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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
13/15

13.

「色々とお世話になりました」


「まさか入寮の3日後に引っ越す人がいるとは思わなかったわ」


 退寮の挨拶をする2人にゼノビアも困惑している。


「普通はこの寮で色々な経験をするのですが、あなたたちは駆け足で進んでしまうのですね」


 普通ならこの寮で1年から2年くらい訓練を受け先に進むのが一般的だ。


「精一杯頑張ります」


「ええ。未来はあなた方若い人が築くのですよ」


 ゼノビアに送り出された2人は、エキスパートの証であるブレスレットを腕にはめ中枢へ向かう。荷物は後で係の者が運んでくれることになった。

 大きなベルキュリアの敷地の中でも中枢は、厳重な仕切りが作られ一般の者は近づく事を許されない。中枢には、アブソープを行う教会設備や技術開発を続ける研究棟など、エクソシストの根幹となる機関が置かれ日夜研究が進められている。

 中枢に設けられた門は1つしかなく出入りは、すべてこの門を通る必要がある。門は、職員が詰める建物の側にはあり、24時間警護の兵士が立ち侵入者を防いでいる。

 2人は、門を守る兵士にブレスレットを見せると通行を許可された。


「なにか物々しいわね」


「ああ。こんなにも厳重にするのだから。それだけ重要な物が多いのだろうね」


 エキスパートに移った事で2人の話し方は、リーズの希望通りに戻された。この先でリーズとエリックの関係をとやかく言う者はいないだろうと考えたからだ。


「確か、バルトさんが案内するって言っていたわよね」


「あそこかな?」


 エリックが示した方向をリーズが見るとそこには見た顔があった。向こうもこちらを見つけたようでこっちへ手を振った。


「ごめんごめん。今、探しに行くところだったんだ」


「大丈夫です。今2人で来た所ですから」


「じゃあ。君たちの住まいと中枢の設備なんかについて案内するよ」


 バルトに連れられた2人は。中枢の中を歩くすれ違う人の目もどこか違い2人は時にどきりとした。


「あの……」


「どうしたい?」


「すれ違う人の中にとても強そうな方がいるのですが」


「ああ。そりゃ当然だよ。この中には現役のエクソシストも多いからね。でもどうしてわかったんだい?」


「その方の動き方と言うか姿勢と言うか。うまく言えませんが、立ち振る舞いに隙がない方がいましたので」


「そうか。君達は相手の力を読むこともできるのか。さすがポーカーさんが指導しただけはあるね」


 指導に当たっていたのが先輩だと思ったのかバルトは嬉しそうに言う。だが、実際には、ポーカーの指導で身についたものではなかった。2人の創意工夫の中で発見したものだ。


「ここだよ」


 紹介された住居を見せてもらうと、寮とはずいぶんと違う。


「あのここに住むのですか?」


「そうだよ。エキスパートになった者にふさわしい住居ってことだ」


 部屋が2つあり、キッチンも浴室もついている部屋がもらえると聞きエリックは驚いた。


「あの……」


「どうしたい?」


 リーズが提案したのは


「私達はまだ13歳ですし、このような大きな部屋は必要ありません。ですから私は、エリックと一緒にこの部屋を使ってはいけませんか?」


 エリックは少し驚いたが、バルトは


「そう言われてみれば君達は、まだ13歳だったね。それに確かトリスタン様のお屋敷で一緒に住んでいたと言っていたね。じゃあいつでも君たちが望めばもう1軒使えるようにしておくから、それまでは2人で住んでかまわないよ」


