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プロローグに、死闘は付き物

 緊張が張り詰める。

 サソリは黒腕に力を込め、ミドリは甲羅盾を構え直す。

 その緊張感で作られた静寂。

 ソレを打ち壊したのは、サソリの方であった。


 自分の体を限界まで傾けて振り上げられた黒い大槌。上に降り積もった砂がハラハラと落ちていく。

 ミドリが盾を斜めに傾け、俺とコムギが中腰になって足に力を貯め砂を踏みしめる。

 サソリの無感情にも見える瞳がミドリを見据え、その掲げた腕を、振り下ろす!


「ゼェェェエイッ!」


 轟音。


 巨大な銅鑼を叩き鳴らすような、耳をつん裂く金属の衝突音。

 踏みしめたせいで体勢が崩れるような地揺れ。

 ゴリッ、という硬いものが砕ける音。


 もうもうと立ち上がる砂煙が薄れてこの一瞬の衝突の結末が俺の目へと飛び込んでくる。


 地面へと深く、深く、めり込んだ黒槌。

 地面に下の端がめり込んだ大盾。

 そして、砕けた歯を血と共に吐き捨てる健在のミドリ。


 どうやら攻撃を盾でいなす事には成功したようだ。しかし、明らかにミドリは無事ではない。力み過ぎて噛み砕いた奥歯を吐き捨てているあたり、限界を超えるような力み方をして攻撃をそらしたのだろう。衝撃を受けた足の筋肉や腕の筋肉は見えなくとも深刻なダメージを受けているのは疑いようがなく明らかだ。今の攻撃、2回目をさせてはいけなさそうだ。


「ミドリ!大丈夫かっ!?」

「大丈夫だ! と言いたいところなんだが……次はキツイかもしれない。腕が痺れた。手の感覚が今でも戻らないんだ。」


 ミドリはてをぷらぷらゆらしながら力なくこちらへ笑顔を向けてくれる。大丈夫、とは言ってくれているがカラ元気だというのはひと目でわかる。


 無理をさせられない……。けど、あのハサミを俺が食らったら一撃必殺間違いないのも確かなんだよな……。


「ミドリ!ハサミをなるべく押さえておいてくれ!コムギはソレのサポートをっ!俺は反対側の足を絶滅させるのに全力をかけるっ!」


「分かった!」

「了解したよっ!」


 俺が出した指示の通りに、ミドリはめり込んだハサミが持ち上がらないように大盾の下を使って押しつけ、コムギはミドリが尻尾の標的にならないように蠍の顔面や複眼にむかってサーベルモドキの片手剣で切りつけて意識をそらさせている。


 ソレを見届けた俺は俺の仕事をやり遂げるために駆け出す。

 足の大半を切り飛ばした逆ギロチンでもう1度まとめて切り飛ばしたいのは山々ではあるのだけど、ソレは絶対に出来ない。


 空間設定等々、パソコンでも高温になるような処理を能力のゴリ押しで脳で処理したお陰か砂漠による熱中症か……。こんな状況じゃなかったら頭を抱えて転がり回って絶叫してる。と確信出来るくらいには頭が痛いし重い。


 穴を作った時に気がついておくべきだった事ではあるけれど、俺の身に宿った能力(チート)。ソレを万全に使うには人間の脳では絶対的に能力が足りていない。

 大量のものを一気に処理する。1度に複数の設定を作る。そして、元の素材からかけ離れた性質のものへと変異させる。これらのことをしようとすると頭が疲れてだるくなってくる。異世界に体がなれてない、そんなふうに流していたこの頭痛も、逆ギロチン以来3倍くらい痛みを増しているからこそ言える。

 脳が足りねぇ。絶望的なまでに。


 もう一度能力を使えば頭が焼き切れて此処で気絶するかもしれない。それどころか、死ぬ可能性までも有りうるモノだと俺が、俺自身の命が警告を発している。

 だけど。けれどもッ!


「女の子ばかりに働かせといて自分がやると決めた事も出来ないようなら、男じゃねぇッ!」


 そうだ。だからこそ、俺が男だからこそ! やると決めた事位はやらなきゃいけないっ!


 無意識に頭を押さえる片手を意志の力でねじ伏せ、両手を砂地へと振り下ろす!


「錬成ィッ!」


 先ほどの物と比べると小型の刃がサソリの足の1本を根元からこそぎ取るように切り飛ばし、少し飛び上がって勢いが死に、落ちてきた刃がサソリの背中のトゲへと刺さりそこで止まる。


「あと……2本ッ!」


 痛みすら感じなくなりそうな頭痛を叫びで誤魔化してもう一度構成を始めようとした、その時。


「ご主人っ!避けてぇっ!」



 目の前に、黒い壁が。


「あ……死んだ。」


 骨の幾つかが粉砕する鈍い音が体の中を伝わって鈍い脳がそれを感知した瞬間。


 オレは、天へと打ち上げられた。


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