プロローグと外確認
文字数回復したァァァッ!
切り裂いたぼろ布をかき分けて外へ顔を出す。手先も見えない程だった砂煙は収まってぼんやりと周囲が見える程度になっていた。大穴開けた時に出来た壁、降り積もって穴の入口の下まで来た砂地。そして、明らかにコッチを狙って突き込まれる白色のハサミ。
まばたきをして、それでも消えない白ハサミ。
幻覚じゃ……ないよな?
「ってあっぶねぇ!」
壁に手をついて頭を引っこ抜きながら壁を蹴り、入口から飛び退く。いきなりの事に呆然としたミドリの顔が視界に入り、直後ヤスリのような表面の腕が視界を埋め、靴の先が切り飛ばされていくのが見える。
衝撃。
地震にも似た揺れが顔面着地のダメージをさらに悪化させる。
見れば、突き込まれたハサミは鋼鉄を貫いていて、その突き込まれた力が大きすぎた故か全体がヒビに覆われている。
そのヒビの一つに見覚えのある鉄片が挟み込まれているのが目に入り、目が見開いたのを感じる。
アレでも死にやがらなかったかッ!
「コムギ!ミドリの居る方へ行くぞっ!
顔の反対へ脱出してハサミを断ち切るっ!」
体の構造上、サソリはハサミに繋がる腕と壁邪魔で反対側のハサミからの攻撃は鈍る。だからこそ、鈍っている間に足1本とハサミ1本、もし出来たならさらに尾を一つ持っていければ上出来だ。それさえ出来れば踏ん張りが弱くなったサソリ相手なら何とか倒せるかも知れない。
「り、了解です!主人!」
ハサミの下を潜っていると、ギリリ、ギリリとハサミが軋む音がだんだんと大きくなっているのを感じる。
へし折れて貰ったら困るし、足も諦めてここから出るのと片腕をへし折る事だけを考えよう。
「主人……これヤバイんじゃ……?」
「分かってる。急ぐぞ!コムギ!ミドリ!」
「「はい!」」
穴の隙間から外へと飛び出し、鋼鉄の壁を外に面した場所以外砂に戻してハサミを押しつぶす。
「ギュギャァァァァ!?」
ベゴリ、と金属が凹むみたいな音を立ててハサミは潰され、残った鋼鉄の壁と砂に挟まれて切断される。押しつぶされた時点で引っこ抜こうと踏ん張っていたサソリは勢い余ってひっくり返り、目の前でジタバタと(地震が起きるほどに大規模ではあるが)暴れている。元からバランスがいい方ではなかった上に黒ハサミが地面にめり込んでいるせいで起き上がるにはまだまだ時間が必要になるだろう。
「ミドリ!防御をよろしく!
コムギは後ろで待機!
俺は今のうちに何かしら持ってけないか試してみるっ!」
空中で冷やされほんわりと暖かな砂地に手を付き力を砂へと染み込ませ、拡散させる。
想像するのは……刃。
材質は……少なくとも鉄は無いと切れないかな。
動力……砂を水にしたら1.5倍くらいの量になるし、それで押し出せないか?
錬金するものを頭に思い浮かべ、構築し、配置する。サソリへ向かって発射できるように方向を確認し、一気に力を込める。
「錬……金ッ!!オラァァァ!」
砂地から生えたギロチンは、白ハサミのあった方の何本かの足の先端を切り飛ばし、1本は根元から毟りとった。
ギャリァン!と金属同士が擦れ合う轟音を立て、黒ハサミの表面を削り取って刃は空へと旅立ち、
そして砂煙に紛れて消えていった。
「ギィガァァァァ!」
追撃で生まれた激しい痛みにサソリは怒り狂い、その重量に溢れた右腕を力任せに振り下ろす。空気をも押しつぶしたそのハサミは爆音を産み、地震を引き起こしながらその身をひっくり返す。
「グゴァァァァァッッッッ!」
先端が切り落とされ、左右の本数すら合わなくなってバランスが悪くなったサソリは体を傾かせたまま怒りを轟かせる。
「今度は手心なんて加えてやらねぇッ!
きっちりトドメ刺してやるから大人しくしてろォッ!」
轟く叫びに負けないように雄叫びを上げ返し、サソリを睨む。おふざけでは済まない本当の殺し合い。殺意渦巻く戦いの火蓋を今、切り落とす。