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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
9/15

9.

「エリック。昨日の約束は?」


「ああ。ごめん。えっとリズだってスタミナや力がついただろって」


 訓練を一緒に初めて1か月。持久走の途中でリーズから一方的に求められた約束は、2人でいる時は自分を敬称で呼ぶこと。いつまでも他人行儀に呼ぶなと言うことらしい。


「そうね。身体の辛さもだいぶ和らいできたしね」


 初めの頃は、訓練後、動くこともままならないほど疲弊したが、今では概ね普通通りに過ごすことができる。


「今、僕たちは成長期だって習っただろ。これから身長も大きくなっていくから成長に合わせて内容を濃くしていけばいいと思うんだ」


「楽になるようじゃ訓練じゃないわよね」


「ポーカーさんが、自分たちで工夫しろって事は、無理をしろって事じゃなくて身体や成長に合わせて加減しろってことだと思うから少し筋肉痛になるくらいの量がいいんじゃないかな」


「回数や時間をただ増やすよりも1回1回の質を高めるって方法もあるわよ」


「そうだね。剣を重くするとか。杭を高くしたり細くしたりするとかって方法もあるね」


 2人は、訓練談義になると夢中で話しあう。




「旦那様。いつまで影から眺めているのですか?」


 セシリーが、庭で討議中の2人を見ているガスタンに後ろから声をかける。


「楽しそうだと思ってね」


「ええ。本当なら大人でも辛い訓練なんでしょうがお二人は楽しそうですね。旦那様はご存じですか、リーズ様が朝の訓練の後、とてもご機嫌な事を?」


「そうなのかい? それは知らなかったな」


「お嬢様は、きっとデートでもしているつもりなんですよ」


 ガスタンは、セシリーの言葉にどきりとする。


「な、何を言っているんだい。ま、まだ2人は10歳だよ。そんな気持ちはないだろう」


「確かに10歳ですし、恋愛としてではないと思います。リーズ様ご本人も自覚してはいないと思いますよ。ですが、あれは恋する少女のものですね」


 ガスタンが柄にもなくあたふたしている。


「心配する事はありませんよ。エリック君も気づいていませんしね」


「そ、そうだな。リズの楽しそうな顔を見れるのもあと数年なんだ。今は2人をそっとしておこう」


「はい。私達もそうさせていただきます」


 2人の知らない所で、大人たちも揺れていた。




 庭に打ち込まれた杭が増えた。高さも太さもまばらな杭が整えられた庭の中に何本も打ち込まれている姿を庭師が見たらどう思うだろうか。 


「どうだい?」


「うーん。高さは怖さってところね。怖いと思うと力が入るし集中が乱れたりするでしょ」


「そうだね。高い所が苦手な人もいるからね」


 ぴょんと隣の杭にリーズが飛び乗る


「こっちは、あきらかにバランスを取るのが難しいわね」


 高さはこれまでの杭と同じだが、杭の太さは今までの半分くらいのものだ。リーズもつま先で杭に立っている。


「じゃあ。しばらくは交互にやって比べてみようか」


「そうね。試してみてどう訓練するかを決めましょう」


 2人は、色々な形をした杭を試しながらバランスをとる。


「さっき気がついたんだけどさ。バランスって目を閉じると崩れるね」


「そうなの?」


 エリックに聞いたリーズが杭の上で試しにとばかりに両目を閉じた。


「えっ!」


 急にバランスを崩し斜め前方に大きく倒れる。とっさにエリックがリーズを受け止めた。


「危ない!」


 幸いエリックがリーズを抱きかかえるように受け止めたため幸いリーズは怪我をせずにすんだ。


「よかった…。でもごめん。余計な事を言ったせいでリズに怪我させるところだったね」


「うーうん。違うわ。私が不注意だったから。後…もういいかな」


