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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
5/15

5.

「えっ?」


 最後の選択肢に驚きの声をあげる。


「実はね、僕は君が最後の選択肢を選ぶ自信があるのだよ」


「自分が、エクソシストにですか?」


「受け売りなのだがね。ポーカーに推薦されたのだよ。君はきっと良いエクソシストになるとね」


「ポーカーさんが?」


「ああ。彼が言うには、君はエクソシストにとって必要な物を持っているとね」


「自分が持っているもの?」


「ああ。強い意思や信念、判断力…そして生きようとする力だそうだ」


「自分がそれを持っているとポーカーさんが言ったのですか?」


「私もね。君と話していてポーカーが言った事がまんざらおかしな事じゃないと感じているよ」


「……」


「お、お嬢様は、なぜエクソシストになると?」


「リズ…ああ娘はね。きちんと言っておかないとわからないだろうな。あれが、娘がまだ5歳の頃にあれの母親……つまり私の妻なのだが、悪魔との事件に巻き込まれて命を落としたんだ。それから娘は、悪魔を憎んでいる。そして、今もその気持ちはいささかも変わっていない。リズは娘は、エクソシストになり悪魔と戦う道を選んだ。僕はね、父親としてはそんな危険な事に関わって欲しくない。できれば他の兄妹のように幸せになってもらいたいと思っているんだ。でもね、彼女の目の奥には今も母親を奪った悪魔の姿があるんだよ」


「わかります」


 即答したエリックをガスタンが見る。


「なぜだい?」


「自分も同じだからです。自分も幼い時に両親を悪魔に……」


「そうか……君が孤児になったのはそのためか」


「はい」


「君はエクソシストになるつもりはないかい?」


「僕は、今まで孤児院で将来を選択できるよな立場にいませんでした。もし、自分が自由に仕事を選ぶことができるのならばエクソシストを選びます」


 しっかりと答えたエリックを見てガスタンがにっと笑う。


「よかった。王都に娘を1人で送り込むのに心配があったのだよ。君のような者がついて行ってくれればリズも心配ないだろう」


「あの……」


「ああ。すまないね少しほっとしたんだよ。君の生活費や必要なもろもろの費用は私の方で面倒を見るから心配する事はない。形の上では、娘の近習としておくが、養成所では君の好きにしてくれてかまわない。ただ、許せる範囲で君には娘を助けてほしいんだ」


 詳しくはわからないが、養成所に入るにもそこに通うにも少なくない費用がかかるはずだ。どのような条件があったとしてもエリックにそれを断る理由はない。


「はい。わかりました。お嬢様をできる限りサポートさせていただきます」


「養成所には、本来推薦や紹介状がいるのだが、それは私とポーカーが責任を持つつもりだ。君はまず身体を癒し王都までの旅に備えてくれ。出発は君が13歳になる3年後を予定している。養成所に入る事ができる年齢は13歳からなんだ。あとで娘にも君を紹介するからよろしく頼む」


 ガスタンは、引き受けると言ったエリックの言葉にほっとしている。


「ああ。忘れるところだったが、あとでポーカーが話しがあると言っていたな」


「あの。トリスタン様とポーカーさんはどのような関係があるのですか?」


「ああ。彼とは縁があってな…色々と面倒を見たり見てもらったりしている間柄だ。しばらくはうちに滞在するだろうから。詳しくは彼本人に聞くとよい」


「はい。お会いできたら聞いてみます」


「そうするといい。王都へ出発するまでの間、この屋敷の中では好きにしてくれて構わない。セシリーには会ったな?」


「はい。色々とお世話になっています」


「うむ。部屋はここを使ってかまわない。ここでの暮らしについては彼女に聞けば困る事はないだろう。まず君は身体を治す事だな」


 そう言ってガスタンは席を立ち握手を求める。エリックも痛みをこらえながら握手に応じた。


「エリック・アネルカ。君は今日から我がトリスタン家の一員だ。よろしく頼むよ」


「はい。旦那様。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」


 わずかの時間で大きく運命を変えた出来事。両親を失い孤児として生きる他になかったエリックに与えられた選択肢は、彼にとって夢のような話しだった。


 ガスタンが退室すると同時に入れ替わるように入ってきたセシリーがベッドの側までくると


「あなたも今日からトリスタン家の一員ね。メイドの1人として歓迎するわ」


「あの。自分は何をすればよいのですか?」


「仕事の事? 役割の事?」


「はい。まだ身体がこのような状態ですが、動けるようになったら自分は何をすればよいでしょうか?」


「あら。ずいぶんと真面目なのね。そうね…あなたはお嬢様と3年後の養成所入所までにある程度の訓練と知識を身につけなくちゃならないわね。それ以外の時間は、えっとエリックくんは何ができるのかな?」


「身の回りの事は一通り大丈夫だと思います。ただ、孤児院での話しですからこのような立派なお屋敷ではわかりません」


「じゃあ。そのあたりは、おいおい相談して決めましょうか。部屋は旦那様が言ったようにこの部屋を使ってくれていいわ。洗濯物は、洗濯室にある籠に入れておいてくれたら私達が洗っておくわね」


