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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
3/15

3.

「や、やめて」


「うるせい! おとなしくしやがれ」


 再び、帽子の男の手があがった。少女は恐怖に身体を強張らせる。


「やめろ!」


 大きな声で男を静止する。


「ガキがでしゃばるな。死にたいのか?」


「その子を放せ!」


 武器も持たない少年のエリックが大人の男に抗う事などできるはずもない。男が懐からナイフのような物を取り出す。


「さっさと消えないと痛い目を見るぞ」


 足が震える。エリックは、殴られた回数は数えきれないが、刃物を向けられた事はまだない。それでもエリックは、男を睨みつける。


「本当に痛い目にあいたいらしいな」


 帽子の男が少女をつかんでいた手を離すとナイフを手にエリックに向かう。


「今のうちに逃げて!」


 エリックが、少女に逃げるように指示を出すが、少女は恐怖のあまり尻込みしており腰が抜けたように動く事ができなかった。


「どうやらここまでのようだな」


 ナイフを手にした男がエリックの側まで来るとエリックの襟首をひねりあげるように持ち上げた。


「うあっ!」


 帽子の男に片手で持ち上げられナイフで頬を叩かれる。


「お前が悪いんだ。覚悟しろ!」


 帽子の男がナイフを持った手を振りあげた時、どこから現れたのか制服に身を包んだ男が帽子の男の手首をつかみ握りつぶさんばかりに締め上げた。


「いででででで……」


 手首を極められた帽子の男が手にしたナイフを落とす。


「おいおいこの程度で、大それた事をしたもんだな」


「て、てめえ何者だ」


「俺か? 俺はエクソシストだ。ポーカーさんと呼べ」


「なっ! エクソシストだと」


 驚く帽子の男の気持ちもわかる。エクソシストと言えば対悪魔戦闘のプロフェッショナル。凶悪な力を振るう悪魔に対抗できる力を持つエクソシストにとって人間の小悪党を捕らえる事など造作もない事だろう。

 実際、手際よく帽子の男の膝の後ろを蹴り倒すとあっさりと組み伏せ地面にうつぶせに拘束する。片手を背中側でひねるように体重をかけると帽子の男は身動きすらできなくなった。エクソシストは戦闘のプロなのだ。


「少年! よくやったな。まあ、あまり危険な事は勧めないがな」


 ようやく駆けつけて来た憲兵に事情を説明し始めたエクソシストの男を見ながら、今も気が抜けたように地面に座る少女に声をかける


「大丈夫でしたか?」


「あ……え……」


 ぽかんとした顔で少女はエリックの顔を見る


「お嬢様! ご無事でしたか?」


 返事もままならない少女の元に少女が連れていたメイドが現れる。これでこの少女も大丈夫だろうと安心したエリックはふと大切な事を思い出した。


「荷物!」


 慌てて駆け出したエリックが元の通りに戻り荷物を隠した茂みを探したがそこに荷物はなかった。場所を間違えたのかと思い周辺の茂みをしらみつぶしに調べたが、どこにも荷物の姿はなかった。

 エリックの背中を嫌な汗が流れる。


「ま、まずいかも……」


 膝をつきうなだれるエリック。今度こそ院長先生に殺される…。さすがにあの院長がこの失態を許すとは思えない。


「あ、あの」


 後ろを振り向く。もしかして荷物をと期待したが、そこに現れたのは先ほどのメイドの女性だ。


「先ほどは、お嬢様をお助けいただきありがとうございました」


「い、いえ。こちらが勝手にした事ですし、ほとんどエクソシストの方のおかげですから」


「ですが、そのエクソシストの方が、あなたが時間を稼ぎ、隙を作ってくださったのでお嬢様はお怪我もすることなく助かったと言っておりましたよ」


 確かにそう言えばそうなのだが、エリックは自分が役に立てた気がしない。それよりも荷物がなくなった事でエリックの気持ちはそれどころではない。


「何か大切な物をなくされたのですか?」


「あ、いえ。ここに荷物を置いていたのですが、どうやらなくしてしまったようで……。でも、だ、大丈夫です。お嬢さんが助かってよかったですね」


 実際には、何ら大丈夫ではないのだがエリックはそれを口にできない。


「それは大変申し訳ありませんでした。大切な物だったようですね」


「あ、お使いの途中でしたので、これで失礼します」


 エリックは、せっかく声をかけてくれているメイドの女性の話し聞くこともなく足早やに立ち去った。後ろでメイドの女性が何か言っていたが、すでにエリックの耳には届かなかった。


 走り出した先で呼吸を整える


「ど、どうしよう……」


 公園のベンチに座り、この後の方法を考える。だが、どう考えてもエリックに解決する方法は思い浮かばない。そして気がつけば夕日が影を落としていた。


 とぼとぼと孤児院に帰るエリックの足取りは重い。決して怪我や痛みのせいではないが、孤児院までの1歩はエリックにとってこれまでになく重いものだった。


 何度ついたかわからないため息を吐き、孤児院の門を潜る。考えた言い訳は、数えきれないが、エリックは嘘をつくのが嫌だった。どこか諦めとも自虐的とも思えたが、すべて本当の事を院長に話すつもりで院長室のドアをノックする。