 受け止めた拍子に抱き合うような形になっていた2人。


「あ、ごめん」


 エリックが慌てて抱きかかえていた手を離す。


「助けてくれてありがと。これでエリックに助けられたのは2度目ね」


 照れ臭そうにリーズが言う。


「本当にごめん。目を閉じる訓練は、もう少し先に挑戦しよう。低い杭から始めればそれほど危険もないだろうしね」


「そうね。もっとバランスが良くなってから試しましょ」




 2か月と少しが経った頃、ポーカーが屋敷に来訪した。


「2人ともしばらくぶりだな。それとこれは土産だ」


 2人にそれぞれ小さな箱を渡す。


「開けるのは後にしてくれ。時間がないからさっそく訓練の成果を見よう。今行っている訓練でいいから見せてくれ」


 成果を発表するときとばかりに2人は、今の訓練をポーカーに見せる。


 走り込みは、これまでどおり剣を持って行っているが、途中にいくつもの障害物が並べられていることにポーカーは気づいた。全力で走りながら柵を飛び越えたり、木を潜ったりしながら反対側の壁まで走り抜ける。


「ほう。こう来たか」


 速度をできる限り落とさず、様々な動作を行う訓練を想定している。


 次に見せるのは、工夫をした杭。すでに乱立する杭は庭のオブジェクトと化しているが、その上で順番に立ちバランスをとる。途中から片方の目の視界を塞ぎ、同じようにバランスを取ってみせた。


「……」


 最後の素振りは、その乱立した杭の上で行われた。足場としては不十分な場所でしっかりと型どおりに素振りする2人の姿を見てポーカーは、感心すると共にうれしくなった。2人にその顔を見せないようにぐっと抑えるとポーカーは


「お前達の工夫は本当に面白いな。だが、まだまだ全然だめだ。先に行くのはいいが、基本をおろそかにしては意味がない。素振りはもっと型を意識して取り組め、適当に数だけやるんじゃないぞ。それと持久走はどうしている?」


「はい。今は、隣街まで行って帰ってきています」


 隣街まで距離にして10km。往復すれば20kmはある。十分な距離だと思ったが


「距離はいいな。少しずつ速度を上げてできるように取り組むんだな。体力は重要な項目だからな」


 一通りの訓練を見せ終わった2人は、ポーカーの評価を真剣に聞きながら次の訓練をどうするかを考える。


「渡した箱を開けてくれ」


 先ほど土産と言って渡された箱を持ってきて2人が開けると中には、見たことのない物が入っていた。板の上に何かが張り付けられていてその上に小さな玉が1つ乗せてある。


「これは?」


 2人がポーカーを見ると


「それは、養成所で開発中の道具だ。俺が持ち込んだのは絶対の秘密だぞ。他言無用で頼む」


 手を合わせて2人に頼み込むポーカーの姿がおかしかったが、どうやら最新の訓練用具のようだ。


「見ていろ」


 エリックの道具を受け取ったポーカーは、板を水平に保つと微妙な加減で玉を板の上で動かしていく。板の上には、数字が書いてありその数字のとおりに玉を動かす。全部で6か所ある数字の場所に順番どおり動かすと最後に玉が6の数字の所で制止した。


「順番通りに進めないとこの位置で制止することがないように作られている。途中で板の上から落としたりすると最初からやり直しになる。集中力の強化のための道具だと開発者が言っていたな」


 開発途中の道具を土産に持ってくるあたりが、ポーカーらしいが


「はい。毎日、時間があったら訓練しておきます」


 2人も喜んでいるのでポーカーも満足した。


「2人には、悪いが、俺もなかなか時間が取れなくなっているんだ。だから次はいつ来れると約束できない。2人は、俺がいつ来てもいいようにだけ訓練しておいてほしい。今日の訓練を見て2人が訓練の事を理解してくれたようだから心配はしていないが、怪我だけはしないように注意して訓練しておいてくれ。あと、ショートソードの他の剣を幾つか送っておくから必要によって使ってくれてよい」


