No.2 日焼け止めの呪縛なんて物は存在しない
第二話日焼け止めの呪縛なんて物は存在しない。
「はァ…」
俺は教室の端っこの席で一人溜息を付いていた。今日は学校の最初の平常授業の日。とは言ってもオリエンテーションデイなので、授業の説明や学校の設備などの説明をもう一回聞くことになるだろう。
今は朝のホームルームの時間だ。今日は最初の日なので、自己紹介とかをやるに違いない。
ガラガラガラ。プラスチック製の扉が開く音がする。
「はい、皆さんおはようございます。」どうやら俺たちの担任になる教師の様だ。
「私の名前は吉田修司。これからこの一年3組の担任を勤めさせてもらう者です。私は貴方達の現代文を教える事になります。」
現代文か…俺は考え込んだ。俺は文章の読解力は優れているものの、漢字力や語彙力が比較的十分ではないのである。
「えーでは自己紹介に入りましょう。」吉田先生がそう生徒たちに告げた。俺の名前は“さ”行から始まる紫藤。出席番号は17番である。
「…っです。」
今丁度16番の奴の自己紹介が終わった。今度は俺の番だな。
「皆さん、はじめまして。僕の名前は…」
周りからコソコソと囁き声が聞こえる。入学式の一件もあるのだろう。俺は色々な意味で目立っていたと言うことになる。ここは普通さを繕うべきだろう。
「えっと、僕の名前は紫藤洸也。趣味は特にないですが、あえて言うので有れば、生態学とかいいですね。いや、日常生活でよく見かける化学薬品の内蔵物とかも面白いです。」
みんなが黙ってしまう。それはそうだろう。面白くも何とも思わないからだ。大体こういう場合、人々はエンターテイメント的な要素を求めている。俺の入学式と今とのギャップに失望しているという所か。俺的には逆に理路整然として納得いくと思うのだが。
「ということで、此れから宜しくお願いします。」
「ちょっと待ったァ!!」
俺が自己紹介を終わりにしたその時、俺は前方で挙手をして立ち上がった少年をマジマジ見る事になった。
「そこの君!!やめなさい!!」
吉田先生が彼を止めに入ったがあまり効果がある様には思えない。彼はそのまま喋り続けた…人差し指で俺を指差しながら…
「紫藤!!お前は日焼け止めの呪縛に囚われている!!日焼け止めは必ずしも良い訳じゃない!!薬品に含まれている成分を調べるのが本当にお前の趣味ならば、いや、お前なら分かるはずだ!!」
周りの生徒たちが俺達を見つめている。中には見下すように此方を見つめる生徒もいれば、先生の様に唖然としているのもいる。
しかし、あの時の俺にはそんな事を考える余裕など微塵も無かった。
俺は叫んでいた。
「日焼け止めの呪縛なんて物は存在しないィィィィィィィィィ!!!」