 リーズの提案はあっさりと通った。


「いいのかいリズ?」


「いいの。あんなに広い部屋で一人でいても寂しいだけだし」


「リズがいいなら僕は構わないけど」


「まあ、君達なら問題は起こさないと思うけど男女関係だけはちゃんとするんだよ」


 バルトに釘を刺される


「大丈夫です。僕は彼女の近習としてトリスタン様からご指示いただいていますので」


 バルトもやれやれと言った顔をする。


「なら荷物はここにまとめて届けるように言っておくからね」


バルトは、側で何かの作業をしていた職員を呼び止めると荷物の件を指示していた。


「いいのかい?」


「何が?」


「部屋の事だよ」


「いいのよ。これで訓練の相談も座学の予習も2人でできるから」


「確かにそれはいいな。互いに部屋を行き来すれば結局同じ事を言われるだろうしね」


 納得するエリックにリーズはほっとする。


「さて、部屋の事はとりあえずいいね。じゃあ、さっそく案内しようか」


 バルトに中枢の中にある建物の目的や研究している事についてレクチャーを受ける。そして1つの建物の前に来ると


「ここだよ。君達のお目当ての場所は……」


 独特の雰囲気を持つその建物は、あきらかに他の建物と作りも違う。


「ここが教会ですか?」


「すごい……うまく言葉で言えないけど何か雰囲気が……」


「ああ。今日はまだ許可が出ていないから入れないが、許可が出れば君達は、ここでアブソープを受けることになる」


 2人の視線が、教会の入り口の先へと向かう。


「焦らなくてもちゃんと受けることができるからね。今日は他の施設も見るからそろそろ先へ行くよ」


「は、はい」


 2人は、名残惜しそうに教会を離れる。その様子にバルトもくすりと笑う。その辺が子供だなと…


「次は、どこに行くんですか?」


「次は、君たちが実践訓練を行う場所だ」


 3人がしばらく歩くとドーム型の建物が現れる。3人は、そのドーム型の建物に入ると中には、訓練中だろうエキスパートの面々の顔がある。


「バルトさん。そいつらか? 期待のルーキーってのは?」


 バルトにそう聞いて来たのは、身軽そうな装備をした小柄な男だ。


「ちょうどいいね。紹介するよ。今日からエキスパートに参加しているリーズとエリックだ」


「リーズ・トリスタンです」

「エリック・アネルカです」


「ああ。俺はリボット・ドレイカーだ。よろしくなルーキー」


「「よろしくお願いします」」


「それにしても13歳で、エキスパートとはな。俺も若い方だと思っていたんだがあっさりと抜かれたか」


「君達が入るまで、リボットくんとレイアくんの2人が最年少だったからね」


「こちらには、何人くらいいらっしゃるんですか?」


「エクソシストとしてすでにここを出た者以外には、ドレイクとメイリアの2人がエクソシストとしてすでに認められている。リボットくんとレイアくんは、間もなくエクソシストとして認められるだろうね。他にアブソープには失敗したが、実力のある戦士にハロルドとメイガスがいるから今のエキスパートには君達を入れて8人いる事になるね」


「そんなに少ないのですか?」


「研究所にいる職員や教会の職員などを含めると人数はかなりいるけどね。エキスパートになれるのは、ほんの一握りだってことだよ」


「バルトさん。こいつらせっかく見学に来たんだろ。実践はしていかないのか?」


「今日は案内だけのつもりだ。それに君の得物は短剣だろ?」


「そりゃ残念だな。そのうち一手手合わせ願うわ」


「はい。よろしくお願いします」


 エリックが元気に答える。


「それで、2人の得物はなんですか?」


「僕は、長剣ですね」

「私は、刺突剣を使います」


「ってことは、エリックは、ドレイクかレイア、ハロルドやメイガスあたりが参考になるかな。レイアの長剣はなかなかなもんだぞ」


「レイアさんと言うのは女性の方ですか?」


「ああ。ここのホープだな。歳は17歳。すでにコンタクトにも成功している見習いエクソシストだ」


「リボットくん。君だってレイアくんと並んでホープと呼ばれているだろう。だけど、彼女は確かに優秀だね。まあ、ここにいれば嫌でも顔を合わせる事になるからその時に挨拶すればいいさ」


「リーズは、刺突剣か。なら、話しは早いな。同じ女性でメイリア嬢がいるからな。彼女も刺突剣使いだから参考になるだろう」


「メイリアさんですね?」


「ああ。彼女は、ちょうどこの前にドレイクと一緒にエクソシストとして認められたばかりだ。間もなくここから巣立っていくから、ここにいる間に色々と習ったらいいよ」


「エクソシストには、どうすればなれるのですか?」


「そうだな。アブソープに成功した後、ある程度使いこなせるようになれば認められるんですよねバルトさん」


「コンパス値が、最低でも30は欲しいからね。せっかくコンタクトしても同調率が低いと意味がないだろうしね」


 聞きなれない単語が出て2人は首を傾げる


「君達はこれから習う事だから急ぐ必要はないよ。それに君達は座学も一通り受けなければならないからね。どうやっても座学を終えるには1年以上かかるからその間に色々な事を勉強してほしい」


 2人は頷く。焦っても力を得ることはできない事は理解している。


「何よりもお前たちが、まずアブソープに成功してからだな。それができなきゃ戦士としてやっていくしかない」


 リボットが、真剣な顔で言う。エキスパートに来ても必ずしもアブソープに成功する保証はない。


「はい。わかっています」

「理解しています」


「バルトさん。2人はいつアブソープを受けるのですか?」


 リボットが聞くと


「所長の許可が下り次第行う予定だよ」


「来てそうそうにアブソープに挑戦する奴は、これまでにもいないからな。俺やレイアも最速で初級中級と駆け上っていったが、エキスパートに来るまでに3年かかったんだ。ましてエキスパートで1年訓練してから覚悟してアブソープを受けたんんだぞ。前の日は、緊張と興奮で眠れなかったからな」


 将来を決めるアブソープは1回だけしか受ける事ができない事を聞いている2人は、すでに覚悟もできているつもりでいたが、改めてその意味と重みを理解できた。


「さあ。そろそろ他の施設も見て回らないと明日も案内になってしまうから行くよ」


「はい。これからよろしくお願いします」


 2人はリボットに頭を下げるとバルトに連れられて、研究棟や研修施設を回った。ようやく、一通り見学を終えると今日は、荷物整理と言う事になり、2人は新しい住居にもどった。すでに荷物は運びこまれており、後は荷解きをすれば良いだけだ。


「リズもお疲れ様」


「ええ。エリックもね」


「まずは、荷物を運ぶよ。リズはどっちの部屋を使うんだい?」


 2つある部屋のうちの1つを指さしたリーズに従いエリックは、荷物を軽々と持ち運び始める。


「ありがとね」


「これくらいは、リズの近習としては当然だよ。バルトさんの話しだと食事は、食堂もあるようだけどどうしようか? ここにはキッチンもあるから食事も作れそうだけど」


「時間がもったいないから食堂で食べましょう。それよりも少しゆっくりと相談したいわ」


「今日のおさらいかい?」


「ええ」


 2人は、荷物整理を最低限済ませるとバルトに案内された食堂で食事を食べる。たまたま、食堂に居合わせた中枢の職員に自己紹介をすることになり、落ち着かない食事となったが、食事はすぐに済ませて2人は部屋に戻った。


 荷解きを再開しながら2人は、相談を始める。


「エリックは、リボットさんの武器を見た?」


「武器って短剣だろ?」


「何か気にならなかった?」


「業物だとは思ったけど特に……」


「ポーカーさんが持っていた剣と同じような宝石がついていたわ」


「あ、そういえばついていたね」


「もしかするとアブソープに関係あるかと思って」



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