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その剣は誰がために  作者: 山と名で四股
12/15

12.

「お嬢様。おはようございます。昨日は眠れましたか?」


 ごった返す食堂の入り口でリーズを見つけたエリックはリーズに声をかける。


「そうね……そう言っていたもんね」


 エリックの言葉使いに親しみがなくなり、リーズはショックを受けている。事前に確認はしていたが、実際の変化に戸惑っているのだ。


「朝食後には、いよいよ入所式ですね」


「ええ。いよいよね」


 2人は、緊張感を隠しながら朝食をとる。


「なあ聞いたか? 入所式の後には毎年、基礎体力試験があるらしいぞ」

「ああ。俺もさっき他の奴から聞いた」

「最初のコース分けは、その成績によるってよ」


 2つ隣の席なのに声が大きいために嫌でも2人の耳に入る。


「だそうですよ……」


「みたいね……それであなたはどうするの?」


「そうですね。まず、手抜きは致しません。それはここで一日も早く認められる事が、自分たちの最良だからです」


 エリックが言いたいのは、この養成所で一日も早く質の高い訓練を受けるためには、力を隠すべきではないと言う事だ。


「そうね。周囲の人達を見ているとこの中で何年も訓練するのは、少し嫌かも……」


 リーズは、周囲を見てため息をつく


「では、まずは、入所式へ向かいましょう」


 二人は、時計を見ると食堂を後にする。寮の玄関には、すでに入所式に向かう者があふれていた。


「確か入所式は、講堂でしたよね」


「そう言っていたわ」


 2人は、人込みを避けるように講堂へ向かう。大きな講堂の中には、舞台を見上げる形で席が設けられており、壇上に立つものを見下ろすようになっている。見つけた席に座った2人は、入所式が始まるのを待った。しばらくすると係の男が壇上に現れ、「静かにしろ。これから所長が挨拶する」と言うとざわついていた講堂が静かになった。


 1人の男が壇上に立つ


「エクソシスト養成所ベルキュリア所長のヘンドリック・ルキソールだ。まずは、入所してくれた君達に敬意を払おう。人類の存亡をかけた悪魔との戦いに臆することなく、こうして参加してくれた君達を私は誇りに思う。だが、この養成所は、そこらへんにある学校とは大きく違う。戦う者を養成する以上、こちらも全力で君達を鍛えなければならない。それは君たちが悪魔を倒し生きて戻ってもらうためだ」


 所長の話に皆が緊張しているのかごくりとつばを飲む音が聞こえる。


「だから皆には、はっきりと言おう。死ぬ気でついてこい。我々も全力で君達を指導する。以上だ」


 拍手もなく所長の挨拶が終わる。皆は覚悟を決めたかのような顔をしている。


 壇上に所長の代わりに登った係員が、この後のスケジュールについて説明を始める。


「この後、入所者には基礎体力試験を受けてもらいます。各自、運動着に着替え屋外練習場に集合するように」


 聞いていたとおり、基礎体力試験が行われる事がわかる。


「基礎体力試験の結果は、この後のコース分けの参考にするつもりだから各自全力で挑むようにな。何か質問はあるか?」


 会場には200名近い入所者がいるが、その中から1名が手をあげる。


「質問よろしいですか?」


「かまわない」


「試験の結果でコース分けをするとのことですが、コースはどのようなものがあるのですか?」


「基礎体力が不足する者は、初級コース。基礎体力がある程度ある者は、中級コース。基礎体力が一定以上あると確認できた者は、上級コースと振り分ける。その上で、君達にはその上にあるエキスパートへ挑戦してほしい。エキスパートは、エクソシストとなるための条件となるコースだ」


 皆がエクソシストの名前を聞き興奮したのかざわつき始める。


「他に質問がないならすぐに着替えて集まってくれ。人数が多いから時間がかかるからな」


 係員の男が舞台を降りるとぞろぞろと入所者は、寮へ戻り着替えると屋外練習場へ向かう。間もなく屋外練習場に集まった入所者は、これから始まる基礎体力試験に向けて身体をほぐし始める。

 エリックもリーズも皆と同じように柔軟体操を始める。


 屋外練習場には、すでに係員が集まっており、準備は整っている。


「皆聞いてくれ。今日の試験の担当をするバルト・ホフマンだ。これから基礎体力試験を行う。これから3つの試験を行うが、皆には全力で参加してほしい。まず、最初の試験は持久走だ。君達の前にあるグラウンドの外周は500mほどある。そこを制限時間内に何周できるかを計らせてもらう。1度に20人ずつ計るからわかれてくれ」


 係員が、参加者を分けていくと


「同じ組みたいね」


「そのようですね」


 2人は同じグループとなり、一緒に走る事になる。そして、いよいよ試験は開始される。2人のグループは最後から2番目、まず最初の組が走りだした。


「どう思う?」


「駆け引きですかね? それとも…」


 8周するものが最高で1グループ目は、時間となる。続けてスタートした2組目も大きく成績を伸ばせずに試験を終えた。その後も試験は続き5組目に12周する者が出て、皆が驚きの声をあげると


「どうやらこんなものですね」


「それでも全力で行くんでしょ?」


「それが、エクソシストになるための最速の手段であるのなら」


 リーズも覚悟を決めたように頷く。そして、2人のグループの順番が来る。係員の合図に試験が開始されると2人は、勢いよく飛び出した。観戦している周囲の者は、ペース配分もできない素人だと馬鹿にするように見ていたが、2人の速度は周回を重ねていっても落ちることはなかった。10周が過ぎても速度を落とさないで走り続ける2人に皆の視線が向かう。残り時間は、まだ十分に残っている…。11周、12周、13週、2人は2人だけの世界を走るように快走を続ける。


