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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
14/15

14.

 荷解きと荷物の整理に時間を要したが、ようやく眠れるだけの荷物を整理し終えた2人は、シャワーを浴びると着替えそれぞれの部屋に向かう。

 さっきまで親密に訓練の事やアブソープの事を相談していたが、いざ寝る段階になると変に意識してしまい会話がぎこちないものとなったからだ。


 翌朝、2人はいつものように早起きすると着替えて外へ出る。


「屋外練習場でいいね?」 


「ええ。あそこなら最低限身体を動かせるしいいと思うわ」


 2人は、小走りに中枢から屋外訓練場に向かう。中枢の門は、24時間体制で警備されており、警備をしていた兵士に挨拶すると2人はまっすぐ屋外訓練場へ走る。


 先日、試験で走った外周を速度を徐々に上げながら走り続ける。


「これ、何か負荷を加えた方がいいかもな」


「でも何かいいものあるかしら?」


 負荷をかけるにもそれはなんでもよいわけではなく、実践で意味をなさない訓練は2人が望むものではない。2人が、速度は維持しつつも相談して走っていると不意に2人を見ている男性が目についた。

 視線があきらかに自分たちに向けられているので気になった2人は


「あの何か?」


「ああ。訓練を続けてくれていいぞ。お前たちの動きを見せてもらっているだけだ」


「失礼ですが、あなたは?」


「俺は、ボンド・グエイブだ。中枢で武具の技工士をしている。バルトからお前たちの武具を作るように依頼されている。今日はたまたま散歩中にお前達を見つけたから様子を見ていた」


「自分たちの武具ですか?」


「お前たちは、アブソープを控えているのだろう? ならそれには武具が必要だ」


「すみません。まだ座学も受けておらず、詳しい話しは聞いていないので、よければ説明いただけませんか?」


「まあ。入所して1週間もしないうちにエキスパートまで来ればそうだわな。エクソシストが使う武器を見た事があるか?」


「何度かあります」


「ならその武器には、マナストーンが埋め込まれているはずだ」


「もしかして宝石のようなものですか?」


「ああ。マナストーンは、青い宝石のような石なんだが、アブソープにも使用するマナを抽出するのもこのマナストーンだ」


 懐から小さな青い石を取り出して2人に見せる。


「綺麗……」


「これが、お前たちが目指すエクソシストにとって最重要な物だ。発掘量が少なく十分に供給できていないから好き放題使えるわけじゃない貴重な物だ」


「これを武具に埋め込むことが、アブソープでどんな意味があるのですか?」


「この石に宿るんだよ」


「宿る?」


「天使が宿るんだよ。アブソープは、天使との契約儀式だからな。お前たちにその資質があるならば天使がお前たちの武器に宿る」


「悪魔を討つ力を得られるのですね?」


「そう言うことだな。後は、お前たちがどこまで認められるかだ。天使が、何を基準に力を貸し与えてくれるのかは俺にはわからんが、引き出せる奴は上位の天使の力を借りることができる」


「武具はどのような物でもよいのですか?」


「かまわない。ただ、今日お前たちを見てまだ成長期だと感じた。これからまだ身体もでかくなるだろうしな。最終的な武具は、成長がある程度止まった時に作る事にしてそれまでは、仮の武器を使ってもらう事になるだろう。マナストーンさえ移せば武具は変わっても問題ないしな。今日時間があれば俺の工房に顔を出してくれ」


「わかりました。必ずお邪魔させていただきます」


「すっかり訓練を止めちまったな。訓練に戻ってくれていいぞ。俺も散歩を続けるからな」


 2人は、ボンドに頭を下げると訓練にもどる。2人が再び走りだしたのを横目に捕えながら


「ありゃすげえな……」


 一人事を言うとボンドも散歩を再開する。



 朝の訓練を一通り終えた2人は、シャワーを浴びて着替えるバルトを尋ねる。バルトから当面午前中は、座学を受けるように指示された。


 2人は。中枢の門を潜り中枢の外に出ると、他のコースの者と一緒に座学を受けるべく教室へと入る。この教室では、悪魔学と言うベルキュリアらしい座学を受けることが可能だ。

 実力は、エキスパートと評価されたが、座学はまだ他の者とほとんど変わりはない。教室に2人が入ると周囲の者たちの視線を一手に引き受ける事となる。

 そばにいた男が


「お前らもう上のコースに行ったって本当か?」


 名乗りもせずに確認してくる男にリーズの顔が曇る。それを察してかエリックが前にでると


「申し訳ないですが、詳細は話せないのです。ご質問はご遠慮願います」


 エリックの答えに明らかに不満顔となった男が


「なんだよ。もう俺達とは違うっていう事か? ずいぶんと偉くなったもんだな」


「単にコース分けで別のコースになっただけでしょう。それに自分たちは偉くなったつもりなどありませんよ」


 エリックも呆れ気味に対応する。嫉妬や妬みと言ったものをある程度覚悟はしていたが、初日からこれではため息のひとつも出ると言うものだとエリックは考える。


「お前達そろそろ席につけ」


 教室に入ってきた講師が、そう言うと皆はそれぞれの席につく。リーズとエリックも空いている席に腰かけた。


「今日からお前らには、悪魔学について学んでもらう。講師のハルエン・スピーリオだ。他の講義と違いベルキュリアの悪魔学は、独自のものだと考えてくれ。これまでお前達の先輩が集めた情報を蓄積し確認された事をお前達後輩に伝達する事が講義の目的だ」