「あの自分で……」


「違うわよ。それは私達メイドの仕事。君はメイドになるわけじゃないからね。部屋の掃除や皆さんの洗濯なんかは私達の仕事なのよ」


「は、はい」


「はい。よろしいです」


「まるで旦那様みたいですね」


 セシリーがそう聞いてキョトンとした後、笑い出す。


「面白いのねあなたは」


「そ、そうですか?」


「まあ。仕事の事は身体が治ったら旦那様も交えて相談しましょうね。あなたの最初の仕事は、その怪我を早く治すことですからね」


「はい」


「あと、簡単にトリスタン家とお屋敷の中の事を説明するわ。まず、こちらには、旦那様の他に二女であるリーズ様が住んでいます。旦那様には、3人のお子さんがいて長男のサミー・トリスタン様は王都で王城に仕えているの。将来のトリスタン家の跡継ぎ様と言うことね。長女のアンヌ・トリスタン様はすでに他家に嫁いでいるからこちらでは滅多に会う事はないわね。後は執事が1人、メイドが私を含めて2人。調理師が1人いるわ」


「では、こちらでは6人が暮らしていたのですか?」


「そう言う事。あなたで7人目と言う事になるわね。部屋は、2階に旦那様やリーズ様などのお部屋があって1階には応接間や食堂、お風呂やキッチンなんかがあるわ。後使用人が寝泊まりする部屋があるの。ここは1階の使用人の部屋よ。隣に私とメアリの部屋があるわ。メアリはもう1人のメイドね」


「あの……こんな立派な部屋をいただいて良いのですか?」


「私もメアリも似たような部屋をいただいているわ」


「他の皆さんは?」


「執事のカルネルと調理師のウエインは、自宅からこちらに通っているの。だからここに住み込んでいるのは私とメアリととあなただけってことになるわね。あ、あとゲストルームにポーカーさんがいるわ」


 セシリーさんもメアリさんもエリックよりは年上だろうが十代後半くらいの年齢だろう。女性に年齢を聞いてはいけないと思ったエリックは好奇心をぐっと飲み込む。


「お嬢様はどのような方なのですか?」


「とてもしっかりとした方ですよ」


 怪しい男に連れ去られた時に見た少女は自分と同じくらいの年齢に見えた。


「失礼を承知でうかがいますが、お嬢様はおいくつになるのですか?」


「お嬢様は、10歳です。確かあなたも10歳と聞きましたが」


「同じ年……」


「ええ。だから旦那様は、お嬢様の近習としてあなたを選ばれたと思いますよ」


「それで……」


「でもそれだけじゃないと思うわよ」


 なぜだろうとエリックは思った。


「どう言う事ですか?」


「教えてあげない。そのうち自分で考える事ね」


 セシリーさんが意地悪そうにエリックに笑みを向ける。エリックもそれ以上聞くことができなかった。



 それから3日間も経つとエリックの身体からは痣もなくなり、ほとんど生活に支障がないくらいに回復した。医師の見立てよりもはるかに早い回復にガスタンやセシリーは驚いていた。そして、その日、外出から戻ったポーカーさんがエリックの部屋のドアを叩いた。


「お、すっかり良くなったみたいだな」


 すでにベッドから出て過ごしているエリックを見て感心するように言う。


「俺は、まだ怪我が治るのには1週間以上かかると思ったんだが、ずいぶんと早い回復だな。昔からそうなのか?」


「皆さんとどう違うかはわかりませんが、孤児院の仲間よりは早かったのかもしれません」


「体質なのか何なんかはわからないが、それもお前の資質だろうな」


 言われてみれば子供の頃から身体は丈夫だったのかもしれない。あれだけ院長から殴られ蹴られても生きていたのだし。


「あの……」


「ああ。悪いな興味を持つとこれだ。お前を連れてきた理由か?」


「はい」


「面白いと思った。親父さんからリズの近習になれそうな奴がいないか探すように相談されていたこともあったが、たまたまお前を見つけたんだ」


「面白い?」


「エクソシストになるような奴は、どこか普通じゃない奴が多い。うまく言えないが、普通の奴には務まらないって事だ」


「ポーカーさんも?」


「そうだ。俺も普通じゃないだろう。まあ悪魔と戦おうなんて考える事自体が普通じゃないからな」


「なぜポーカーさんはエクソシストに?」


「仲間を殺された。俺も孤児だったんだが、仲間は皆悪魔に喰われたよ。仲間の仇を討ちたいと思っていたところに親父さん……ああガスタン・トリスタンが現れた。親父さんは、エクソシストの養成所の出資者の1人だった。俺の目を見て、すぐに親父さんはその養成所に俺を入れた。俺は必死になって悪魔と戦えるだけの力を求めた」


「そんな事が……」


「だからお前を見て面白いと思った。誰も関わりたくないと思うような事に命がけで首を突っ込もうとするような奴じゃなければエクソシストは務まらないからな」


「自分は、エクソシストになれますか?」


「それはお前の想いの強さ次第だろう?」


「自分は、僕はエクソシストになりたい。そしていつか悪魔を!」


「ああ。歓迎するぜ。ただし、甘い世界じゃないからな」


 そしてポーカーとの出会いがエリックの運命を変えていく。


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