プロローグはスカイフォールの風味付き
空を、飛んでいる。
カチ上げられ、俺の体へと伝わったサソリの力は軽々と俺を吹き飛ばし、ミドリの姿が小さくなるほど打ち上げられる。
しばらく飛んで、頭に食らった衝撃でチカチカしていた視界がじわじわと晴れていきバカになっていた距離感がまともになってくる。
穴底の地面までの距離感がどう見ても明らかに人間がミンチになる高さにしか見えない。というか、下がふかふかな砂地だということを考えてもミンチどころか血煙になる。
カチ上げられた勢いが死に、体が落下を開始する。
死ぬよー死ぬよーと本能に語りかけてくる落下感が恐怖に変わりそうなのを手足をバタバタさせてせめてもの抵抗することで打ち消す。
その無意味に近い労力が功を奏したのか、手先が壁に当たるのを感じる。このチャンス。確実に掴まなきゃ死ぬッ!
「勢いを殺さずに落ちるのは……マズイっ」
回転しそうになる体をなんとかうつ伏せのまま保ち、右手を壁に当てて摩擦で勢いを殺しすこしでも時間を稼ぐために犠牲にする。左手は腰に手を伸ばしてこの状況を解決するための材料を。ハンマーを力いっぱいに握る。
取り外そうとしてハンマーを引っ張る。
外れない。
乱雑にあっちこっちへ引っ張る。
外れないっ!
「クソがっ!外れろォ!」
落ちないように工夫して作った金具が災いとなり、一向に錬金素材が外れる気配が無い。冷静な時はすぐにでも取れるような金具だったはずなのだけど、鎖で縛り付けられてるみたいに取れない。
……もういい。外れないなら、壊してでも!
「もういいわッ!錬っ金っ!」
純鉄製ハンマーの持ち手を握りしめ、痛む頭を酷使して錬金で頭部を残して引きちぎる。
棒だけになった元ハンマーを錬金で手に纏わせ、クロー型へ整形。思いっきり尖らせたその先端を壁へ向かい、突き立てるっ!
ザグリ、と心地いい音を立てて粗製陶器の壁へクローが突き刺さり、ガリガリと削り取ることで落ちる勢いをだんだんと削いでいく。
下を見れば、サソリの尻尾が届きそうな位には落ちてきているように感じる。俺の方を見上げるコムギと、サソリの頭部に肉薄して盾を叩きつけるミドリが見える。
早く、助けに行かないと……。俺が居なきゃ……!
陶器を砕くほどの力では無くなった落下の力が逃げ場を失って衝撃となり、ガクンと肩に伝わって止まる。
ここからなら……飛び降りれる。下が砂地だし多少高くても何とかなるはず。
「ハッ!」
手にまとわりつかせた鉄のクローから力づくで指を引き剥がし、壁を蹴って飛び降りる。ヒリヒリとした手の痛みを噛み殺し、ミドリ達を見据える。
体勢を整え、姿勢を作り、息を整える。
そこまでは良かった。
「背中痛ァッ!?」
俺が壁を削りながら降りていたのは洞窟の入り口の付近だったらしく、飛び降りたのは入り口横の古びた棒の上。
壁を蹴っていたから股間に食らうという致命的な事にはならなかったものの、背骨に棒の一撃を食らい、無様に砂へとヘッドダイブする。
「ぐはっ!?」
「主人っ!大丈夫ですかっ!?」
背骨に伝わった衝撃のせいで反射的に脱力してしまった体を震える腕で引き起こし、砂にめり込んだ頭を引き抜いたその時。
俺の目に入ったのはコムギとソレを覆う影。
焦りそのままにこちらへ手を伸ばすミドリ。
そして、コムギへと振り下ろされそうになっている死、そのものだった。
「コムギぃ!飛べぇッ!」
「ふえ!?」
俺の叫びで思考が止まってしまった彼女は、俺の願いとは裏腹に立ち止まってしまい……死は、無慈悲に降り注いだ。