 ハルエンは、教室の黒板に文字を書いていくと振り返り参加者を見渡す。


「お前達の中で悪魔を直接見たことがある者はいるか? いたら手を挙げてくれ」


 エリックたちも含め、半数近くの者が手をあげる。


「およそ半数は、悪魔を見たことがあると言うことだな。まずは、悪魔の定義についてだ。今、悪魔を見たことがあると手を挙げた者に聞くがその悪魔の姿はどんなものだった?」


 手を挙げた者たちもきょろきょろと周囲を見る。


「人型の悪魔を見た者は手を挙げてくれ」


 エリックと数人が手を挙げる。だが、手を挙げた者たちの何割かと言った数だ。


「最も多いのが、人型の悪魔だ。現状確認されているタイプでは最も種類も多い。次は、獣型の悪魔を見た者は手を挙げてくれ」


 リーズを含め再び数人が手を挙げる


「人型についで多いのが獣型の悪魔だ。犬や狼、熊のような型も報告されているな。最後にそれ以外の悪魔を見たことがあるやつはいるか?」


 数人が手を挙げる。


「すまんが、今手を挙げた奴は、どんな悪魔を見たか言ってくれ」


 ハルエンと視線が合った男が立つと


「はい。自分が見たのは、植物のような悪魔でした」


 ハルエンは、次の者にも発言しろと視線を送る。


「はい。私が、見たことがあるのは闇と言うか雲のような悪魔でした」


「まあ。こんなところだな。今、聞いたように悪魔にもさまざまな型がいる。細かく分類しての説明は、後日時間を取るが、大きく分けると人型、獣型、植物型、無機物型と4つに分類している」


 ハルエンは、黒板に4つの型を書いていく


「これだけの事すら全員が知っているわけではない。つまり、我々は悪魔の事をほとんど知らずに恐れ、そして戦おうとしているんだ。相手の大きさは? 相手の弱点は? 相手に有効な武器は?」


 皆が真剣にハルエンの話に耳を傾ける。それだけ関心も興味もある話しだ。


「お前達には、これから時間をかけながら悪魔1体1体についてベルキュリアが確認している情報を渡す。この情報は、何度も言うがお前達の先輩が命をかけ集めたものだ。そして、お前達もこの先、悪魔の新たな情報を得た時には、それをここに持ち帰り後輩へとつないでほしい。その積み重ねこそがいつか悪魔達に勝利するための力となるだろう」


 詳細な情報を得るには、直接戦う以外に方法はない。


「君たちには、この情報の重みを理解し、先人たちに恥じない行動で勉学にあたってほしい」


 命をかけて手に入れた情報をいい加減な気持ちで取り扱う事のないようにと言うハルエンの言葉は、決して軽いものではない。


 悪魔学の講義で昼寝するような不心得者は許されないと言う緊張感が受講する者達に適度な緊張感を持たせている。


 この後もハルエンの講義は、1時間に及んだが、皆私語することもなく集中して聞いていた。講義は、あっと言うまに時間が経過し、ハルエンが教壇から降りるとこの日の講義は終了となった。

 その後、悪魔学以外の戦闘訓練の講義などを受け午前中の座学を終える。


「知らない事が多かったわ」


「ああ。やはり、専門的な知識は重要だね」


 2人が座学を終え教室を去ろうとすると再び男が絡んでくる


「なんだよ。エキスパートのお前らには必要がないんじゃないのか?」


 リーズがムッとするが、この男は絡む事をやめない。何が彼をそうさせるのかエリックには理解できないが、毎度絡まれるのも遠慮したい。

 どうしたものかとエリックが内心考えていると


「男の嫉妬や妬みはみっともないからやめてほしいのだけど」


 リーズがしびれを切らしたのかはっきりと言った。言われた男も図星だったのかわなわなと震えるようにしているが、リーズは悪びれる様子もなく


「正直、あなたとは話したくもないから2度と声をかけないでもらえないかしら?」


「なっ……」


「エリック。もう行きましょ」


 リーズは、エリックの手を取ると引きずるように男から遠ざかる。後ろの方でクスクスと笑い声が、聞こえたが、おそらく打ちのめされた男への失笑だろう。


「良かったのかい?」


「今の対応の事?」


 エリックは、少し心配してリーズに聞いたが


「あのくらい言わないとああいうタイプの人間は、気がつかないのよ。適当にあしらっていたら、きっとしつこく絡んでくるわ」


 確かにいちいちつっかかれても気分のよいものではないとエリックは思った。


「それより、この後は、ボンドさんの所へ行くんだからそっちの方が重要よ」



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