プロローグと、ドリル式断頭台
考えるのは……止めだ。
俺がすべきこと、それはサソリを殺すこと。
俺の大切なものを傷つけたアイツを……始末する事ッ!
コムギに押された俺は倒れるようにして走り出す。
眼前の敵を睨みつけ、いつの間にか痛まなくなった頭で敵を処分する道具を脳内で構成する。
形は刃。
材質は鋼鉄。
動力は落下。
変換源は……金。
そこまで構築したところでミドリが引き離していたサソリの目の前へと飛び出す。
「主人!? もう大丈夫なのか!? 」
「大丈夫。だから少しだけ下がっていてくれないか? 」
心配した顔を向けてくるミドリへ笑いかけながら手を振り、砂へ手を振り下ろす。
サソリの足元の砂を思い描いた物質、形へ変換する。紫電がとてつもない広範囲を駆け巡り、その範囲に比例するようにレンガで殴られるような頭痛が俺を襲う。
それでも……俺は実行させる!
「錬……成っ! 」
紫電が視界を埋め尽くした後、そこに敵の為の処刑台が生み出された。
ソレは2mほどの落とし穴と、サソリの腹の下にそそり立った黄金のドリル。
突然地面という支えを失い落下に抗えないサソリは、当然のごとくその螺旋の先端へ自らの重さの全てを委ねる。
つまりは……
「ゴギャァァァア!? 」
こうなるのである。
体の中で柔らかい方とはいえ、トラックやダンプと同じような大きさの生物の内蔵を支えてきた腹の皮膚。落下した一瞬を耐え、ドリルの先端を弾き返して押しつぶす事ができた訳だが……。
その潰れた螺旋の先ですら、重厚な甲殻でもなんでもないただの皮膚が耐えられなくなるのには十分であった。
背中の甲殻を弾き飛ばして背中から生えたドリル。その彫り込みに巻き込まれたサソリの筋肉が絡みあい、姿勢をがっちりと固定する。その固定は体を支える事だけに精一杯になっている傷ついた足では容易には引き抜けない。
引き抜こうとしてもがき、その振動で振動で落とし穴に埋まり行くサソリを見据えて、途中で止まっている錬金を再開させる。
「コレで……おしまいだっ! 」
サソリの背中から飛び出たドリルの先端。そこに一瞬紫電が走ったかと認識したその瞬間、砂色の煙が上がって先端が消え去る。
先端と根本。その二つを繋ぎ合わせていた金パーツを砂に錬金し、狭いスペースに大量に発生した砂に押しのけられた先端が吹き飛んだ。それだけの話である。
再び痛みを発し始める頭を抑えながら、打ち上げられたドリルに掛けた錬金術の結末が成功に導かれることを祈り、願う。
工程を三段階に分ける事で触れなければ錬金出来ない弱点を克服し、一気にトドメを指す為に組んだ錬金。
その結果を見定めるために、俺は太陽を見上げる。
空にきらめいた金の輝きは銀色の輝きを経てクロガネの重厚感ある輝きへと、纏う紫電の大きさを大きくしながら変化する。
「当れぇェェェェェエ! 」
思わず、叫んでいた。
もうアイツへ傷をつけるだけの錬金は出来そうにない。コレがラストショットでもう間違いはないのである。
それが考えの中に紛れ込んだ時、俺は考えてもいないのに、自然と叫んでいた。
「当れぇぇぇええ! 」
ミドリもまた、叫んでいた。
そしてその思いに答えるように天空から落ちていく刃は速度をみるみる上げ……地面へ、激突した。
「ギィィィィイイイ! 」
不快な音を響かせながら砂煙の中から飛び出てくるサソリ。
俺を睨みつけ、俺を目掛けて飛びかかってくるサソリを目の前にして、俺は口角を上げ、笑った。
「……ミドリ、よろしく。」
「了解だ、主人」
俺まで後少し、と言った所でミドリが間に駆け込み……ソレを軽々と打ち払った。
ボスリ、ボスリと砂の上をバウンスしていくサソリの頭部を尻目に、俺はコムギの元へとかけ戻る。
「終わった……終わったんだぞ! コムギぃ!」
傍目もふらずに走っていく俺と、その後ろを拾ったサソリの頭部を握ったまま追いかけるミドリ。
後はコムギをどうするかだけだ、そう思っていた俺の腰で、光量を増したガラス瓶がカラン、と音を立てた。