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プロローグ×掃除×御褒美

 ミドリが白亜の玄関扉を軽々押し開け、コムギがぴょこぴょこ跳ねながら中へと入っていく。俺はその後について周りを見渡しながら中へと入る。

 中は、外とは比べきれないほどに乾燥しきって埃っぽい空気が喉に痛い。まるで数10年間誰も使わなかった廃墟みたいな古臭さが漂っている。


「外の割には中は結構汚れてるな……」


「コレでも、ある程度掃除したんだぞ?目に付くゴミはだいたい別の場所に移動させたし」


 ミドリがドアを閉めながら話しかけてきたのが耳に届く。


「それは……お疲れ。この埃っぽさからしてヤケにゴミが少ないと思ったんだ。」


 ミドリをご褒美になでなでしてやる。手についたゴミを錬金して木片にし、そこらへ放りやって彼女の頭へ手を伸ばす。ひとたび手を動かせばしっとりとした髪が指に絡みついてくる。ひとなでひとなでを堪能した後、三なでくらいでミドリを解放する。

 何故かこっちを見ていたコムギがあわててテーブルの上をふーふーしてホコリを吹き飛ばしているのを微笑ましく観察しながら辺りを見渡す。

 床を見れば、コムギやミドリが探索した時に出来たのだろう足型がホコリの中に浮き出ていて、敷かれているカーペットは元が良いものだったからなのか原型が残っているものの毛は朽ちてしまって、ただの細切れの布切れとなってしまっていた。コレは新品に変えなきゃマトモな暮らしは出来なさそうだ。埃っぽすぎて。


「ホコリは粗方拭き取った後これを敷けばいいと思うよ。」


 ひとまず、息をふきすぎて赤くなり始めたコムギに雑巾と手頃な布をポケットに入ってた砂と埃から錬金して渡す。


「! ありがとう主人!」


 ぱぁっと柔らかな満面の笑みを浮かべたコムギから目をそらして熱くなった鼻を押さえる。いきなりよそを向いたことに寂しげに首を傾げる顔も破壊力満点……。

 そんなことしているうちに、コムギは変なのと呟いて雑巾を濡らしに外へと走っていく。走るとゴスロリの腰からひょっこり出ている尻尾がピコピコ動く、というのを発見して鼻を押さえる力を強める。

 鼻の熱が引いてきたのを見計らって散策を再開する。何処かから引っ張ってきたように見える机と椅子を除けば貴族とかが住んでいた廃墟のエントランス、と言った感じなようだ。入口から真っ直ぐに伸びるカーペットと、その奥に見える古く高級そうな木扉。両脇には踏み板がへし折れたり抜け落ちたりしている階段が鏡写しのように線対称で存在している。

 近づいて見てみたら踏み抜かれた踏み板の穴の大きさがミドリの足の大きさと同じに見えるのは気のせいだろう。ミドリがはいていた鉄靴の傷が木の穴のフチの傷と一緒な気がするのもたぶん気のせいだ。

 現実逃避混じりに黄昏ていると、テーブルを拭き終わったのかコムギが天使みたいな笑顔で安心しきってへんにゃりした耳を風にたなびかせながら走ってくる。


「主人、じゅんびができました!」


 コムギの細い体躯を受け止める。達成感に満ちた笑顔から、テーブルはどれだけ様になったのか目をやり……そらす。上に乗ったテーブルクロスが水を吸ってまだらに色づいている。木から出た汚れのせいで白いテーブルクロスがメープル色になっていっている惨状なんて、断じて目に入っていない。

 遠い中空を見ていると、視界の端にコムギが目をつぶって頭を押し付けてくるので、撫でてやる。

 サラサラで短い髪が手の下でぐしゅぐしゅと弄ばれ、コチラの髪もとても撫で心地がいい。ミドリのしっとりさとはまた違うものの、やはりコチラも、イイ。

 んっ、んっ、と気持ちよさそうにしているコムギに気が付かれないようにテーブルクロスを錬金しなおして含んだ水分の分、端に刺繍が入ったものにして消費する。


「コムギ……」


「ごしゅじんさまぁ?」


「雑巾を使う時は、もうちょっと搾ろうな?」


「ふぁーい……」


 分かっているのか分かってないのか返事では区別がつかないが、一応御褒美としてのなでなでは継続する。

 椅子三脚とテーブルの錬金脱水が終わった所でミドリが席について咳払いをする。


「あぁ、ごめんごめん。もう終わる所だよ」


 コムギが悲しそうな目を一瞬こちらへ向けた後、どすどす歩調を強めて歩いていくと、ミドリに文句を言う。


「ぶー!僕のご褒美の時間だったんだぞ?」

「主人の邪魔をしないで予定を進めていくのが御褒美への近道なのではないかな?」

「そうだとしても……邪魔は良くないんだぞっ!」

「だから……」


「2人とも、止めようか?」


 いつまでもループしていきそうなので多少強引にでも止める。まだ言いたげな顔をしたコムギをミドリの隣に座らせ、2人とも顔が見えるような位置に椅子を調節し終わると、説明を受けようと椅子に座る。


「バキ」


 俺はいつもこういう時は、やっぱり締まらないものだなと足のへし折れた椅子ごと倒れていく身体を眺めつつため息をつき、床に叩きつけられながら考えたのだった。

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