 どうにもエクソシストの仕事が忙しいようだ。ポーカーはガスタンに話があると屋敷の中に入って行った。


「ポーカーさんも忙しいみたいね」


「もしかしたら悪魔の侵攻が再開したのかもしれないな」


 数年前から小康状態になってはいるが、人間と悪魔との戦いは続いていた。


「でも今の私達にできる事は少ないわね」


「そうだね。まずは、早くエクソシストにならないとね」


「しばらくは僕たちだけで訓練を工夫していかなきゃならないからまた色々と相談しようか」


「その事なんだけど。お父様に頼んで色々な書籍を集めたの。その中で訓練の参考にできそうな本がいくつかあったから参考にしてやってみない?」


 書籍は高価な上、物によっては入手するこは難しい。


「すごいな。今度見せてよ」


「うん。そのつもり。私だけじゃ理解できなさそうな部分もあるから一緒に調べて研究しましょ」


「すごいな。リズはそんなことまで考えてたのか」


 自分にできる事をずっと考えていたリーズは、エリックの言葉がうれしかった。


「でも集めてくれたのはお父様だから私の力じゃないわよ」


「違うよ。リズの発想があったらかきっと旦那様も力を貸してくれたんだ。だからそれもリズの力だよ」


「あ、ありがと」


「じゃあ。今度勉強が終わったら少し本を読む時間を作ろう。参考になるものがあればどんどん挑戦して試していこう」


「そうね」


 2人の向上心は、相乗効果を発揮し、より深くより早く先へ向かう。




「そうか。始まったか」


「はい。北部の街に悪魔が進行を開始したようです。同時に各所で悪魔の発見報告や被害報告があがっています。俺は、街の中にもぐりこんだ悪魔の掃討のためにしばらくは任務から離れられません」


「すまないね。貴重な休みまで協力してもらって」


「2人には、指導するなんて言っておいてほとんど何もしてあげられていないですね」


「それは違うよ。君のおかげで2人は、訓練の意味を理解した。君と言う存在が2人の未来を大きく広げているんだ」


「かいかぶりですよ。あの2人は、俺が来るたびに驚くような事を見せてくれます。養成所で習う事はたくさんありますが、あの2人ならこのままでもエクソシストに必要な事は身に着けてしまいそうですよ」


「君の目から見てもかい?」


「そうですね。始めたときは平均よりは少しましかと思ったくらいですが、今日の様子を見て驚きましたね。訓練を3ヶ月ちょっとで、2人は別人のようになっていましからね。何よりも向上心が強いのが驚きです。大人でも逃げたくなるような訓練を自分でもっと過酷にしたり増やしたりするんですからね」


「2人は、いつも楽しそうに訓練しているよ」


「そうですか……自分もこの訓練をしている時は、何度も逃げ出したもんですけどね」


「この前、リズから戦闘訓練や体の鍛え方なんかに関する書籍が欲しいとねだられてね。僕は迷ったけど渡してしまった。君に指導を任せておいて失礼だと思ったんだけど熱意がすごいんだよ」


「そうですか。俺の事は気にしなくてもいいです。良い指導者がいたら紹介しても良いですし、良い資料があるなら見せても大丈夫です。2人はきっと相談しながら試行錯誤して効果を検証するでしょうから。庭がずいぶんと改修されていましたが、あの設備は今度養成所でも参考にするように言っておきますよ。10歳の子供が考えたとは思えませんからね」


「はははは。すっかり、庭の風景が変わってしまったが、2人が取り組む姿は見ていてとても面白いよ」


「そうですね。今度、来るときに2人がどうなっているかと考えるだけで仕事にも気合が入りますよ」


 悪魔との戦いには常に生死が関わる。それはポーカーであっても同様だ。


「君も必ず生きて戻るんだよ」


 ガスタンにそう言われたポーカーは頭を下げると屋敷を去っていく。


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