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ラノベって可愛い女の子出しときゃ売れると聞いたので。  作者: 設楽 素敵
第二章 素人の苦悩は金にならない
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3


 作文コンテストのルールを列記しておこう。

 規定枚数は三枚。それ以上でもそれ以下でも駄目。

 手書きかワープロで打ち込むかは自由。

 テーマも自由だが、その形態は「物語」であること。

 投稿する際の名前はペンネームでも本名でも可。

以上、四点が大まかなルールになる。

「作文と銘打っておきながら、これ実質掌編コンテストだよね」

 と、最初に突っ込んだのは仏頂面の野々村廿里だった。

 作戦会議――に満たないお喋りの場が設けられたのは昼休みの図書室。利用者は相変わらずまばらで、そのどれもが孤立しているときた。そんな中、二人でいる俺たちの存在は浮いている。まあ図書室にわざわざ友人を誘うようなやつもいないか。

「いや、本当だよな。アドバンテージはこっちの方が大きいんだろうけど」

 なんか釈然としない。その辺はきちんと正しく書いておけよ、クレームもんだぞ。

 木士の力量は分からないが、曲がりなりにも文芸部に所属しているのだから全くの素人ということはないだろう。独学でやっている俺と廿里がどこまで通用するのかは楽しみだ。

「木士の言葉を借りるけど」

 廿里が不服そうに呟く。

「作家を目指している身としては、学校内の作文コンテストなんて簡単に一位を取らなくちゃ駄目だよね」

 俺は頷いて共感を示した。

 木士のように図に乗って堂々と宣言するような馬鹿はしないけど、思っていることは同じだった。

 作家という高次元の職業を目指している身として、大前提として日頃読書感想文や学校で課された差分しか書かないような層に負けるわけにはいかない。

校内作文コンテストで敗退するのと一次審査で敗退するのとでは全く違う。

 数十人規模のコンテストで一位を取れるようでないと、その十倍以上の規模の出版社のコンテストで勝てるわけがない。

 噂によれば、木士以外の文芸部部員も全員、このコンテストへの参加を決めているという。あちら側としても、お家芸の文章を扱う大会で他の連中に負けるわけにはいかないだろう。あっちからしたら野球部が素人から三振取られるような感じだ。

 双方、負けられない理由と意地がある。

 文芸部員の内の何人が作家を志しているかは知らないけれど、俺たちは無双ゲーの如く目の前に出てきた敵をバッサバッサと倒していくだけだ。

「ところで小中君はもう何を書こうか決めてんの?」

「いや、決めかねてる」

 正直なところを明かすと、掌編はあまり書かない。書いて短編だ。

 注釈を述べておくと、掌編と短編は全くの別物だ。掌編の方は枚数が厳しく制限されているため、物語の展開に限界がある。

 如何に短い文章でまとめるか。

 一つのシーンをどれだけ丁寧に見栄えるように書けるか。

 登場人物の掛け合いなんてやっていたら、作文用紙三枚なんてすぐに潰えてしまう。戦闘描写の次に得意だと自負している掛け合いが使えないとしたら、戦闘描写一本で行くのが王道になるわけだがここで問題。

「先生主催ってことはだ。教科書的な無難で優等生な作品が受けるんだろうね」

 廿里が俺の言いたかったことを先回りして代弁する。

 そうなのだ――戦闘描写がはてさて先生に受け入れられるのか。

 それ以前に、ライトノベルで戦えるのか。

「やっぱ文学っぽくないと……駄目だよなぁ」

「そりゃそうだろねぇ」

「お前書ける?」

「びみょー」

 と言って、廿里は後ろ髪の癖毛を指先でくるくるしたりして遊ぶ。

 俺だって前までは文学っぽいのを書いていたとは言え、すっかりライトノベル色に染まった作風を考えたら苦しむこと請け合いだ。

「定年迎えたばっかの爺さんが、初めて優先席に座る話でも書くか」

「おっ、それっぽい。受けそう」

 廿里はピシっと俺を指差す。

「だろう? ……でも俺としては、ここで文芸部との違いを見せつけておきたいのだよ」

「センセーショナルな掌編でも書きたいの?」

「そこまでは言わないけどさ……。文芸部のやつらは『ぶんがくっ!』みたいな作品を提出してくるだろうから、俺たちは敢えてラノベっぽいのを書いてもいいんじゃないかって」

 文学だらけの中に文学をぶち込んでも埋もれてしまうと思う。

「まあ文学って言っても定義自体が曖昧だからね。恋愛モノや人情モノとか色々だよ」

 だから文体を文学っぽくして、テーマをラノベっぽくしたらどう?

 と、廿里は提案するのだが、んーどう書いたものだろう。

「桜並木の街道を走り抜けると、私は得体の知れない何かと衝突した。体がかっとばされた打球のように軽々後方に飛ばされ、咥えていた角食が春の風に乗って宙に舞う。目を瞑り暗黒の世界に縛られていると、どこからともなく男声が聞こえた。ショックで幻聴が聞こえるようになったのかと憂患していたのも束の間、不意にごつごつとした手が私のそれを包み込んだ」

「ほら、口開けろよ――そう言って男は汚れた面を綺麗に削り取った残りの食パンを突っ込んだ、みたいな?」

「難しいな」

「難しいね」

 これだけの文章を考えるだけで、五分くらい黙ってしまった。

「あー、文学っぽい文章って難しいや。今日、明日で一本書けるかなぁ」

「やるしかないんだろ? 言い出しっぺのお前がそんなんでどうすんだよ」

 その後も作戦の方針は定まらず、各々の判断に任せるという結論に至る。最悪締め切りに間に合わない可能性も出てきてしまったのだった。


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