プレゼン~我が社に必要な人材は廃人である~
歴史ある黒い扉の前でわたしは息を小さくすった。
これから運命のプレゼンが始まる!
わたしは中からの声に導かれてゆっくりと扉を押し開けた。
みなさんは廃人、というものが何なのかご存知でしょうか。
何処かで聞いたことのある方も多いでしょうが、はっきり説明するのは言葉につまると思われます。
そう、廃人なんてそうそういないからです。
いたとしても、彼らは決められたテリトリーから出ず、修行僧のように淡々と自らの仕事を続けます。
つまり、一般人が出会える機会はそうそうないのです。
ですから、わたしはそんなみなさんに「廃人とは何か」をお伝えすると共に、廃人こそ我が社に必要な人材であり、その理由について説明していきたいと思います。
最初に説明するのは廃人の生活時間です。お手元の資料をご覧ください。
太陽の周期は24時間ですが、本来人間が持っている生活リズムは26時間です。
つまり、体の活動ラインを下回る形でわたし達は活動していることになります。
これはアリの集団に置いても同じ事で、全体の中の一部が順に休息をとることで集団が連続的な活動を行えているのです。
これは働き蟻理論といい、社会学と生物学の両面から実証されている事実であります。
しかし、廃人は生活リズムを26時間にすることによって個人で活動しうる限界まで能力を発揮しています。
通常なら体が異変を起こす所を彼らは静と動のメリハリをつけることによって健康を保っています。
これによって他人との間にズレを生じさせていきますが、年間28日分もの能率を向上させていることとなります。
また、廃人の休息時間は0です。
誤差の範囲で数秒のロスが存在するかもしれませんが、彼らは基本的に休みません。常に体を休ませない工夫を凝らしています。
資料3ページのゲーム内時間活動を見て頂ければお分かりかと思いますが、ゲームを長時間行う事によって眼精疲労、床擦れなどの悪影響が発生します。
これらの悪影響は筋肉量の低下と血流の減少を防ぐ事によって改善できます。
廃人はそれぞれ独自のメニューでトレーニングを行うと同時に情報収集を行い、体のリセットと並行して常に脳を働かせています。
体を回復させながら鍛える。資料にそのトレーニングメニューがあります。これは我が社でもぜひ取り入れて行きたいと考えております。
次に、廃人の反射速度についてです。
一般的な人間の反射速度は0.2秒(12フレーム)であることは広く知られていますが、廃人の反射速度は約0.1秒(7フレーム)です。
反射速度が高いため、問題を解決する速さやアイデアを産み出す速さもまた高いです。
事務処理という分野においては何よりも必要とされる能力であり、職業適性が高いとも言えます。
この問題解決能力によって様々な分野での活躍が見込めます。
なにより、ネトゲはアップデート毎に変化する厳しい環境といえます。なにより勝ち筋、高効率を実現してもそれが環境に影響を与えるやいなや、ゲームマスターによって対策されます。
つまり、個人でネットゲームのトップに立ち続けるということは常に手段を模索し、実践し続ける能力を備えていると言っても過言ではありません。
このように、廃人を我社に呼び込むことには様々なメリットがあることがわかります。
では、次にデメリットについてご説明したいと思います。
廃人とは性質上、常にトップを目指しています。ネットゲームは個人プレイ至上主義であり、自分以外はすべて敵です。
つまり、その高い能力とは裏腹に他人と意見を共有し議論するコミュニケーションスキルが足りません。
また、集団のために滅私奉公するという概念が無いです。
社会においては、数人が100の能力を発揮するより、多数が80の能力を発揮する方が結果を残せる場面も多々あります。
廃人は自分ひとりで完結しているため、発想や行動の過程を他者に伝える手段が乏しく、足並みを揃える行為、つまり足を止める行為を嫌う傾向があります。
さて、ここまでメリットとデメリットについてご説明させて頂きました。
要約すると廃人とは「高い能力を持つ子ども」ということです。どれだけ我が社に貢献するかは上司の腕前や周囲の環境、個人差が激しいですが、1度起動に載せてさえしまえば。我が社に莫大な利益を産むとわたしは確信しております。
以上で説明を終わらせて頂きます。後ほど質疑応答の時間とさせて頂きますので宜しくお願いします。
ご静聴、ありがとうございました。
「このプレゼンは不採用となりました。
貴君のますますの成長をお祈り申し上げます。」
日本語訳
「遊んでないで働け」