「エ、エリック・アネルカです」


「入れ」


 地獄への扉が開かれた。エリックは内心本当に地獄がそこにあると覚悟した。


「どうした? 使いは済んだのか?」


 エリックは、床に手をつき頭をさげる


「に、荷物をなくしてしまい。お届けできませんでした」


 ガタンと院長が座っていた椅子が後ろに倒れる。エリックは院長の顔を見ることができない。おそらくそこに悪魔のような顔をした院長がいるだろうから…


「な、なんだと……。に、荷物はどうしたと言うのだ?」


「ま、街で襲われていた少女を助けるために一度荷物を茂みに隠しました。少女を助けた後、戻ったときにはそこに荷物はありませんでした」


 エリックは覚悟した。明らかに院長の反応は異常だ。わなわなと震える足元を見るだけで院長の怒りの度合いがわかる。


「エ、エリック覚悟はできているな!」


 今日が自分の最後の日になるかもな…エリックはガタガタと歯が震え身体もこれから始まる暴力を思い出すように震えさせた。

 エリックと院長の間にあったテーブルを蹴るようにどけた院長がエリックに迫る。そして、意味もわからないままエリックは潜ったドアに向かって吹き飛ばされた。院長が力一杯エリックを蹴り上げる。そこからはもう嵐のような蹴りがエリックの身体を打ち据え、手足も踏みつぶされる。すでにどこが痛いかではなくどこもかしこも痛い……。


「うぇっ……」


 口からドロリと血があふれる。内臓のどこかが悲鳴を上げている。


「お前はどこまで儂を怒らせれば気がすむのだ」


 その怒りに院長の額に浮き上がった血管がぴくぴくと動く、すでに意識が遠のきつつあるエリックの目には不思議とその血管が見えた。


(さすがにこれ以上は死ぬかもな……)


 エリックがそう思い、意識を手放そうとした時、エリックの背後のドアが開く。


「なんだお前は?」


 院長が入ってきた男を怒鳴りつける


「おいおい。なんて事してやがんだこの親父は」


 この声は、どこかで


「き、貴様は何のつもりだ!」


「俺は、ポーカーさんだ。このくそ親父が無茶しやがって」


 エリックを抱き起しながらフェルガノを睨む。


「ここは、儂の孤児院だ! 無断で入る事は許さん!」


「ああ~ん。何が許さんだ。その孤児院の子供を暴力で支配するお前が偉そうに」


「き、貴様こそ。勝手になにを言っておる。そもそもお前にとやかく言われる筋合いはない。さっさと出て行け憲兵を呼ぶぞ」


「ああ。俺は憲兵を呼んでも構わないがな。だが困るのはお前じゃないのか?」


「な、なにをいっておる」


「お前。自分が何をなくしたか、わかっているのか?」


「な、なんのことだ」


「お前が、こいつに運ばせたものだよ」


「……」


「お前、かなりまずい事しているな」


「ほ、本当に憲兵を呼ぶぞ」


「だから呼ぶなら呼べよ。困るのはお前だろ」


 フェルガノの額から汗が流れる


「アルティール家は、すでにお前を切り捨てたぞ」


「なっ!」


「お前が一方的に送ってきたものであってアルティール家は一切関与していないとさ」


「そ、そんな」


「終わりだよ。お前は」


「儂が…なぜこんな事に」


 フェルガノはポーカーに抱かれるエリックを睨む。


「こ、こいつが、こいつさえヘマさえしなければ」


「こいつのせいにするなよ。おーい。もうそろそろこいつを拘束してくれ」


 ポーカーが後ろに声をかけるとドアの向こうから憲兵が数人現れる。


「お前は……」


「俺はエクソシストだよ。まあ、今日はちょっと無理に頼んで憲兵に付き合わせてもらったけどな。さあ、もういいだろうお前は豚箱がお似合いだ。罪状は、貴族への違法取引を持ちかけた賄賂、孤児院での暴力行為、その他もろもろだ。後は審問を受け素直に話せ!」


 憲兵がフェルガノ院長を拘束する。憲兵に連れられたフェルガノはがっくりとうなだれている。これから行われる審問は、対悪魔にも使われる代物だ。最早言い逃れはできないだろう。


「さて、それにしてもよくここまで殴られたもんだな」


 すでに意識を手放している少年の顔を身体を見る。調べればまだ10歳、ようやく少年の面影を見せ始めたばかりの子供だった。


「死んでいないよな?」


 心配したポーカーは、エリックの心臓あたりに耳をつけるしっかりとした脈動がポーカーの耳に聞こえた。

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