プロローグ チュートリアルズ フォー アルケミス
レポートのバカヤローっ!
レポートとテスト勉強のコンボで時間取れなかったのが辛かったです……
パチン。
少年神が指を鳴らすと薄い水晶のような板が俺と彼の目の前に出現して浮かぶ。高さでいえばテーブルで使うのに丁度いい高さではあるけれど……。
「そこに中身を出して。その中には僕の持ってる袋と同じ奴が入ってる」
言われるがままにテーブルの上に出すと、ちいさな手のひらサイズの金色のインゴット、今にも壊れそうな古木で作られ、擦り切れて何のコマなのか辛うじてしかわからないチェスのポーン。金色、銀色、銅色のコイン。そして1枚のカエデの葉。
言葉のとおり、彼のテーブルの上に並べられたものも同じだ。
「確認は済んだね。君の能力を実感してくれるように……まずはそこのガラクタなコマをその葉っぱに錬金してくれないか?」
「あ……あぁ。錬っ金!」
ポーンのコマが光に包まれながら手の上で崩れ、5枚の木の葉に変化する。同じ位置に出現した木の葉同士が押しのけあって散らばると、ひらひらと手の上からこぼれ落ちた。
……これで何がわかるんだろうか?
そんな不安も見透かしたような目で少年神は俺見据える。
「じゃ、次はそこの金を錬金してくれ。」
「おう。錬っ金! っとおおおおお!?」
光に金が消えたのが見えた瞬間、強くなった光の中から間欠泉のように葉っぱの群れが吹き出てくる。際限ないその群れが煩わしくなったのか、彼は指をひと振りするだけで消し飛ばす。
……これ、まずった? やらかした?
垂れそうな冷や汗を背中に感じる。少年神が不機嫌そうに眉が釣り上げているのも視界に入る。静寂がとてつもなく辛い。図書館の静かさが気まずい気分をどんどん加速させる
「じゃぁ……僕の方も錬金してもらえるかな?」
さっとポーンの駒と金を袋に入れ、投げ渡してくる。
「分かっ……おっとあぶっ!」
ゆったりと投げ渡されたそれを取り落としそうになりながら受け取り、流れるように錬金しようとする。
「おっと、待ってくれ。それらの謂れを言うのを忘れていた」
「……謂れ?」
それが何になるんだろうか。本当に錬金術ならその物体の価値にそっての変換だから謂れを聞いた程度で価値は変わらない筈なんだけど……。
「まず……この木の駒。
……世界樹から削り出した奴で、とてつもなく高いやつだったんだ。まさか木の葉5枚とはねぇ?」
「ぁ……」
……これはしくじった。やらかした。やらかしたッ! 首に斧が……ってあれ?
止まらない冷や汗も隠さず、全神経を耳に集中する。そうして聞こえてたのは、死神のブーツの音ではなく少年神の舌打ちであった。
「何やってるのかい……そうなることくらい分かってて渡したんだ。早くその駒を錬金してくれないかい?」
「は……はい」
思わず丁寧口調になってしまうほどの動揺を抑え、錬金の光へ恐る恐る世界樹のポーンを取り込む。
グラリ。
地震が起きたのかと錯覚するような揺れ。そしてそれと引換えに光から出てきたのは……1枚の葉っぱ。
え? 拍子抜け……いやそんな訳ない……よね?
「評価が……変わりすぎだっ!」
葉っぱを目に入れた瞬間に少年神が焦って身を乗り出すのが目に見えた。
そう感じたその時だった。
ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ
視界が、緑で埋まった。