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プロローグは突然に


『アナタは選ばれました!』


 そんな件名のメールが、俺宛で届いたのはいつだっただろうか……。


 数えるほどしかない友人と家族の連絡先しか登録してないはずのスマホが、忘れかけていた着信音を嫌みな位の大音量で流し、俺の安眠を妨害してくれたという事は覚えている。件名だけ見て開くこともなくブラックリストにぶち込んでいた事も。


 退屈な授業を右から左に聞き流し、図書館の本も目をつけていたネット小説も読破して手持ち無沙汰になったちょうどその頃、ブラックリストに入ったままのソレを発見した。


 ちょっと、開いてみるか?


 迷惑メールが他に届かなかった事から、ランダムにメールアドレスを打ったら奇跡的に俺のアドレスになったんではないのか? と考えていた事、ネット掲示板で迷惑メールのハチャメチャな文面を見て興味を持っていた事も助け、いつもなら他の小説を探しに行く所だったのだが今回はそのメールを開いてみよう、と興味が湧いてしまったわけだ。


 はてさて、鬼がでるか蛇が出るか。出来れば笑えるものが欲しいかな?


 興味津々にスマホの画面をタップし、英語の担当が長文書きに夢中になっている事を確認して引き出しのスマホへ目を向ける。


『アナタは選ばれました!』

『チート有り、無双有りな異世界生活、そんなライトノベルなファンタジーに憧れるアナタに!

月が再び満ちる日にお迎えに上がります!


女神 エデラ』


 面白くも何ともなかった。

 予想が高かっただけにガッカリが大きく、ため息をついた。


 ウイルスバスターを起動してみても何も反応せず、文面のどこを触っても騙されてやんのと言わんばかりの強制ダウンロードすら起こらない。


 「イタズラかよッ! 」


 小声で悪態をついたのも、こんな悪質な仕打ちをされたのだから許されても良いだろう?

 良いと言ってくれないとコチラをめっちゃ凝視している英語担当の説教がこちらに飛んでき……あ、詰んだ。

 教卓へと連れ去られていくマイスマホを救助することはできず、嘲笑を含んだ視線を向けてくるクラスメイトを軽く睨んで牽制するだけで今日の最後の授業は終わりの時を告げた。



 説教特盛フルコースからようやく解放され、その頃には黄昏時のセミが蒸し暑さを倍増させる時間帯だった。


 「…………」


 気が付かれる原因となった忌まわしきイタズラメールに無言で削除ボタンを連打する。この程度で気が済むわけではないのだけれど、何か八つ当たりがしたかったんだから仕方がない。データの藻屑になるメールを記憶からも消し飛ばしながら、中庭のビオトープ前を通る。

 癒しは必要だ!とか何かわからない理屈で作られ、手入れされなかったために草で覆われて虫が湧き放題のそれの前を通る理由と言えば、その草以外の他はない。

 校長が川から取ってきた魚を放流しているおかげというか何というか、除草剤や農薬が全く巻かれないまま大きく育ったソレは、ウチの兎の大好物のひとつだったのだ。ウチの地元ではぺんぺん草と呼ばれる雑草。ソレの腰ほどもある巨大種らしき物の根元を何度か蹴り飛ばしてへし折り、5本ほど収穫すると水を入れたビニール袋に押し込んで縛り上げ、学校に残してきた最後の用を終わらせる。


 「コレだけデカけりゃウチのウサ公も満足するな! 」


 葉っぱにへばりつく虫をデコピンで弾き飛ばし、池へ放り込むと、草の束を握って立ち上がる。

 そんな時だった、水底が黒色に染まっているせいで底なし沼風な雰囲気をしている池。そこから出てきた手に足をガッシリ掴まれている事に気がついたのは。

 ファンタジーに出てくるゴーレムをヘドロで作ったらこうなるんじゃないか、と言った感じのぬっちょり感300パーセント増し増しな質感の腕は、嫌悪感を覚えるよりも前に掴んだ右足を水へと引き込んでいた。


「お迎えに、来させていただきましたァ……」


 引き抜こうと踏ん張る俺に諦めろ、とでも言いたいのかヘドロにくぐもったおどろおどろしい声が話しかけてくる。


「死への迎えなんてまだ若いし早すぎんだよっ! 悪事なんて万引きすらもした事ない善良な一市民だってのにっ! 」


「いやぁ……死への誘いなどではなく……」


 少し困惑した声は一切の力を弱めることなく俺の事を引きずり込もうとしており、死の死者じゃないなら一種のオカルトの存在にしか感じない。池で死んだ生徒なんて作られて2年もしてない此処では存在しないはず……。


「クッソ離せやァッ!じゃあ七不思議かッ!?

 こんな七不思議聞いた事ねえぞォッ! 

 ……まさか、知ったら消される八個目の七不思議ッ!?

 離せェェェェエエ! 」


「いや……七不思議でも無いんですが……

まぁ、いいです。いらっしゃい私の救世主。」


「まぁいいですじゃな……ってやべ手が滑ッ! 」


 くぐもった声の主は手を蹴りつける足も気にすることなく、一層強い力で在るはずの水底を超えたさらなる底へ引き込んでくる。掴んでいた岸辺の岩は泥まみれなせいでぬるっと俺を簡単に見捨て、全身が水へと引き込まれる。


 あぁ……水面が段々遠くなっていく……。


 ひたすらに掴んでいるものを蹴り飛ばし続けてもその力は弱まること無く、口から一つの大きな泡が漏れでると、俺の意識は白へと染まっていった。


2016/3/16 感想で指摘された箇所の修正

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