プロローグ。知らない天井って良くあるよね
目を覚ます。
見覚えのない天井だ。
「ってどこだここォ!?」
青白い磨かれた大理石の天井。ソレには見回してもつなぎ目すら見えない。
壁も天井も床も同じ素材で作られていて、柱に模様として彫り込まれている以外には切れ込みすら存在していない。
飛び起きる時に跳ね除けた寝具は雲みたいに軽くしっとりとしていて手をついたマットレスはマシュマロみたくめり込む。
家具はひと目でわかるほど超一流な物で揃えられている。
どこかでこの風景を見た気が……する。
テレビとかで、じゃなくこの目で。
そんな風に浮かんでくる漠然とした不安をひとまず置いておいて、手触りのいいマットレスをモミモミするのを止められない右手を引きはがす。
ひとまずこの部屋の外へ出てみようかとシーツから手を離せなくなった左手を引き剥がし、ベッド下に揃えられたスリッパに足を通す。
体をひねって今の装備を確認し、ふと気がつく。
瓶が……無ェ。
学生服が綺麗さっぱり無くなって肌触りが異界レベルで良いパジャマになっていたり、砂まみれになっていたにもかかわらず肌や髪からザラザラ感が皆無になっているのはもはやどうでもいい。
なんでも入る袋兼移動式住居の瓶が無くなるのは非常に不味いし、そもそも女性からの贈り物を失くすこと自体が完全にアウトだ。
「ヤベェ……」
頭から血が降りていって青ざめていくのを体感し、そこら辺の家具へ駆け寄り瓶の入りそうな場所をかき分け探す。
一応他人の物の中を探しているのでかき分けたあとは整え、三つ目の引き出しを元通りにしたところで後ろの扉が開く。
その音に気が付き、バッと振り向く。
「おやおや、起きて早々に家探しとは……。
助けたボクの判断が間違いだと立証しようと動かないでくれると嬉しいな……? 」
神。
背後に存在していたのは、その一言で表せられるような存在であった。
あどけなさの残る幼い少年の体には傷一つ無く、宇宙のように輝く瞳は俺を見定めて離さない。
そこにいるだけで名のある絵画のひと場面となりうる存在感を秘めた少年。
どこか聞き覚えがあるのに思い出せないテノールの声を紡ぐ口は嗜虐の笑みの形を取っている。
少年は、布を巻き付けた衣装をひらりと舞い上がらせながらこちらへ歩いて来て、託宣した。
「元気がいいようで何よりだよ。
ボクらの救世主。」
芝居のように冗談めいて、それでいて神話のようにきらびやかに両手を広げ、その少年は笑みを深めた。