもないし頭に糖分は必要だろう?」


「あ、あぁ。要るよ」


 お、丁度いい甘さだ。


 光板から受け取ったココアを冷ましながら口をつける。身近な甘みが固くなりすぎていた肩を解してくれる。


「はふぅ……」


「ふふ、肩の力が抜けたみたいで何よりだよ。

んじゃ、本題。能力の詳細へと移ろうか」


 俺がココアでほんわかしていた所が微笑ましかったのか、孫を見るような顔をしていた彼は正気に戻るのを待って説明を再開した。

 マグカップを持ってきてからずっとその場で待機していた光板を掴み、引き伸ばして簡単なホワイトボードみたいな物へと変形させる。

 作られたソレに手を触れて払うようにニ、三度手を動かすと、何かを図解する絵が現れる。

 話の流れからして、この絵が能力を解説している絵……なのだと思う。何故確証が持てないかと言うと、独特の価値観と言うか……一般人には理解できない良さと言うか……。

 そういった類の絵だからだった……。ピカソの作品に混ぜ込んでおいたら見分けつかないんじゃないのかっていう部分が7割を超えていて、頭が理解を拒否してしまっていた。


「この図で理解出来るだろう? かなり凝って作ったんだ」


 理解できないんですけどォ!?


「……言葉の説明を添えてくれると有難い、というか……その……。」


 どうだぁ! と言わんばかりにドヤ顔している彼に指摘するのは流石に心が傷んだので、当たり障りの無さそうな言葉で口で説明するように言ってみる。


「むぅ……かなり噛み砕いたんだけれど。分からなかったのかぁ。


しょうがない。重ねて説明してあげよう!」


 ふぅ……。何とか機嫌を損なわないまま言語説明に移って貰えた……。


 ほっと一息つく間に、彼は何処かから教師が使ってそうな指示棒を取り出してむふーと俺の意識がそちらに向くのを待っていた。


「君の能力は、とある法則に乗っ取って価値の移動をさせる。といった力さ」


「とある法則……?」


 その質問は意図していた通りだったのか、ニヤッと彼が笑う。


 ようやくこの子の扱い方が分かってきた気がしてきた……。


「そう! 法則に乗ってるさ!

君は、信じられることでいろんな力を発揮する物。

身近なものなんだけど……知ってる?」


 は? え? 何だそれは!?


 ココアを口に含み、糖を頭に回して頭を働かせる。視界だとか聴覚だとかの情報をなるべく削ぎ落とし、ギアを入れて思考の海に半身をつける。


 選挙は違うし、勇者は捻りすぎているし身近じゃない……。


 色々な答えが浮かんでくるものの、この流れで当てはまりそうなものが見当たらない。

 目の前で楽しそうに待っている彼の機嫌を損ねる訳にも行かないし……。


「信仰……?」


 口が、滑った。

 神の前で信じられなきゃあんたは無力だ、とかいうような事に近しい答え。考えうるうちで最悪の最悪だ!


 ヤバイヤバイヤバイヤバイっ!


 冷や汗がたれる。

 顔が、挙げられない。


「はっはっはァ! ここで信仰を選ぶなんてねぇ?

問題には沿っているし、ここは正解にしておいてあげよう!」


 あれ? 声色が怒っていない……?


 恐る恐る顔を上げると、苦笑する少年の顔が。彼はククッとたしなめるように笑うと、額を軽く小突く。


「まぁ、ボクじゃなかったら起こってた思うから気をつけるようにねー?

正解してくれたキミに、二重丸の大正解を教えてあげよう!」


 大正解……何なんだろうか?


 ゴクリ、唾が喉を鳴らす。

 好奇心が目を輝かせているのを自分でも感じる。


 あぁ、彼の口が開く……!


「その答え……ソレはね?

……金さ」


「金? マネー?」


「あぁ、金だよ!

紙切れに同じ形をした金属片。

そんな物より缶に入った飲み物の方が価値があるに決まっているだろう!


なのに何故キミは交換に応じれる?

正解は、紙切れに、金属片の集まり。それに価値があると信じているからさ!


価値があるから交換するし、皆が価値があると信じているからこそそれを引換に色んなものが動く。

ソレは信仰やら神の力にも似た物だとは思わないかい?」


 確かに。無条件に金は価値があると思っていた。だけども、よく考えれば紙幣は紙だし、硬貨は価値があると示す割には小さいし軽い。けど……ソレが俺の能力に何の関係が……?



「ふむふむ……ソレとなんの関係が有るのか、って顔をしているね?」


 心を読まれた!?


「いや、そんな驚かれても……。

ココアで安心しきったのか、顔にめちゃくちゃ出てるよ?」


「……そんなに?」


「そんなに。」


 思わずため息が出たのは俺のせいじゃないと思いたい。

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