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プロローグ、出会い、別れ

「コムギぃぃい! 」



 慣れない戦いの空気から開放され、頭痛を抑えるために過剰に出てきた脳内麻薬に流されるままに砂を蹴って走る。

 壁に吹き付けた風で出来た砂山へと倒れ込むようにして飛び込む。焦りと不安も混じり始めた思考を置き去りにし、手も使ってコムギが隠れている砂山の頂点へと手をかけ、両腕で一気に体を持ち上げる。


「コムギ!やっと……ってえ? 」



 コムギが横になっていた筈の場所。

 そこにあった……いや、居たのは、大柄な甲冑。

 俺が背中を強打した棒の下、俺の作った穴の斜め下に出現した石組みの入口と棒と同じ色合いの錆びで埋もれた金属扉。そそり立っていた棒がレバーのように下へ下ろされ、扉は冥府への扉のように俺を手招いて解放されている。

 そこへコムギをかついで連れ去ろうとした大鎧……。


 明らかな不審者、だよな? 

 殴っても問題無いのでは? 

 なら対処しよ(殺そ)

 

 脳内会議で三段決議が独裁気味に決まった所でハンマーを取り出す。

 弱り切った幼女と、ボディビルダー並の大柄な体を甲冑で包み、息が荒い男(仮)。この事案にしか見えない絵面なら、甲冑男へ下さないといけない判決など、決まっているっ! 


「離せや変態ガァァァア! 」


 ベルトから引き抜いた最後のハンマーを振り上げ、砂山の頂点を蹴り砕きながら飛び上がり、めいいっぱいに男へ振り下ろす。

 そこで俺の耳に届いたのは、まるでバケツを叩いたような情けない金属音。

 大柄な肉体に阻まれるはずだったハンマーは振り抜かれ、俺の体は勢いを殺せないまま砂に頭をめり込ませる。尻に軽く当たる軽い金属の落下物。


 混乱しか無い状態のまま、このままだと窒息するのでひとまず頭を引き抜こうとして、腰に手を当てられる。

 冷たい金属の感触と、痛いほどの力強さが俺へ伝わったが早いかのタイミングで雑草みたく引き抜かれ、投げ飛ばされる。

 腰から飛んでいき、砂山に尻が刺さって加熱体制が整った所で鎧から声をかけられる。



「……何してくれてんの!?

ボクの装甲の中で1番手間をかけた兜を吹き飛ばすとか……ってああああああ!

頑張って彫り込んだ装飾潰れてるじゃんかっ! どれだけ手間かけたと思ってんの!?

こんなことなら久しぶりだからって外に出なきゃ良かったッ!」


 地団駄を踏んだり、拾った兜を胸部へ近づけてから力なく落として絶叫したり。アニメで見るみたいな大袈裟な身振り手振りをしながら甲冑の中にいる少年は喚き倒す。

 途中から叫びが6割を超え始めた少年声の甲冑の脇をすり抜け、兜を落とした時に取り落とされたコムギの元へ駆け寄る。


「コムギ、コムギ!

大丈夫か……?」


 砂がすこし降り積もったコムギに触れた瞬間、俺の背中にはツララが突き刺さったような悪寒が駆け巡った。


「え……?」


 温度を……感じない。

 よく見れば口の周りの砂も吹き飛ばされようとしていないし、胸も、動いていない。



「コムギ! コムギィ!」


 体をゆすり、胸を押しては耳を当て、押しては当てる。


「コムギっ! なんでっ!」


 全力で押しているのに少ししか押し込めない硬い胸。ピクリとも動いてくれない小麦色の耳。

 視界はどんどん滲むばかりで使い物にならず、ならばと抱きしめた腕からはコムギの温もりの情報が入ってこない。

 砂に突き入れれば手はきちんと暑さを伝えてくる、というのにだ。


「認めない! 認めたくないッ!」


 非日常に耐え続けてきた俺の精神。それはここでパキンと心地いい音を立ててへし折れた。


 暗転する世界の中、小さな影がコムギを覆っていた。


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