「負けないんだから」


「それは、最後に勝ってから言ってください」


 残り時間がわずかとなり、そこから2人は、訓練で何度も繰り返した持久走と同じように加速していく。リーズもエリックに何とかついて行っていたが、最後にさらにスパートをかけたエリックはリーズをぐんぐんと引き離していった。


「18周……」


 リーズが時間ぎりぎりで18周に達し、エリックは半周ほど先に進んだところで時間となった。リーズとエリックの集計を行っていた係員にバルトが確認するが、係員は間違いなく18周していたとバルトに伝える。


 あまりの記録にざわつきが、収まらない中、2つ目の試験が始まる。


「次は、バランスの試験だ。練習場にある杭の上にどれだけ片足で立っていられるかを計測する。10分以上立っていたものは、その時点で終了とする」


 係員が、1人1人につき計測しては、次の者の計測へ移る。短い者は数秒で杭から落ちるため回転は速い。そして、2人の順番が来ると周囲は独特の雰囲気に包まれる。


「また、あいつらだ」


 誰が言ったかはわからないが、ほとんどの者がそう思っていた。2人は、杭の上に立つとピタリと止まったかのように立つ。2人は、ほとんど動く事もなく時間が過ぎていき、10分になった事を知らせる砂時計の砂がなくなった時に試験を終えた。


 その後に行われた3つ目の試験である素振りの試験も2人は、完璧にこなしすべての試験を終える。


「すべての試験が終わった。計測した数値などをもとに後日、コース分けを行う。今日はゆっくりと休み明日に備えてくれ。では解散!」


 バルトの声に皆が寮へ足を向ける。バルトは、2人の元に歩み寄ると


「君達2人には、ちょっと待ってもらおうかな」


「何か?」


「ああ。君たちの成績についてだ」


「はい?」


「最初に話したと思うが、この試験の結果でコース分けを行うのだけど、君達はすでに上級コースも十分に終えているレベルに達しているようだからその上のコースに推薦するつもりだ」


「それは、エキスパートにと言うことですか?」


 リーズが聞くと


「今から所長室へ行って所長に決めてもらう事になるからついて来て欲しい」


 リーズがエリックの顔を見るとエリックも頷く


「わかりました」


 2人は、バルトの後についてベルキュリア職員が詰める管理棟へ案内され、その2階にある所長室へと通される。


「バルト・ハフマンです」


「どうぞ」


 バルトに先導され所長室に入る。入所式で見たばかりだが、間近で見ると所長の威厳をより感じ2人は少し緊張する。


「この2人がどうかしたのか?」


 バルトに尋ねる所長に


「はい。本日、行われた基礎体力試験でこの2名が、過去最高記録を出しました。私の判断だけですが、すでにこの2人はエキスパートレベルまで達しているものと考えます」


「入所式早々にそのレベルか。見ればずいぶんと若いようだがいくつになる?」


「エリック・アネルカ リーズ・トリスタンは共に13歳です」


 バルトが答える。


「13歳でエキスパートか。しかし、本当にエキスパートまで達しているのか?」


「はい。各試験共に最高点の上、まだ余力もあるものとみております。君達も自信があるのだろ?」


「はい。それなりに訓練を続けてきましたので」


「誰に訓練を受けた? このベルキュリアの試験は、独特なものだ。それを最初から高得点を取れるのはベルキュリアの事を知る者から指導を受けたからだろう?」


「父の友人である。ポーカー・ヒストールさんに何度か指導を受けました」


 これには、リーズが答える。


「父? 確か君はトリスタンと言ったな。と言うことは、ガスタン・トリスタンの娘か。そして、ポーカーが絡んでいると言う事か…」


 ため息をひとつ入れた所長は、思考を巡らせるように2人を見据える。


「どのくらいの指導を受けた?」


「3年間で数回、訓練を見ていただきました」


「そうだな。奴にゆっくりと指導などしている時間はなかったな。となれば、指導は受けたがほとんどは自分たちで訓練をしていたのか?」


「ほとんどは独学です。ポーカーさんからは、基礎と…エクソシストとしての覚悟を教えていただきました」


 エリックの答えにヘンドリック所長もその意味を悟る。


「確か、北部戦線で重傷を負ったと聞いたな。戦場から戻ったのはお前達のためだったか…。となれば、必要な覚悟はできているな。いいだろう2名をエキスパートとして加える。但し、座学は他の生徒と同様にきちんと受ける事が条件だ」


 ヘンドリックの許可が出る。


「2名には、中枢への立ち入り許可とアブソープの権利を与える。住居も中枢に移れ、その方が何かと便利だろう。実技訓練の許可と武器の制作についても許可しておくから、詳しくはバルトに聞け」


 矢継ぎ早に指示が飛び2人は困惑するが、バルトが後で説明するよと2人に声をかける。


「2人の成長と今後の活躍を期待する」


 ヘルドリックに頭をさげると2人はバルトと共に所長室を退室し、1階にある部屋に通される。


「驚いたかもしれないけど、君達はエキスパートとしての許可を得た。まず、最初に身分証明替わりとなるブレスレットを渡すけど、取扱いには注意してほしい。ベルキュリアの中枢には、このブレスレットがないと立ち入る事はできないからね。後、所長が言っていたように寮を出て中枢にエキスパートの者用に用意された住居があるから引っ越ししてほしい。なぜ、こんなことをするかわかるかい?」


「秘密の保持ですか?」


「正解だ。君たちが進むエキスパートには、多くの秘密情報が集約されている。例え親子であってもその情報は漏らしてはいけない事になっている。後で誓約書も書いてもらうからね」


「わかりました。義務は守ります」


「そうだね。後は、引っ越してから案内したり、説明したりするから君達はまず引っ越しの準備だな。寮長には、僕の方から説明しておこう」


 


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